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カナリア諸島 Islas Canarias-1

カナリア諸島には10も原産地呼称があります。そのうち島全体が原産地呼称地域に認定されているのが、エル・イエロ、グラン・カナリア、ラ・ゴメラ、ラ・パルマ、ランサローテです。テネリフェ島には、アボナ、タコロンテ・アセンテホ、バーリェ・デ・グイーマル、バーリェ・デ・ラ・オロタバ、イコデン・ダウテ・イソーラの5つの原産地呼称があります。今回はそのうちのエル・イエロ島El Hierro、テネリフェ島Tenerife、ランサローテ島Lanzaroteに行ってきました。スペイン本土のイベリア半島よりアフリカ大陸に近い島々です。全て火山島。痘痕のごとく火山があります。

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エル・イエロEl Hierroに行くのは初めてです。空港の滑走路があまりにも短くて、今にも海に着陸しそうな感じで、ギリギリ着地。東京の我が家を出てから成田、パリ、マドリッド、テネリフェ北を経由して32時間以上かかって到着しました。エル・イエロ島はスペインの一番西の端にあります。石垣島と西表島の間ぐらいの大きさで、人口約1万人。カナリア諸島では一番小さな島です。そして新大陸が発見されるまでは、この島が世界の果てとされ、1884年までは子午線の基線、0度はエル・イエロ島の西の端にあるオルチーリャ灯台の地点とされていたそうです。

原産地呼称エル・イエロには島の北東部のバルベルデ‐エチェドValverde – Echedo

、中央を東西に走る山並みの北側のエル・ゴルフォEl Golfo、南側のエル・ピナルEl Pinar3つの地域があり、それぞれあきらかに景色が違います。

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空港に迎えに来てくれた統制委員会のガブリエル・ブランコさんは、すぐさま首都バルベルデValverdeの近くのボデガへと案内してくださいました。首都の近くとはいえ、すでに火山の様相。いきなり目の前にとんがり帽子型の火山と、その山肌が崩れた黒い断崖が!。ボデガ、エル・テソロEl Tesoroの畑はそのすぐ横でした。火山性土壌といわれなくとも、手に取ればわかります。目の細かい軽石が小粒になった砂利が敷き詰められているようなのが畑です。「これを持っていきなさい」とオーナーのフランシスコ・アビラさんが手渡してくれたのは、真っ黒な石の塊。大きさの割にすごく軽い石です。

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火山を背にして視線を挙げると目の前は海。大西洋が広がっています。畑は全て傾斜地。大西洋の強い風をよけるため、石垣で囲うのは基本です。

醸造所の前の傾斜したスペースにべったりセメントがはってあります。なぜか不自然な感じがしたので聞いてみると、「雨水を貯水槽に流し込むためです」とガブリエルさん。雨が降るのはまれなので、それを集めて溜めておくのです。島では海水を浄化して使っているそうです。ちなみに、飲めるけれど、おいしくないそうです。そんな島で大切なのが夜露をため込んでくれる軽石状の土壌です。

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畑には本土では聞かないような名前のぶどうばかりが植えられています。バボソ、ディエゴ、バスタルド、ブレマフエロ、トロンテス等々。「200年もののティンティーリャもあるよ」とフランシスコさん。カナリア諸島は火山性土壌なので、フィロキセラの害がなく、ぶどうの樹は接ぎ木しないため、長生きするのだそうです。

宿泊は島の北東部、バルベルデの郊外のエル・モカナル村の街道筋のホテル、Hotel Villa El Mocanal。部屋のテラスから大西洋が一望できます。

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翌朝は島の北側の海岸に出ました。少し行くと長いトンネルに入り、それを抜けると、別世界が。圧倒的な高さの、巨大な断崖絶壁。その裾はほぼ平地。さまざまな作物が植えられています。ここは島の北部の中心地、フロンテラFrontera地区、ゴルフォ渓谷Valle del Golfoです。島の中では一番広い平地があるところです。街道沿いにはパイナップルやパパヤ、マンゴの畑や温室がたくさん並んでいます。ここでは農業協同組合を訪問。そのワイン部門であるボデガはカンポ・フロンテラ協同組合Sociedad Cooperativa del Campo Fronteraといい、ぶどう栽培農家150軒を抱えています。

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ここの主役は白のベリハディエゴVerijadiego(ビハリエゴVijariegoともディエゴDiegoともいう)。今、一番売れているのはアフルタドAfrutado。フルーティという意味の軽い甘口の白です。これに使われる品種はバルマフエラ、ベリハディエゴ、グアル、バボソ。名前の通りフルーティで口当たりがいいワインです。ただ、個人的にはベリハディエゴとリスタン・ブランコの辛口白の方がシャッキリしていて好きでした。赤はバボソ。これは色も味も濃く、リキュールっぽさも感じられるワインでした。甘口はバボソ・ネグロとビハリエゴ・ネグロを使った赤でした。

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次は断崖絶壁系の景色を左に、島の西の端に近いサビノサ村に向かい、フアン・マヌエル・キンテロさんの畑を訪問。マルバシアが植わっていました。脇になぜか実だけがびっしり付いた、葉のないマンゴの樹が。今年は雨がほとんど降らなかったから葉が枯れてしまったのだそうです。彼のボデガ、ボデガス・キンテロBodegas QuinteroJuan Manuel Quintero
Guti
érrezは伝統的な酸化熟成タイプのワインを熟成しています。ひとつはシェリーでいえばオロロソ・タイプ。けれども酸味がしっかりしています。酸味が秀でているのは火山性の土壌のためだそうです。もう一つは自然の甘さが残った酸化熟成タイプ。ぶどうの糖度がしっかり上がるまで待って収穫するため、果汁の糖度が高く、発酵が途中で止まってしまうのだそうです。これも酸味がしっかりしているため、梅酒の古酒のような感じです。クリアデラはありませんが、使った分だけ新しいワインを注ぎ足しながら熟成していくソレラ方式です。フアン・マヌエルさんのお祖父さんから引き継いでいるものだそうです。「1年に1000本しかボトリングしないから、みんな仲間と飲んじゃうんだ、ハハハ」とフアン・マヌエルさん。「輸入してくれるんだったら、全部送ってあげる」と威勢のいい言葉に、「自分たちで飲む分がなくなったら困るでしょう!」とか言いつつ、何杯もお変わりしてしまいました。おいしかったです。

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 次はドイツ人ウベ・ウルバックUwe Urbachさんのボデガ。1990年から畑をつくりはじめ、95年にボデガを買い、96年から有機栽培を行っています。ここも例にもれずものすごい傾斜地なので、手入れは大変です。昨年突然奥さんを亡くしたウベさんは、全然畑の世話もできず、「今年は自慢できるワインがない」ととても寂しそうでした。

 

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さて、翌朝。最初はバルベルデの近くにある、昨日のフアン・マヌエルさんがホセ・フアン・メディナさんと二人で経営しているもうひとつのボデガ、バーリェ・ナオスValle Naos(Naos Ingeniería y Gestión S.L.)を訪問しました。こちらはスティル・ワインの白と赤をつくっています。畑には巨大な岩が転がっているかと思うと、軽石状の石があったり、粒状の石があったり、様々な形状、そして様々な色の火山の噴出物がごろごろ。でも、これがエル・イエロの畑なのです。

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 この島は50年ほど前まではぶどう畑だらけだったそうです。けれども今はポツン、ポツンと手入れされた畑があり、合間には見捨てられてしまった、雑草だらけの畑がいくつもあります。そんな先に海がかなり近く見えます。けれども「ここは海抜400mです。」とのこと。強い海風とも戦う畑でした。

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次は島の反対側に行きました。エル・イエロには火山地帯だけでなく、緑の森の地帯があります。松林やラウリシルバとよばれる照葉樹林原生林は、火山の跡ばかり見てきた目には、やわらかです。

 ここを抜けて到着したのはエル・ピナル地区のボデガ・タナハラBodega
Tanajara
。町なかにあるボデガはモダンで、ピカピカ。大変衛生的。こんな印象のボデガはここだけでした。大学教授のゴンサロさんと、その友達ペドロ・ニコラスさんとパドロン・ガルシアさんの3人が、2003年に作ったボデガです。「リスタンは市場に多いから、うちではあえて使いません」とペドロさん。熟成にはフレンチオーク樽を使用。商品化しているワインは赤2種類だけ。ビハリエゴ100%はブルゴーニュ・ワインのような繊細さを持ち、きれいな酸味があり、華やかです。バボソ100%は深いルビー色で、スパイシー。さすが、ワインも洗練されていました。

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山に囲まれ、一方だけが海に向かって開けている谷間にある、彼らのぶどう畑は、ピシッと垣根づくりで整備されています。畑の中には気象データを収集するポストが立てられ、地中には湿度センサー、など等、最新装備が施され、スペイン本土のボデガを思い出しました。

 

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最後は山の中のボデガ、ロス・ロモスLos Lomos (Carmen Rosa
Barbuzano Chávez)
。一見、山小屋か休憩所か、といった居酒屋風情です。手前が食堂、奥がショップ。薪のグリルがあります。奥から出てきたのが、いかにも飲み屋のオヤジといった感じのオーナー、セレスティーノ・エルナンデスさん。さっそく5リットル入りのペットボトルからワインをコップに注いでくれました。醸造設備は家の裏の小屋にあり、畑はその周囲一帯の斜面にありました。自家製ワインがたくさんできるから瓶詰めして売ろう、といった雰囲気です。三々五々集まってくる彼の仲間たちと食べた野趣あふれる羊のグリルは美味でした。

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「エル・イエロの7軒のボデガ全てを周ったのはあなたが初めてです。」とガブリエルさん。まったく一軒一軒、超個性的でした。ワインの味も質も様々。ヨーロッパの西の端の小さな火山島で、一生懸命ワインつくりをしている人たちに会えたことは感激でした。まさに充実の3日間。全てのセッティングをしてくださった統制委員会のガブリエルさんに感謝します。Muchas
gracias Gabriel. Hasta la proxima vez.

 

 

 

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