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ギフエロ、生ハムの町




生ハム

 スペインの食文化の中で欠くことができないものといえば、ワインと生ハムです。いずれもローマ時代には存在していたという長い歴史のある食材で、今でも生ハムがあれば、飲むのはワイン。ワインがあればつまむのは生ハムです。

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日本でも「イベリコ・ハム」とか「ベジョータの生ハム」といった、スペイン産の生ハムを称する言葉が日本でもかなり普通に使われるようになってきました。

けれども「イベリコの生ハムって何?」と聞かれて、きちんと答えられる人は少ないかもしれません。ごくごく簡単に言うと、イベリコ種の豚のもも肉を、塩漬けして、熟成したものです。ハモン(=ハム)は豚のもも肉のことであり、生と呼んでいるのは製造工程で加熱していないからです。

スペインには原産地呼称を持つ生ハムの産地が6か所あります。 EUで定められるD.O.P.=保護原産地呼称は5つ、I.G.P.=保護地理的表示が1つです。内訳は、D.O.P.がデエサ・デ・エストレマドゥーラDehesa de Extremadura、ギフエロGuijuelo、ハモン・デ・ウエルバJamón de Huelva、ロス・ペドロチェスLos Pedroches、ハモン・デ・テルエルJamón de
Teruel
I.G.Pがハモン・デ・トレベレスJamón de
Trevélez
です。 原料で分けると、イベリコ豚を使ったものが、D.O.P.4か所、白豚を使ったものがハモン・デ・テルエルとハモン・デ・トレベレスです。ですので、文頭の「イベリコ・ハム」は、原産地呼称付きの場合、この4か所のいずれかの製品だと思っていいでしょう。

ベジョータですが、これはどんぐりのことです。イベリコ豚の生息地はスペイン南西部で、エンシナ、アルコルノケ(コルクの樹)、ケヒゴといった、どんぐりが成る木がある地帯です。イベリア半島の南西部はコルクの大産地でもあり、イベリコ豚の放牧地はポルトガル側にもあります。最高級の生ハムになるイベリコ豚は、血統100%で、屠畜前の肥育期間にどんぐりとハーブを食べながらデエサDehesaと呼ばれる放牧地を走り回っています。それによって得も言われぬ旨みのある肉と、とろけるような脂身が入った生ハムができるのです。

 

ギフエロ

 D.O.P.ギフエロはイベリコ豚の生ハムの産地のなかでは一番北に位置しています。ギフエロはポルトガルとの国境近くで、カスティーリャ・イ・レオン州の古都サラマンカから南に1時間ほど下ったところにある小さな村です。その規模に対して不釣り合いなほどたくさんの生ハム工場があり、村の入り口と出口は、通りの両側に生ハム工場が林立しています。まさに生ハムの村です。

 今回訪問したのは「キンティン・サンチェスQuintín Sánchez」社です。ヘスス・マリア・サンチェスさん一家が経営しています。

ギフエロは原産地呼称名に使われていますが、豚の産地はギフエロ村に限られていません。原産地呼称統制委員会で認定されているデエサは村があるカスティーリャ・イ・レオン州以外にカスティーリャ・ラ・マンチャ、エストレマドゥーラ、アンダルシアの各州にもあります。

「うちはハモネロです」とヘススさんは言います。ハモン作りを主にするメーカーということです。スペインでは豚は爪以外すべて食べると言われるだけ、豚肉製品は多様です。豚一頭からはハモンやパレータ(前足を使ってハモンと同じ作り方をするもの)だけでなく、その他の部位を使った腸詰類をはじめとする様々な製品が作られます。ギフエロには屠畜・解体を専門にする工場が3軒あり、約70軒ある生ハムメーカーは加工工程を受け持っています。他に脂身を専門に扱う工場もあり、製菓用などに売られていきます。

ヘススさんの工場を訪問した時は、生ハムの原材料である骨付きのもも肉をサイズ別に分類していました。

通常生ハム1本の塩漬けの時間は、1㎏につき1日とされていて、10㎏のもも肉は10日間塩漬けされます。けれども、ギフエロは標高が1000mと高く、「冬が長く寒く乾燥しているので、塩漬け期間が短くて済みます」ということで、出来上がった生ハムが独特の甘みを持っているのが特徴だそうです。

塩漬けには海塩を使っています。塩漬けの部屋は気温が5℃ぐらいです。塩漬け前の床には少し色のついた塩の山がありました。前に使った塩です。それに新しい塩を混ぜて使います。床の敷いた塩の上にもも肉を並べて塩をかぶせ、その上にもも肉を並べて、塩をかける。この工程を何段も重ねていきます。塩漬けと同時に、その重さで血抜きもしています。数段重ねるため、途中で上下は入れ替えられます。

こうして塩漬けが終わったもも肉は表面の塩を洗い流され、やはり5℃ぐらいの温度設定の部屋に吊るされます。乾かしながら安定させる工程で、その間に塩が内部にいきわたっていきます。


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次は最初の熟成工程です。自然の換気で温度と湿度が調整されるため、ブラインドをかけた窓が四方にある部屋です。ここでは自然に水分が抜けて凝縮が進むと同時に、表面に真っ白なフワフワのカビやブルーチーズのような青緑色のカビが生えてきます。カビが生えることによって旨みが生まれます。

生ハムには黒、赤、緑の3種類のタグが付けられています。黒は100%イベリコ種で放牧地でどんぐりを食べて育った豚のもも肉、赤は血統75%でどんぐりを食べて育ったもので、いずれもハモン・イベリコ・デ・ベジョータと呼ばれます。一方緑は配合飼料で育ったもので、ハモン・デ・セボ・デ・カンポ・イベリコと呼ばれます。

第1段階の熟成期間はスペイン語でマドゥラシオンmaduración
といいます。統制委員会の資料によると、黒が432 日、赤が 432 日、緑が288 日。

第2段階の熟成はエンベヘシミエントenvejecimientoといいます。同じく自然換気の部屋で行われます。ここではそれぞれのハモンの出来がチェックされ、じっくり熟成が進められます。

ギフエロの生ハムと呼ばれるには総生産期間が730日、つまり2年以上必要です。

けれどもヘススさんの工場にはなんと57年熟成の生ハムというのがあります。もちろん超限定品です。そのおいしさは筆舌に尽くしがたいということですが、食べていないので表現でき何のが残念です。けれども「キンティン・サンチェス」社の生ハムは3年熟成でとろけるような脂身の口当たり、噛みしめればうまみが感じられる、素晴らしい美味しさです。さらに熟成させられた生ハムのお味はきっと格別なことでしょう。

ワインを買ったら、生ハムも一緒にどうぞ。

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