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エンポルダをご存知ですか? (1) ¿Conoce Empordà? (1)

<エンポルダ EMPORDÀ>

エンポルダという名前を聞いたことがありますか? スペインの北東の端、カタルーニャ地方の一番北、フランスと国境を接する地域にあるワインの原産地呼称認定地域です。

スペインには2018年11月現在ワインのDOP(保護原産地呼称)が90あります。そのうちカタルーニャ地方には、複数地域を含むカバを外しても、11か所もの認定地があり、その一つがエンポルダです。スペイン語ではアンプルダンAmpurdánと言いますが、ワインの産地名としてはカタルーニャ語のエンポルダが使われています。

ジローナ県に属し、アルト・エンポルダAlt Empordáとバシュ・エンポルダ Baix Empordáに分かれています。アルトは上、つまり北、バシュは下で南に位置しています。ワインの産地も、間にある、低地で地味の肥えた地域を除いて、アルトとバシュの2つのサブゾーンに分けられています。アルトはダリの美術館で有名な町、フィゲラス以北、フランス国境までを占めていて、ほとんどのボデガはこの地域にあります。バシュは、「エル・セリェ・デ・カン・ロカ(アル・サリェー・ダ・カン・ロカと発音するようです)El Celler de Can Roca」という世界的に有名なレストランがある街、ジローナより南にあります。

バルセロナからフィゲラスまでは電車で約1時間。エンポルダの原産地呼称統制委員会の本部もフィゲラスにあります。駅には、ボデガの訪問プログラムを作ってくださった統制委員会のヌリア・マカウNúria Macauさんが迎えに来てくれていました。

まずは今回の訪問のきっかけとなり、滞在中、ずっとお世話になったジョセップ・セラ・イ・プラJosep Serra i Plaさんのボデガ「ラ・ビニェータLa Vinyeta」へ向かいました。ジョセップさんとは今年の4月、バルセロナで開催された「ガルナチャの地Terra de Garnactxes 」という試飲会(参照http://www.vinoakehi.com/2018/08/ガルナチャの地terra-de-garnactxes.html)で知り合いました。

ジョセップさんがボデガのプロジェクトを始めたのは、まだ醸造学を学ぶ学生だった2002年。奥さんのマルタMartaさんは19歳でした。樹齢50と80年の地場品種、カリニェーナCarinyena、ガルナチャ・ブランカGarnatxa Blanca、ガルナチャ・ロジャGarnatxa roja、ガルナチャ・ネグラGarnatxa Negra、マカベオが植わった畑4ヘクタールを入手。徐々に他の品種も植えていきながら、2006年にワインを初出荷。その後、100年ものの地場品種カリニェーナ・ブランカCarinyena Blancaやガルナチャ・ロジャを持つ近隣の栽培農家と契約し、質の高いワインを生産してきました。現在所有するブドウ畑は60ha。うち60%は樹齢50年以上です。

エンポルダでは地場品種が多く使われています。その名称にはカタルーニャ語が多く使用されていて、ガルナチャ・ティンタはガルナチャ・ネグラ、ガルナチャ・グリスはガルナチャ・ロジャ、カリニェーナもティンタではなくネグラです。またカリニェーナはサムソーSamsoというカタルーニャ名、ガルナチャはリェドネールLledonerとも呼ばれます。発音もスペイン語に近い単語であっても微妙に違います。この文中、便宜上カタカナ表記を付けましたが、ほぼスペイン語読みになっています。ご了承ください。

「ラ・ビニェータ」のボデガがある敷地内にはブドウ畑の横に、樹齢500年という古木もあるオリーブ畑があり、アルグデールArguderという地場品種のオリーブオイルを生産。養鶏場で放し飼いにされている鶏にはブドウの搾りかすを餌として与え、その卵を販売。羊も飼っていて、冬はブドウ畑の草を食べてもらい、そのミルクからチーズも造っています。また、オーガニック栽培の指標ともなるミツバチを買い、その蜂蜜の販売もしています。

こういった複数の農産物を作っているのはジョセップさんのボデガだけではありません。後に訪問した協同組合やボデガも少なくともオリーブオイルは生産しているところがかなりありました。

「ラ・ビニェータ」があるモリェット・デ・ペララダMollet de Peraladaという村は緑の田園地帯です。今回はブドウ畑の真ん中にあるボデガのゲストハウスに泊めていただくことになっていました。到着後、テラスで、ブドウ畑を前に、ウェルカムドリンクの白ワイン「エウス・ブランコHeus Blanco(ガルナチャ・ブランカ、チャレロ、マカベオ、モスカテル、マルバシア使用)」で乾杯し、訪問プログラムの確認をしようとしていたのですが・・・、ものすごい風が! 書類は手で押さえたものの、それより重いはずの、ワインの入ったグラスが風で飛ばされるという驚きの事態が発生!!

これがエンポルダの最大の特徴、「トラムンタナTramuntana」という強烈な北風の洗礼でした。トラムンタナの力は半端ではありません。細身の私は冗談ではなく、何度か飛ばされそうになりました。それもそのはず、トラムンタナの風速は軽く50m/hを超え、150㎞/hにも至るとのこと。「この風が1週間も続けて吹くと頭がおかしくなる」「この風のせいでエンポルダの人はちょっとクレージーなんだ。」「ダリとか。エル・ブジのフェラン・アドリアとか・・・」。異才、天才を生む風なのですね。

<1日目>

最初に訪れたのはエスポリャEspolla村の協同組合「セレール・コオペラティウ・デスポリャCeller Cooperatiu d’Espolla」です。

エンポルダにはギリシャ人やローマ人がやってきてワイン造りをしていたという2500年ほどのワイン造りの歴史があります。スペイン各地のワイン産地と同様に、修道院の力でワイン生産は盛んになり、テラサTerrazaと言われる山肌に階段状に作られたブドウ畑が増えていきました。フィロキセラがやってきたのは1889年のことでした。その後、復興された畑は少ないなか、有志が集まってエスポリャの協同組合の基になる組織が作られたのは1906年。現在の協同組合になったのは1931年です。近くにコスタ・ブラバという大ビーチリゾートがあるため、ブドウ栽培者は観光業に流れ、一旦、畑は減っていったのですが、今、若い世代が戻ってきて、品質の高いワイン造りに取り組んでいるとのことです。今回も、89歳の叔父を40歳の甥が手伝ってブドウ栽培を続けている畑を訪問しました。

協同組合に所属する畑は170Haで、37軒の農家がブドウを栽培しています。土壌は石ころ、海に近い地域は花崗岩質や砂質、山側は粘板岩質と多様です。

まずは訪れたのは小高い丘の傾斜地にテラス状に作られた畑。粘板岩土壌で、砕かれたゴチゴチの岩のかけらの斜面を、強烈なトタムンタナと闘いながら登っていくと、高みからはエスポリャ村と、その向こうに地中海が見渡せる絶景が広がっていました。後の山の向こうはフランスとのこと。この地形がピレネーから下ってくる冷たいトラムンタナを呼ぶのです。この風は芽が出てくる時期はありがたくないのですが、その他の季節は強風が湿気を追い出してくれるため衛生的で、病害がほとんどないため、ブドウ栽培には好条件です。

もう一か所、協同組合の会長さんの畑を訪れました。葉が赤くなっているのはカリニェーナ・ネグラ、黄色くなるのはカリニェーナ・ブランカ。紅葉の時期なので葉の色で何が植えられているのかわかります。畑の中には雨で表土が流されてしまわないように、粘板岩を積み重ねて作った、水を集めて流す溝が造ってありました。畑の構造を維持すること自体が大変な土地です。

ボデガの外観は、特に個性的ということはないのですが、中に入ってみると、モデルニスタ様式の件と器物でした。高い屋根の構造物は煉瓦と木、その下にワインの発酵や貯蔵に使うセメント槽がズラッと並ぶ姿はまさにカタルーニャの古き良き時代の協同組合そのものです。奥には巨大な木桶や樽もあります。セメント槽の上のスペースに並べられた樽は、甘口ワインのソレラのシステムに使われていました。

ここでは様々なタイプのワインを造っていますが、特に、独特の景観を持つ、つまりは独自のテロワールを持つ古い小さな区画を大切にしていこうという意図から、「ビンス・デ・ポスタルVins de Postal=絵葉書のワイン」と名づけられたシリーズがあります。そのなかの「レ・ドミネLes Dòmines」は粘板岩土壌のカリニェーナ・ブランカ単一品種。この品種は酸味がきついので通常はブレンド用だそうですが、白ブドウの皮のような香りがあるスッキリのめるワインになっていました。「ラ・ポルタ・ベルメリャ La Porta Vermella 」は花崗岩土壌のガルナチャ・ブランカを樽発酵したもの。暖かいイメージのワインです。このシリーズには他にも、カリニェーナ・ロジャ、ガルナチャ・ネグラ、など単一畑の単一品種が揃っています。使う畑は毎年変わるそうです。

さらに興味深かったのは伝統的な甘口ワインです。「ソレラSolera 1931」はガルナチャ・ブランカとガルナチャ・ロジャを使い、アルコール添加で発酵を止めて自然の甘みを残し、樽熟し、1931年設定のソレラを通して出荷したもの。この協同組合設立年からの伝統の味です。もう一つは「ソリセラナsoliserana」。これもガルナチャ・ブランカとガルナチャ・ロジャの発酵をアルコール添加で止めて甘さを残し、樽熟したものですが、その後、さらに、ダマフアナで1年以上熟成したものです。

ダマフアナdamajuana(西) demijhon(英)というのは細口のガラス瓶のことで、ワインの熟成や保存に使われます。ここの場合、ワインを入れたダマフアナは、建物の窓辺という窓辺の外側にびっしり並べられています。日光と外気にさらされ、熟成期間中の気温差は-3度から+39度に至ります。これこそ自然が造る伝統の味。酸化熟成ワインの奥深さを物語っています。

この晩は、モリェット村のレストラン「ラ・レイナ・デ・ポルト・リガLa Reina de Port-Lligat」へ。人っ子一人いない森閑とした小さな村の小路に看板がポツリ。ハイレベルの食文化を誇るアルト・エンポルダのなかでも、かなり知られたモダン・カタラン・キュイジーヌのレストランとのこと。

ロッチ家は現在4代目。曾祖父の時代にフィロキセラで畑が壊滅したため、一時フランスのルーションに移住しましたが、1896年には戻ってきて、カリニェーナを植え始め、畑を回復しました。それをもとに、ガルナチャ・ブランカ、マカベオなどを植え、現在に至っています。父親の代には協同組合にブドウを売っていましたが、当代になって、2006年、ボデガを作り、自社でワインを造り販売するようになりました。この日試したのは、樹齢100年以上、つまり曾祖父が植えた畑のカリニェーナ(Samso)100%の「カミ・デ・コルメスCamí de Cormes Samso 2015 Vinyes Centenaries」と「カミ・デ・コルメス・ガルナチャ・ロジャ Camí de Cormes Garnatxa Roja 2017」、70年のカリニェーナ(Samso)と40~60年のガルナチャ・ネグラで造る「ラ・ボレータLa Boleta 2016」でした。

ラ・ビニェータのワインは「ミクロビンMicrovins Carinyena Blanca 2016」とまだラベルの付いていない「ミクロビン・ガルナチャ・ネグラ・ボタ(樽熟成) Microvins Garnatxa Negre Bóta 2016」と「ミクロビン・ガルナチャ・ネグラ・アンフォラ(素焼きの壺熟成) Microvins Garnatxa Negre Anfora 2016」でした。ガルナチャで2つの熟成法を試してみているところとのこと。アンフォラの方が、ブドウらしさがあって自然に体に入っていくような感じがしました。

最後は「ラ・ビニェータ」の「セレノSereno」というランシオです。80年物のフレンチオーク樽のソレラを使って、70~80年のガルナチャ・ロジャを熟成した辛口ワインです。シェリーのフィノ・アモンティリャドのような、エレガントなワインでした。

エンポルダをご存知ですか? (2)に続く Sigue a ¿Conoce Empordà? (2)

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