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エンポルダをご存知ですか?(2) ¿Conoce Empordà? (2)

<エンポルダ訪問2日目前半>

ボデガ「ラ・ビニェータ」のブドウ畑の真ん中の一軒家に泊まったので、昇る朝日を見ることができました。この日は晴天。しかもトラムンタナなし!

最初の訪問先、「マス・エステラMas Estela」へ向かう途中、この地域でワイン造りに大きな影響力を持っていた、9世紀に起源をもつ修道院「サン・ペレ・デ・ロデスSan Pere de Rodes」の近くを通りました。山の中をかなり走った後、到着したところは地中海を見渡す高台。目の前の山の斜面に建てられた荘厳な修道院。さらに山の上には古城の跡。何世紀にもわたる地域の歴史の変遷を感じさせてくれます。

このあたり、山にはたくさんのコルク樫が見られます。シャンパーニュやボルドーの高級ワインのコルクにも使われているそうです。そのわけは、大産地として知られるイベリア半島南部のコルク樫の森は平地にあるのですが、この地域のコルク樫は岩盤の山に生えているため、成長が遅く、通常9年周期で皮が剥がせるところ、ここでは回復に14~16年かかるので、きめの細かい上質のコルクができるからです。エンポルダではコルク・メーカーと共に、この地域のワインにこの地域のコルクを使う運動をしていて、そのコルクには特別のマークと「TAPS DE FINCA DE L’EMPORDÀ」という表記が付いています。(写真参照)。

 

さて、到着した「マス・エステラ」はラ・セルバ・デ・マルLa Selva de Marという村のサン・ロマ渓谷にありました。10世紀末からある邸宅をボデガにしています。このボデガを始めたのはヌリアとディダク・ソト・ダルマウNuria y Dídac Soto Dalmauご夫妻。バルセロナから休暇で訪れた際、気にいってしまい、仕事を辞めて、1989年、50haの土地と邸宅を買い、移り住んできたそうです。ブドウを植え始めたのは1991~1992年。土壌は粘板岩質で、現在ブドウ栽培面積は15~16haあり、すべてビオディナミです。所有地が自然公園内にあるので勝手に手を付けられないため、もともとあった石垣のテラス式の畑もそこに生えている木や周辺に手を付けられないため、傍観。「ここは本当に世界の果てよ!でもすべてが自然なの」とヌリアさん。

ワインは「ビニャ・セルバ・デ・マルVinya Selva de Mar 2017(ガルナチャ・ロジャとモスカテルで造る白)」、「ルカダRucada 2016(ガルナチャ・ネグラ100%)」、「キンダルQuindals 2014(ガルナヤ・ネグラとシラー)」、「ビニャ・セルバ・デ・マル Vinya Selva de Mar 2008(ガルナチャ・ネグラ、シラー、カリニェーナ。フレンチオーク樽で15か月熟成)」。ここにもガルナチャ・ネグラ100%の甘口ワイン「エステラ・ソレラEstela Solera 1990」がありました。1990年設定のソレラで熟成しているポートのトウニー色のワインで年産600本。ボデガの入り口にはダマフアナが並んでいました。

次はさらに海辺に近い畑に向かいました。「カスティーリョ・デ・ペララダCastillo de Peralada」が、まさに海を目の前にした斜面に持つ畑「フィンカ・ガルベFinca Garbet」です。真っ青な空と真っ青な海、緑の森、すぐ下には静かなビーチが!そんな景色の中で、海に向かって階段状に作られた畑。美しいですが、ここはトラムンタナを真正面から受ける、ブドウとしては過酷な条件にあります。細い幹と小さな葉のブドウが風に向かって踏ん張って生きているのが感じられる畑です。

PR担当のレオノーラ・サアベドラLeonora Saavedraさんの話では、この地域は1994年に山火事があり、その際、ブドウ畑が山火事を食い止める防火帯になるということで、畑を作ることが許されたとのこと。1997年に植えられたこの畑は、2012年の山火事を止める役割を果たせたとのことです。通り道にも山火事に遭い黒くなった森が何か所かありました。

ペララダは5つの特徴ある畑Fincaを持っていて、それぞれの畑のブドウだけで造ったシリーズを発売しています。「フィンカ・ラ・ガリガFinca La Garriga 」は砂や小石を含んだシルトと粘土質土壌で50年以上のカリニェーナが植わっています。「フィンカ・エスポリャFinca Espolla」はピレネー山脈の麓で酸度の高い粘板岩土壌。ここはシラーとモナストレルのブレンドです。「フィンカ・マラベイナFinca Malaveïna」 は赤い粘土質の土壌で栽培したメルロー、カベルネ・ソーヴィニョン、カベルネ・フラン、ガルナチャ・ネグラ、シラーで作られています。また、「アリエス・デ・ガルベAries de Garbet」 は「フィンカ・ガルベFinca Garbet」と共に、このガルベ畑で栽培されたブドウを使っています。「アリエス」はガルナチャ・ネグラ100%、「フィンカ」はシラー100%です。ガルベで飲む「ガルベ」は格別です。特に「アリエス」は地場品種ガルナチャ・ネグラの単一品種で、繊細さがあり、バランスの良いワインで口の中での広がりが豊かなワインでした。白の「ノメスNomés」はガルナチャ・ブランカ100%、「シンコ・フィンカス5 Fincas」は5つのフィンカのブドウをバランスよく合わせた、とても飲みやすいワインです。

ここから少し南に下った港町ランサLançaにあるレストラン「エル・ペスカドールEls Pescadors」ではボデガ「マス・ポリトMas Pòlit」のシャビエル・イグレシアスXavier Iglesiasさんと「ウガス・デ・バトレHugas de Batlle」のオリオル・ゲバラOriol Guvaraさんと共に昼食です。

「マス・ポリトMas Pòlit」はランサの町から西、つまり少し内陸に入った地域にあります。マスというのは邸宅や農地などを含む大所有地のことで、「マス・ポリト」の起源は古く、1293年には、前出のサン・ペレ・デ・ロデス修道院の修道士が持っていた土地で、当時すでにワインを造っていたとされています。その後1572年に現オーナー一族のアントニ・エラスの手に渡り、その後エラス家が維持しています。畑は8ha。粘板岩質の土壌で、ガルナチャ・ネグラを主体に、シラー、カベルネ、モナストレル、モスカテル・デ・アレハンドリアを栽培しています。

試飲したワインは、「テラ・インディカTerra Indica 2017」がガルナチャ・ネグラ100%。「マス・ポリトMas Pòlit 2016」はガルナチャ・ティンタ50%、カベルネ・ソーヴィニョン30%、シラー20%で、8か月新樽で熟成したもの。しっかりしたボディと凝縮感にエレガントさを備えたバランスの良いワインです。「ラコン・デル・マス・ポリトRacons del Mas Pòlit 2016」はガルナチャ・ネグラ100%。このブランドは、畑の中で一番良い実だけを使って造るため、毎年は造れないし、年によって品種も変わります。2011年にガルナチャ・ネグラで始めたもので、2012年はモナストレル、そして2016年はガルナチャ・ネグラです。ミネラル感、繊細な酸味、柔らかなタンニンが感じられる、骨格のしっかりしたワインでした。

もう一軒のボデガ「ウガス・デ・バトレHugas de Batlle」は先のカスティーリョ・デ・ペララダの畑「フィンカ・ガルベ」から海岸線に沿って少し北に行ったところにあります。ウガス・デ・バトレ家はこの地に長く住んでいたため、海に近いところに古い畑も持っていますが、2000年からは、少し標高の高い2か所の土地を階段状の畑に作りはじめ、2002年にブドウを植え始めました。また古い畑も買っています。

試飲したのは「カミ・デン・ポカ・サング Cami d’en Poca Sang 2017」。ガルナチャ・ネグラの美しいロゼです。ラベルがボトルに直接プリントされた標高線の地図なのはオシャレです。「バル・デ・モリナスVall de Molinàs 2015」はガルナチャ・ネグラ100%。標高の高い畑のブドウを使っていて、繊細さのあるエレガントなワインで、ブルゴーニュ型のボトルを使っています。最後は「コマ・フレドサComa Fredosa 2012」。ガルナチャ・ティンタ60%、カベルネ・ソーヴィニョン40%でフレンチオークの古い樽を使って熟成。フルーツの凝縮感があって、背筋の通ったエレガントなワインです。

<エンポルダ訪問2日目後半>

午後はランサから南に下ったパウPau村にある協同組合「エンポルダリアempordàlia」へ。迎えてくださった組合長のシモン・カサノバス・パレSimon Casanovas Parésさんと輸出マーケティング担当のクリスティーナ・イグレシアス・カンパニCristina Iglesias Campenyさんと共に畑へ向かいました。

この協同組合は組員が60軒。最初は1947年にビラフイガVilajuïga村に協同組合ができ、次に1961年にパウ村に協同組合ができ、後にロサス村の協同組合を統合。2005年に、全員でエンポルダを代表するような質の高いワイン造りを目指そうと、「エンポルダリア」という名称のもとに一つの協同組合になりました。畑の総面積は150ha。いずれも先祖代々引き継いできた古い畑です。

この日訪れた畑は雑木林を抜けたところに広がる平坦な土地でした。周囲には3つの自然公園があり、山に囲まれた低地で、畑からは見えませんが、海も近いとのこと。

道々、コルクの樹が生えていて、気になっていたところ、到着したぶどう畑のすぐ横に大きなコルク樫が2本あり、新しく皮をはがれた跡の赤い色が印象的でした。

畑の中で試飲したのは「パサレルPassarell 2017」というガルナチャ・ネグラ100%のワインでした。香り豊かで、フレッシュさのある、シモンさんの言葉を借りると「ロマンチックromántico」な、バランスのとれたワインです。パサレルというのはこの地域の絶滅品種とされる鳥の名で、Pの文字の周りを小さな鳥がたくさん飛んでいるラベルがとてもステキです。ブドウと一緒に畑の中で飲むワインは、本当に自然に喉を通っていきました。

次は少し北西へ向かって、「エスペルトEspelt」へ。エスペルトはオーナーのファミリーネームです。迎えてくれたアナ・エスペルトAnna Espeltさんは8代目とのこと。代々ブドウ栽培を行っていた一家ですが、ボデガの創設は1999年です。現在は醸造学を勉強したアナさんがリーダシップを取っています。が、お父様も毎日ボデガや畑に入らっしゃるそうです。特に、この日は年に一度の「オルホを作って飲む会」の日に当たり、ご友人がたくさん集まって、小さな蒸留器に自家製のオルホ(ブドウの搾りかす)を入れて出来上がるはしから飲むという、ブドウ栽培農家ならではの楽しみ方をしていました。

エスペルトは総面積約200haの畑を4か所に持っています。一つは「ラボスRabós」畑で、30~114年のカリニェーナ・ネグラとガルナチャ・ネグラ他、ガルナチャ・ロジャ、ガルナチャ・ブランカの古木が粘板岩土壌に植えられています。「マス・マレスMas Marés」畑はカプ・デ・クレウスCap de Creusという、地中海に飛び出した岬にあり、土壌は花崗岩質です。「モンターニャMontaña(山)」畑は1998年と2002年に植えたもので、25haあり、花崗岩質土壌でガルナチャ(ここではリェドネールLledonerと呼んでいます)、シラー、モナストレル、カリニェーナを栽培しています。ここは名前の通り山なので、テラス式に作ってあります。「プラPla(平地)」畑はボデガの前にある、このボデガの起源になった畑です。ガルナチャ・ブランカとガルナチャ・ネグラ、マカベオなどが植えられています。

試飲は「キンザ・ロウレス Quinza Roures 2017」という「ラボス」畑のガルナチャ・ロジャ(ここではグリス)とガルナチャ・ブランカ半々の白から。フローラルな香り、フルーティな味で飲みやすいワインです。「リェオネール・ロッチ Lleoner Roig 2017」:同じく「ラボス」畑のガルナチャ・ロジャの古木を使い、オークの木桶で発酵させています。最初はブレンドにしか使っていなかったけれど、単一品種で作ってみたのがこれ。酸や、苦みもきりっとしたクールでシリアスな辛口です。「ソル・イ・ベントSol i Vent 2017」はオーガニックの「モンターニャ」畑のガルナチャ・ネグラ、モナストレル、シラー。黒いベリー感いっぱいでボリューミー。「テレス・ネグレTerres Negres 2016」も「ラボス」畑。古木のカリニェーナ・ネグラにガルナチャ・ネグラを少し。「黒い土」という名前のように、墨のような黒く艶のある香りで、クリーンで力強い。「コマ・ブルナComa Bruna 2016」は「ラボス」畑のカリニェーナ・ネグラ100%。大変濃い色で、タンニンもしっかりした荒っぽさのあるワイン。開くのに時間のかかりそう。

そして、もうお暇しようとしていた時、蒸留器の周りに集まっていた方々から「これを試してみなさい」と、渡されたのが出来立てのオルホ。アルコール度、高!

アナさんは様々なことを試していて、ここでもダマフアナをいくつか発見。ソレラ形式の熟成樽もあれば、アンフォラもありで、将来も、とても楽しみなボデガでした。

その晩はロゼスRosesの「ホテル・テラサHotel Terraza」のレストランで、「セリェ・プジョル・カルゴル・マサラック Celler Pujol Cargol Masarac」のダビド・プジョール・カルゴルDavid Pujol Cargolさん、「セリェ・ジェリセナCeller Gerisena」、「マス・リュネス Mas Llunes」の方、「AV ボデゲル AV Bodeguers」のフェラン・アルカセルFerran Alcàcerさんたちと試飲夕食会がありました。真っ暗になってから行ったので全然わかりませんでしたが、後で聞いたところによると、このホテル&レストランは素晴らしいオーシャンビューなのだそうです。

「セリェ・プジョル・カルゴル・マサラック」はマサラックMasaracというモリェトに近い村にあります。ダビドさんは1986年、この村の「畑の中で生まれました」とのこと。ボデガをオープンしたのは4年前。一家が代々栽培してきた2.5haの畑で伝統的な品種を栽培しています。ブランド名は「エル・ミサジェEl Missatger」メッセンジャーという意味です。最初の白は「セレクシオSeleció 2017」。ガルナチャ・ブランカ、ガルナチャ・ロジャ、マカベオ、カリニェーナ・ブランカ。同じ畑に植わっているものを一つのワインにするという昔からの造り方です。ガルナチャ・ロジャが入っているので色が濃いとのこと。辛口で力強いのですが、口当たりの優しいワインです。赤は同じ「エル・ミサジェ」のカリニェーナ・ネグラ100%。砂質の沖積土の70~80年の畑です。セメント槽で12か月熟成で、安定感のあるワイン。「カリニェーナはよく熟していないと、いいワインになりません」とのことでした。

「セリェ・ジェリセナ」はガリゲリャGarriguella村で1963年に創設された協同組合で組合員は55軒。173haの畑のうち30haは70年以上の畑です。試飲したのは粘板岩土壌の畑の樹齢50年のガルナチャ・ブランカで造る「ブラン・デ・ジェリセナ Balnc de Gerisena 2017」。辛口で料理に合わせやすい、飲みやすいワインです。「ネグラ・デ・ジェリセナNegra de Gerisena 2017」はガルナチャ・ネグラ75%、カベルネ・ソーヴィニョン25%で、パーティで飲むにはぴったり。いずれもシンプルなラベルのGが印象的です。

「マス・リュネス」は1389年からガリゲリャで農業に携わっていた一家が2000年からボデガとしてワインを造り始めたものです。80haの畑ではガルナチャやカリニェーナといった地場品種を栽培していて、現在オーガニックに移行中。「シングラルスSingulars 2017」は2hしかないガルナチャ・ブランカ100%。粘板岩土壌からくるミネラル感を持った、口当たりは柔らかいが力強さのある辛口白です。「フィンカ・ブタロFinca Butarós 2013」は120年の古木の畑「ブタロ」のカリニェーナ・ネグラ60%とガルナチャ・ネグラ40%のワイン。フレッシュさがあるしっかりした辛口です。

「ADボデゲル」は2002年にアルカセル・ビラルマウAlcàcer-Vilarmau家が創設。5haの畑を入手し、メルロー、シラー、ガルナチャ・ネグラに植え替え、2007年に最初のワイン3000本を出荷するに至り、徐々に生産量を上げてきています。試飲したのは「エリティアElitia 2016」と「ネレウスNereus 2015」。「ネレウス」は3つある畑の一つの名前で、ガルナチャ・ティンタだけの畑です。ミネラル感のある繊細で軽やかなワインです。

エンポルダをご存知ですか?(3)に続く。 Sigue a ¿Conoce Empordà? (3)

 

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