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ヘレス”樽”ツアー Botas en Jerez




このところウィスキーの人気が沸騰して、シェリーも「シェリー樽」熟成で、樽の中身のワイン以外での知名度が上がっています。

そこで411日から19日まで、「シェリー樽」の産地を巡る旅に、ウィスキーのエキスパート、土屋守さんと、スコッチ文化研究所の方々をヘレスにご案内しました。

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初日は先ず原産地呼称統制委員会Consejo Regulador de las DD.OO. Jerez y Manzanillaでシェリーの基礎講座。



 

そして樽工場へ。「ウベルト・ドメックHuberto Domecq」社です。その名の通り、シェリーの名門でもあるドメック家の一員がオーナーです。

見学した当日はリオハの赤ワイン用の樽を作っていましたが、工程はシェリーの樽も同じです。シェリー用の樽は傷んだ板を入れ替えて何年も使うので、この日も修理をしていました。写真をご覧ください。

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その後、同じくウベルト・ドメック氏も株主だというボデガ「アルバロ・ドメックÁlvaro Domecq」社を見学に行きました。ドメック家のボデガは創業年が1730年です。「1730」は長期熟成タイプのシェリーのブランド名に使われています。が、この年、ワインビジネスを始めたのはドメックではなく、アイルランド人のパトリック・マーフィーでした。その事業を引き継いだのが友人のオーリーで、その姪の結婚相手がペドロ・ドメックだったのです。ドメック家はシェリーのメーカーの中でも最大手の一つでしたが、事業を手放しました。ただ、やはりワインから離れてしまうのは忍びないということで、1999年、アルマセニスタ(シェリーの熟成貯蔵業者)だったピラール・アランダ社を買い、2007年から新しい資本も導入して、品質本位のワイン造りを継承しています。ちなみに最後までドメック家が所有していた施設(社屋・庭園・熟成庫等)は現在ビーム・サントリー社のものになっています。

 

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午後は「ウィリアムズ&ハンバートWilliams & Humbert」社へ。「ドン・ソイロDon Zoilo」や「ドライ・サックDry Sack」などで知られる1877年創業のメーカーです。ヘレスの郊外にあるヨーロッパ最大と言われる巨大な地上の樽熟成庫を持っています。そのなかで最近目立っているのがウィスキー用の樽です。シェリーの樽は通常黒く塗ってありますが、ウィスキー用は生木の色のままなので、すぐに見分けがつきます。日本の有名メーカーを始め、スコットランドのメーカーなど等からかなりの数の樽を引き受けています。つまり、ウィスキーメーカーから預かった樽に、注文されたワインを入れて、23年間(これも注文次第ですが)香りをつけ、送り出します。シェリー熟成とは関係なく、ウィスキーの樽は作られているのです。

 

2日目はシェリーの三角地帯、ヘレス・デ・ラ・フロンテラ、サンルーカル・デ・バラメダ、エル・プエルト・デ・サンタマリアのうちの一つ、グアダルキビール川の河口、大西洋岸にあるサンルーカル・デ・バラメダへ。

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その前に、ヘレスからサンルーカルへ向かう途中にある「ボデガス・イダルゴ・ラ・ヒターナBodegas Hidalgo-La Gitana」社の畑、「エル・クアドラドEl
Cuadrado
」を見学します。見渡す限りのなだらかな丘。アルバリサという真っ白な土壌に緑のぶどうの若葉が映えます。ここではパロミノという品種だけを栽培しています。辛口シェリーの原料です。これで辛口白ワインを造り、酒精強化して、フィノやマンサニーリャ(「ラ・ヒターナLa Gitana」はマンサニーリャです)のタイプとオロロソのタイプに分けて、それぞれ樽熟成します。

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畑の後はサンルーカル・デ・バラメダにある熟成ボデガへ。平均熟成年数50年以上という古いアモンティリャード、オロロソ、PXを樽から試しました。これはゆっくり楽しみたいところですが、次に進みます。ラ・ヒターナの熟成庫です。ラ・ヒターナはジプシーの女性という意味です。創設者の知人だったそうです。このワインも樽からベネンシアして飲むと一味も二味も違います。これをできる限りそのままボトリングした「ラ・ヒターナ・エン・ラマ」もあります。



 

午後は「ボデガス・バロンBodegas Barón」社へ。どういうわけか担当者が現れず。けれどもボデガで作業をしていた人たちが親切に試飲させてくれました。多分カパタス(セラーマスター)であろうと思われる方に、カーニャ(竹のような節のある植物)のベネンシアでマンサニーリャを注いでいただきました。この日たまたま会った彼らがしていた作業というのは、大きな緑色の瓶に量り売りのワインを詰めること。地元のバルやレストランが買っていくのでしょう。いつもこんな作業を見られるのもではないので、ラッキーです。

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3日目はエル・プエルト・デ・サンタマリアへ。グアダレーテ川のほとりにある「グティエレス・コロシアGütiérrez Colosía」社です。海抜ゼロメートル地帯で床はあり余るほど湿度があるので、フィノの熟成には大変適しています。ここは家族経営で小規模ですが、独特のしっとり感のあるおいしいワインを熟成しています。入口のショップでは量り売りのワインを売っていました。「コロシアColosía」ブランドのシェリーは日本でも人気です。ブランデー「エル・カノElcano」もなかなかのもの。

 

次は「オスボルネOsborne」社。1772年創業の歴史ある会社です。そのシンボルマークである真っ黒な闘牛はオスボルネだけではなく、スペインのシンボルマークと言ってもいいくらい有名です。エル・プエルト・デ・サンタマリアに向かう街道でも既に巨大な闘牛の看板にお目にかかりましたが、町に近づくとさらに数が増えてきます。ボデガのショップも闘牛マーク付の製品が豊富です。オスボルネは自社で持っていた長期熟成タイプのシリーズの他に、かつてのドメック社から買った長期熟成タイプのシリーズも併せ持っています。いずれもごく限定生産の高級シェリーです。

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お昼を食べに行ったのは「ボデガス・グラントBodegas Grant」社の持つレストランです。アンダルシア式パティオにあります。昼食の前にボデガを見学して試飲しました。1841年創設の、家族経営で本当に小さなボデガです。いつも整然とした熟成庫ですが、そのイメージがシェリーの「ラ・ガロッチャLa Garrocha」のラベルのイメージとぴったり合っています。

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午後はヘレス・デ・ラ・フロンテラに帰って、「ルスタウLustau」社へ。いつも限りなく静粛で美しいボデガです。ナポレオン三世の妃だった「エンペラトリス・エウヘニアEmperatríz Eugenia」のボデガは支柱が丸いのが特徴で、しかもステンドグラスのバラ窓まで付いて、とてもエレガントです。ここで熟成されているのは同名の熟成期間の長いオロロソです。もちろん気品高く美味です。

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4日目は「ゴンサレス・ビアスGonzález
Byass
」社へ。ここでは最初に郊外の「ラス・コパスLas Copas」という生産拠点のボデガを訪問しました。毎年収穫時期にはトラックが列を成してぶどうを運んできて、プレスが全開で動いているところです。その裏にある巨大な熟成庫。ここが今、ウィスキー樽の大倉庫になっています。ラックに高々と積まれた樽は自動運転のフォークリフトで操作されています。今やまさにウィスキー樽はシェリーのボデガの一大ビジネスだということが見てとれます。町中のボデガに戻って、昔の蒸留器と、現在ブランデー「レパントLepanto」用にパロミノ種で造ったワインを蒸留している蒸留器を見学し、最後に「ティオ・ペペTio Pepe」はじめ、各種シェリーを試飲しました。

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午後は「ディエス・メリトDíez-Mérito」社を訪問。ヘレスの駅の近くにある美しい大豪邸風の建物です。他のボデガの建造物より天井が低いですが、屋根が二重構造になっているので、夏でも熱が通りにくいのだそうです。天井のアーチが優雅です。1876年創立のボデガで、現在はグルポ・エギサバルに属していて、「ペマルティンPemartín」と「ベルトーラ Bertola」という2つのブランドが日本に入ってきています。もちろん「フィノ・インペリアルFino Imperial」という長期熟成アモンティリャードも。

 

5日目、最後の日はヘレスで締めくくります。最初は「ガルベイGarvey」社。1780年、アイルランド人のウィリアム・ガーヴェイによって創設されました。そのため、フィノの名前はアイルランドの守護聖人、セント・パトリックにちなんで、スペイン語で「サン・パトリシオSan Patricio」といいます。ヘレス郊外にあるボデガは丘の斜面に埋まった形で造られているため、入り口レベルでは単なる平地ですが、海側から見上げると、各階が海に向かって開けているように作られています。ぶどう畑も目の前です。ここは長年シェリーを熟成していた樽をウィスキーのメーカーに大量に販売していました。

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次は「ホセ・エステベスJosé Estévez」社です。ここは1760年創業の「レアル・テソロReal Tesoro」、ファミリーの歴史が1264年のヘレスのレコンキスタの年代までさかのぼる「バルデスピノValdespino」、1852年創業の「ライネラ・ペレス・マリンとRainera Pérez Marín」と、歴史あるボデガを次々入手してきて現在の形があります。いずれも素晴らしいワインで、レアル・テソロでは「アモンティリャード・デル・プリンシペAmontillado del Principe」、バルデスピノでは「イノセンテYnocente」というフィノや「ティオ・ディエゴTio
Diego
」というアモンティリャード、ライネラ・ペレス・マリンはマンサニーリャの「ラ・ギータ1La Guita」などが有名です。巨大なシェリー・コンプレックスになっていますが、オーナーの」美術品コレクションにも、ピカソを始め、素晴らしいものがあります。

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最後は「ボデガス・トラディシオンBodegas Tradición」です。当初は30年以上熟成(VORS)のものだけしか発売していませんでしたが、最近フィノも発売しています。またアニャダAñadaというシングル・ヴィンテージものも熟成しています。規模が小さいこともあって、全ての作業が人手によって行われるため、昔から使われてきた道具が現在も実際に使われています。このボデガも、中世の宗教画、ベラスケス、ゴヤ、エル・グレコ、ムリーリョなど等、オーナーの驚くべき個人コレクションが展示されています。

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こうして連日のボデガめぐりも終わりました。ウィスキー用の樽の裏には長い歴史と、それに続くシェリーの今があります。ウィスキー・ファンの方、ウィスキーを飲むならシェリー樽熟成を、そして一緒にシェリーも試してみてください。

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