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スペインの豚肉って? ¿Conoce la carne de cerdo de España?

ワインの友、生ハムや、チョリソを筆頭とする各種の腸詰類。これらは豚肉製品です。スペインでは、豚肉は紀元前から食べられてきた伝統的な食品です。

日本では最近スーパーでも売られていて、すっかりお馴染みのイベリコ豚cerdo ibérico。スペインが大部分を占めるイベリア半島原種の豚です。生ハムを作るのに必要な体重に至るまで、放牧されてドングリbellotaを食べて太ったイベリコ豚だけがベジョータと呼ばれるという知識もかなり浸透しています。イベリコ豚は今やスペイン料理店に限らず、和・洋・中華で珍重される、おいしい豚肉です。

ではスペインの白豚の肉はどうでしょうか? スペインで一般的に食べられている”ハモン”はハモン・セラーノJamón serranoと呼ばれる白豚の生ハムです。イベリコ・ハムJamón ibéricoや、ましてベジョータJamón ibérico de bellotaは庶民の日常的な食品としては高級。スペインでは豚肉製品をよく食べるのですが、それは大半が白豚です。

そして日本にもスペインからたくさんの白豚肉carne del cerdo de capa blancaが入ってきているのです。ただ、「スペイン産」と書いてあるのを目にしたことがありません。そんなスペイン産白豚肉の生産現場を取材してきました。

 

INTERPORC インターポーク

11月。インターポークのご招待でスペインの白豚肉関連企業を訪問することになりました。インターポーク(INTERPORC=Organización Interprofesional Agroalimentaria del Porcino de Capa Blanca)とは、養豚場、屠畜・解体・加工工場、生ハム工場といった白豚肉関連企業を統括する組織で、現在11の白豚関連団体が属しています。

国際部長のダニエル・デ・ミゲルDaniel de Miquelさんによると、スペインはEU最大、世界第3位の豚肉製品生産国であり、養豚工程で20万人、加工工程で8万人強の雇用を維持している重要な産業とのこと。輸出は急増中で、2016年、中国、フランス、イタリア,ポルトガルに次いで、日本は第5位の輸出相手国。2017年度7月迄の統計では対日輸出が20%強という特出した伸びを示していることもあり、日本市場は大変期待されています。

インターポークのエージェント、オペラOPERAのマーケットリサーチ部のアルバロ・エスペホÁlvaro Espejoさんのレポートによると、日本は豚肉の44%を輸入に頼り、相手国として、スペインは、米国、カナダ、デンマークに次いで第4位を占めているとのこと。

農水食品環境省(MAPAMA=Ministerio de Agricultura y Pesca, Alimentación y Medio Ambiente)の動物衛生・国際衛生対策課副長(Subdirector General de Acuerdos Sanitarios y Control en Frontera)、ミゲル・アンヘル・マルティネスMiguel Ángel Martínezさんの講演によると、農産物の中で肉類の輸出は順調な伸びを見せていますが、白豚肉の対日輸出にあたっては、特に品質の高さ、そして厳しい衛生条件が要求されるため、徹底した病害虫の排除や付加価値の高い製品開発に向けた近代化、最新技術の導入が図られているとのことです。

ということで、今回は最新鋭の白豚製品生産工程を見学させていただきました。

 

養豚工場

 養豚農家ではありません。あえて工場と呼ばせていただきます。これまでスペイン各地で見てきた、どんぐりの木の間を走るイベリコ豚とも、放牧されるチーズメーカーの羊や山羊や牛とも、全く違います。食肉用の白豚は生涯、土を踏まないようです。

訪問したのはカタルーニャ州の一番内陸部リェイダにある「アルベサ・ラマデラAlbesa Ramadera」社。最先端のハイテク技術を駆使した豚生産施設です。研究開発部長のロジャー・ガロフレRoger Galofréさんによると、ここでは獣医学者、農学者、薬学者、IT技術者など、各分野の専門家を集め、豚自体のケアや餌からエネルギー・環境汚染問題まで、完璧にコントロールされたサイクルを構築しているとのこと。豚は耳にチップを嵌められ、常時センサーで行動をチェックされているため、清潔な環境で(敷き藁とか一切なし)、自由に動き(といっても隔離されたスペース内ですが)、質・量ともに完璧に一頭ごとに適合した餌(抗生物質やホルモンなどはいっさい使いません)を与えられ、完璧に健康管理・体重管理されて育ち、外部の空気に触れることなく解体業者の手にわたっていきます。食品として万全の安全体制を期しているため、来訪者は飼育場に入ることはできず、ガラスの外から眺めるか、内部からの中継画像で見学します。

豚は、ランドレース種とデュロック種を掛け合わせたハイブリット母豚にピートレイン種の父豚を掛け合わせてできたものです。生まれた子豚は最初自由に母豚のミルクを飲みますが、1週間後には離されます。豚におもちゃを与えるのですが、いろいろ試したところ、藁が好き、ということで藁を引っ張り出せるようにしたケージを備えています。こうして豚は180日の生涯を送ります。

 

 

屠畜・解体・製品化工程

完全に外界から防備された豚が到着するのは屠畜工場です。アラゴン州の州都サラゴサ郊外の工業団地内にある「シンコ・ビーリャスCinco Villas」というメーカーを訪れました。ここからは加工工程に入ります。ガラス窓の外から見学するのですが、写真撮影禁止。販売部のカルロス・プエオCarlos Pueoさんから事前の説明を受けてから出発。

到着した豚は、洗浄兼リラックス・スペース(シャワーは冷水。でも床暖房付き)で2~3時間過ごすと、次のスペースに送られます。ここでは二酸化炭素環境で2~3秒で意識を失うと、血を抜かれ、きれいに毛を取られ、一匹ずつ吊るされていきます。その後1℃で20時間保持されてから、ブロックに解体され、注文に応じた部位が、指定のサイズに成形され、包装されて出ていきます。2018年には毎日10,000頭を処理する規模を目指しているとのことでした。

対日輸出は三枚肉が主流ですが、アメリカは骨付きの背肉、フランスとイタリアは骨抜きのもも肉、中国は内臓、骨、皮だそうです。日本には、輸送距離が長いため、全て冷凍され、コンテナ単位で出荷されています。この工場では生ハム用に成形された後ろ足も生産されています。

 

生ハム工場

 次はカスティーリャ・ラ・マンチャ州の州都、シウダド・レアル市から北西方向に向かったところにある生ハム・メーカー「ニコ・ハモネスNICO Jamones」。肉の販売業者だったニコラス・ゴンサレスさんが、1965年、生ハム生産会社を設立。2016年は65万本を生産。現在も家族経営のもと企業拡大が続いています。

ちなみにハム(スペイン語ではハモンJamón)というのは豚の後ろ足のもも肉のことで、前足はパレータ(Paleta)といいます。その他の部位で作った製品をハムもしくはハモンと呼ぶことはありません。

輸出部長マカレナ・カラスコMacarena Carrascoさんの案内で工場内に入りましたが、完全防備です。髭を生やしている男性は髭にもマスクが必要です。

この工場は生ハムの形に整えられた状態の豚のもも肉の入荷から工程が始まります。入り口で1本1本、重さによって分類されます。それは塩漬けの期間が、重さ1kgに対し0.6日に決められているからです。1本10kgなら6日間塩漬けされます。

工場は伝統的な生ハム作りの工程と同じ温度・湿度の条件を再現しています。日本でいえば冬に1年分の漬物を作るように、スペインでは11月のサン・マルティンの日(2017年は11月12日でした)から、飼っていた豚をつぶして生ハムや腸詰・塩漬け肉を作るための「ラ・マタンサLa Matanza」という保存食づくりが始まります。ハモン・イベリコ・デ・ベジョータの場合は、寒い冬から徐々に気温が上がり、湿度が下がっていく自然の温度・湿度変化を利用した自然な作り方が今も継承されています。けれども白豚で作るハモン・セラーノの場合は、同じ気候条件を人工的に作り出しています。

ハモン・セラーノ作り方は、①塩漬け(地中海の塩を敷き、ハモンを一段並べ、塩で覆う。その上にハモンをもう一段。これを繰り返す)、②塩抜き(シャワー室で満遍なく散水)、③乾燥(乾燥室で4か月)、④熟成(徐々に表面にカビが発生)⑤ラードで穴を埋め、ヒマワリ油を塗る。⑥最後に自然の風を通す。

ニコ社では、ハモン・セラーノは最低7か月熟成ですが、通常9か月。12か月はレセルバ、15か月はグラン・レセルバと呼ばれます。

また、骨を抜いて、ブロックにした製品や、薄切りにした製品もあります。生ハム1本は買えないけれど、カッティングは楽しみたいという方に最適な商品がありました。ミニサイズの生ハム形にプレスした製品です。カッティングの台とナイフもセットで販売されます。ホームパーティによさそう。

 

トレーサビリティ

今回の訪問で、どの企業も強調していたのは、製品のトレーサビリティです。養豚工程では豚の耳にチップを入れていましたが、加工工場でも、製品一つ一つのデータがしっかり取られています。生ハム工場では足1本1本に焼き印が押され、ナンバーの札が掛けられています。万全に安全体制をとっていますが、念には念を入れて、管理されていました。

スペインの白豚肉は日本では無名と言っていいでしょう。レストランや加工業者に直接納入されるため、原材料の生産国までは書かれていないのが現状です。生産者がトレーサビリティに力を入れていることが反映されるよう、スペインのマークを付けるなど、スペインという名前が表に出てくるとうれしいですね。

 

白豚製品の楽しみ方

今回の訪問期間中にいろいろなレストランで食事をしましたが、ここでは豚肉を使った料理をピックアップしてお知らせします。

1.マドリードの「ラ・カブラLa Cabra」。シェフ、ハビエル・アランダJavier Arandaさんは今29歳の若さですが、27歳にしてすでにミシュランの星を獲得した実力派。料理はモダンでアイデアに富んでいます。子豚の耳にウナギのソースという組み合わせが斬新で美味。ワインはルエダのAnaliviaのベルデホ。軽くパリパリにした豚の皮の下にフォアグラのソースが隠れた料理も意外性たっぷり。次のワインはリオハのLaneguiのテンプラニーリョ95%、ガルナチャ5%でした。

 

2.原産地呼称ソモンタノの「ボデガ・ソモスBodega Sommos」。スーパーモダンなメタリックなボデガの建物が印象的。同名のレストランの各テーブルにはブドウ品種の名前がついています。私たちのテーブルはモスカテル。まずはハモン・セラーノ、続いて炒めたミニ・チョリソ。ワインは、もちろんボデガのGlárima de Sommosのメルロー+カベルネ。ボリューム満点のおいしいお料理に大満足。シェフ、アルフォンソ・モラAlfonso Moraさんも登場して撮影会で終わりました。

 

 

 

 

3.サラゴサの商店街の中にあるレストラン「ラ・ロベラ・デ・マルティンLa Lobera de Martín」。入り口には牛肉の大ブロックが何本も吊るされたショーケース、店内には生ハムがズラッと並んでいます。そして入り口からダイニングに入る通路にあるワインセラーには素晴らしいワインの数々が!アーティチョークの生ハム炒めといった、気取らない、素材重視の素朴な料理を食べられる店でした。飲んだワインはルエダのホセ・パリエンテJosé Parienteのベルデホでした。

 

4.サラゴサの「ベンセスラオWenceslao」では、生ハム、チョリソのほかに、モルシージャやロンガニサの鉄板焼きといった、まさにスペイン!といった料理が。ワインは地元のガルナチャバルタサールBaltasar El Héroe Viñas Viejas 2015 .続いてエナテEnateのカベルネ・メルローでした。

 

 

5.トレドのミシュランの星付きレストラン「エル・カルメン・デ・モンテシオンEl Carmen de la Montesión」の料理を、シェフ、イバン・セルデーニョIvan Cerdeñoさんが出張して、「シガラル・デ・サント・アンヘル・クストディオCigarral del Santo Ángel Custodio」で作ってくださるというゴージャスなランチ。シガラルというのはトレド独特の大別荘地のことで、名乗るにあたっては、タホ川を挟んでトレドの町の反対側の川岸にあること、トレドの町が見渡せることといった条件があります。このシガラルはまさに自分の庭からトレドの町が絵葉書のごとく見渡せる絶景の地にある、大庭園付き大豪邸でした。料理は、今回のテーマである白豚ではなかったのですが、素晴らしく洗練されていて、ご推薦ワインとの相性も抜群でした。

最初のワインは「ボデガス・デル・ミニ・デ・トレドBodegas del Muni de Toledo」のコルプス・デル・ミニ Corpus del Muni という途中で発酵を止めて甘さを残したアルコール度 8%のワイン。ほんのりとやわらかなフルーツ味のある快いアペリティフです。次はスペイン初のビノ・デ・パゴである「ドミニオ・デ・バルデプサ」のオーナー、マルケス・デ・グリニョンが原産地呼称ルエダで造る「マルケス・デ・グリニョン・ベルデホ・ルエダMarqués de Griñón Verdejo Rueda 」。そして赤は特選原産地呼称リオハの「パラシオス・レモンドPalacios Remondo」の「ラ・モンテサLa Montesa」。どれも素晴らしいマリアージュでした。

 

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