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ヴィニョ・ヴェルデVinho Verde

ヴィニョ・ヴェルデはヴィニョVinho=ワインという名詞と、ヴェルデVerde=緑色の、未熟の、若い、青っぽいといった意味を持つ形容詞とでできた言葉で、ポルトガル北部の緑の多い地域で造られる、フレッシュなワインというイメージがありました。かつて、ヴィニョ・ヴェルデの多くは微発砲で、アルコール度が低く、爽やかな、飲みやすいワインでした。けれども今のヴィニョ・ヴェルデは違います。ここ何年か、ヴィニョ・ヴェルデの協会が対日プロモーションを活発に行っているので、ご存知の方も多いかと思いますが、一口では語れない様々なタイプがあります。

5月半ば、久しぶりにポルトガルのヴィニョ・ヴェルデの産地に行きました。天気は上々。宿泊地はポルト。ドウロ川北岸のレストラン街「カイス・ダ・リベイラCais da Ribeira」からは向こう岸に立ち並ぶポートワインの熟成庫、ロッジが見えます。

今回の目的地、ヴィニョ・ヴェルデの産地、原産地呼称ヴィニョ・ヴェルデDenominação de Origem Vinho Verde認定地域は、このドウロ川の北岸(右岸)から、ミーニョ川が流れるスペインとの国境まで広がる一帯です。ポルトの観光スポットとしても知られる、アズレージョが見事なサン・ベント駅Estação de São Bentoの天井に書かれたドウロDOVRO、ミーニョMINHOという大きな文字が印象的でした。

メーカー訪問の前に、Comissão do Viticultura da Região dos Vinhos Verdes (ヴィニョ・ヴェルデ地域ワイン生産協会)を訪問。そのクラシックな建物は「シルヴァ・モンテイロ邸Palacete Silva Monteiro」という19世紀半ばに立てられた邸宅です。ここで、午前中に77本のヴィニョ・ヴェルデを試飲。アルコール度が低い微発泡の軽やかな、まさに文字通りヴェルデのものから、熟成タイプ、単一品種もの、スパークリングなどなど、さまざまです。

ヴィニョ・ヴェルデの公式サイトhttp://www.vinhoverde.pt/pt/sobre-o-vinho-verde には、「ヴィニョ・ヴェルデの特徴であり、他のワインと違う点は、生き生きとしたフレッシュさがあり、エレガントで軽やかで、フルーティでフローラルな香りが秀でて表現されていることです。」といったことが書かれています。

ただ、この委員会が掲げる「ヴィニョ・ヴェルデ」の看板のもとには、それだは表現できない様々な製品があります。まず、ヴィニョ・ヴェルデは白ワインVinho Verde Brancoだけではなく、ロゼRosadoも赤Tintoもあります。そこには微発泡性のものから樽熟されたものまで含まれます。さらには、スパークリングワインEspumante de Vinho Verdeのほか、ヴィニョ・ヴェルデの搾りかすで造る蒸留酒Aguardente Bagaceira de Vinho Verdeとその熟成タイプ、ヴィニョ・ヴェルデ・ブランデーAguardente Vínica de Vinho Verdeもあり、樽熟期間によってXOまで4段階に分かれています。

主な白ブドウ品種はアルヴァリーニョAlvarinho、アリントArinto、アヴェッソAvesso、アザールAzal、ロウレイロLoureiro、トラジャドゥーラTrajadura。黒ブドウではエスパデイロEspadeiroとパデイロPadeiro、ヴィニャォンVinhãoが挙げられています。

 

 

ワイナリー訪問

今回最初に訪問した「キンタ・デ・カラペソスQuinta de Carapeços」では、スパークリングはもとよりアルヴァリーニョ(白)、エスパデイロ(ロゼ)、ヴィニャゥン(赤)、ソウサゥン(赤)の単一品種もの、ブレンド・タイプのもの、そしてさらにエスパデイロの遅摘みの甘口も造っていました。ここでは、オーナーのミゲル・ペレイラ・デ・アブレウMiguel Pereira de Abreu さんの、自社畑に囲まれたクラシックな邸宅で、素晴らしい手作りのお料理とワインをごちそうになりました。美味しくないわけがありません。

次の訪問先は「ABヴァレー・ワインズ AB Valley Wines」です。2016年、ワインメーカーのアントニオ・ソウサAntonio Sousaとブドウ栽培者のベルナルド・レンカストレBernardo Lencastreが始めた新しいプロジェクトです。このワイナリーがあるアマランテはヴィニョ・ヴェルデの産地全体の中では南部で内陸にあり、その土地に向いていると考えている地場品種に力を入れています。それは白品種のアヴェッソ、アリント、アザール、黒品種のエスパデイロとヴィニャゥンです。発酵槽もごく小さなものがいくつも並び、樽熟もいろいろ試しているのに興味を惹かれます。製品にはそれぞれの単一品種ものがあり、アルヴァリーニョもありました。オプサゥンOpçãoシリーズはどれもフレッシュで豊かな香り。ロゼもきれいな色で快い飲み口でした。醸造スペースの片隅には遅摘みアルヴァリーニョの極ごく小さな発酵タンクも。

昼食はシーフード・レストラン「バランキーニャ・ド・リージョBarranquinha do Rijo」で。ここで「カサ・セニョリアル・ド・レゲンゴCasa Senhorial do Reguengo」のジョアン・ペドロ・マルティンスJoão Pedro Martinsさんが、目にも鮮やかな空色(アリント)と黄色(アルヴァリーニョ)と赤(シャルドネ)のラベルのワインと、ラベルも印刷もない真っ黒なボトルの首にラベルを掛けただけのオシャレなスパークリングをもって登場。まずデザインに魅かれてしまいます。どれも各品種の個性が飲みやすくまとまっていて、楽しめます。ジョアンさんも含め、売れそうなキャラクターです。

ちなみにこの場合、アルヴァリーニョとシャルドネはヴィニョ・ヴェルデを名乗れないので、ヴィニョ・レジオナル・ミーニョになります。アルヴァリーニョは認定地域内各地で栽培されていますが、ヴィニョ・ヴェルデを名乗れるのは、特有のテロワールを持つことから、北の端のスペイン国境のすぐ南、ミーニョ川沿いで、内陸にあるモンサォンとメルガーソの地域のものだけです。他の地域のものはIG(インディカサォン・ヘオグラフィカ)もしくは昔からのいい方で、ヴィニョ・レジオナルになります。

 

2日目は、ワイナリーとの商談会とビュッフェ・ランチの後、とても個性的なワイナリーを訪問しました。「マルシオ・ロペス・ワインメーカーMárcio Lopes Winemaker」です。まずは、昔からの方法を継承しているという畑へ。近づいていくと、生垣のように道沿いに一列に植えられたブドウが見え、先を曲がると、下が広々とした背の高い棚造りの部分。そして、その先が圧巻でした。空高く、おそらく5メートルぐらいまで伸びたブドウが、もう生垣というより壁になるのではといった感じで並んでいるのです。真っ青な空に向かって元気に成長するブドウ。収穫は梯子をかけて行うのだそうです。ただ、すべての畑がこのスタイルというわけではなく、大部分は垣根づくりになっています。

ワイナリーの中には様々なサイズの発酵タンクがあり、地場ブドウ品種も、樽もいろいろ試しています。さらに、石のラガールを発見。実際に、収穫したブドウを足で踏んでいるそうです。タンクや樽から次々とワインを試させていただいた後、「どれがおいしかった?」と聞かれたので、迷わず「ペケノス・レベントス“ア・モダ・アンティガ”2017 Pequenos Rebentos “À Moda Antiga” Edição Limitada 2017 Superior」を挙げたら、「本当?本当にそれでいいのか?」と念を押されましたが、ウンと頷くと、しょうがないなぁ~という感じで、なんと、1本くださいました。No.374/733。このヴィンテージは733本しかありません。

モンサォンとメルガーソ産のアリヴァリーニョとアヴェッソをワイナリーのあるアマランテに持ってきて、前出の石のラガールで足踏みし、自然の酵母で発酵させ、使用済みの樽で熟成したものです。フレッシュさとミネラル感を備え、しっかりした存在感のあるワインです。マルシオさんは、田舎のとか粗野なという意味を持つrusticoという言葉を使っていますが、名前の「ア・モダ・アンティガ=古典的な造り」には、流行に関係なく、伝統的な造りをした結果こういう力強いワインになりましたという意味が込められているのを感じます。もちろん彼の最新の知識と豊富な経験に支えられているのですが。ヴィニョ・ヴェルデの枠を超えたおいしいワインでした。

最後の訪問は「キンタス・デ・カイズQuintas de Caíz」。アルヴァリーニョやアヴェッソの単一品種ものもありますが、アヴェッソ、ロウレイロ、トタジャドゥーラで造るブレンド・タイプのヴィニョ・ヴェルデが気取らないお食事にぴったり。特にシーフードに!

 

今回のヴィニョ・ヴェルデ訪問は、時間が限られていたため、訪問したワイナリーはポルト市の近くのところだけでした。けれども、ヴィニョ・ヴェルデは「フレッシュで軽くて飲みやすい」という定番イメージから脱した、美味しいワインを造ろうという、ワインメーカーのさまざまな試みの現場を見られたのが大きな収穫でした。

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