カバ=CAVAの名前は日本でももうかなり一般的になりました。スペインのスパークリング・ワインで、原産地呼称カバの認定地域内で、統制法に定められたぶどう品種を使って、伝統的な瓶内二次発酵製法で造られたものというのが基本的な定義です。
カバの原産地呼称認定地は大部分がカタルーニャ州にありますが、赤ワインで有名なリオハに18か所、その東隣のナバラ州に2か所、その東、カタルーニャ州との間にあるアラゴン州に2か所、ポルトガルとの国境にあるエストレマドゥーラ州に1か所、地中海沿岸南部のバレンシア州に1か所あります。
生産量の95%はカタルーニャ州が占め、なかでもカバの都といわれるサン・サドルニ・ダ・ノヤSant Sadurní d’Anoiaが90%を占めています。その数値の大半を生産しているのが最大手、フレシネFreixenetとコドーニュCodorniuの2社です。
フレシネFREIXENET
サン・サドルニ・ダ・ノヤ駅にはバルセロナのサンツ駅から約1時間で到着します。初めてでも迷うことなく行けるのがフレシネです。駅を出て左を見ると、すぐ目の前に見える突き当りがフレシネの塀です。そこを左に曲がってすぐ右に曲がるとエントランス。FREXINETと大きく書かれた素敵な建物の前庭には、看板商品ともいえるカバのコルドン・ネグロのボトルの形をしたバイクが!
この日迎えてくださったのは、カバの最大の生産量を誇るフレシネ者の醸造総責任者、マネル・キンタナ・ガナさん。勤続35年とか。無数のボトルが眠る地下の熟成庫=カバでお話を伺いました。この最も古い熟成庫は1923年に、モデルニスタ様式で、地下20メートル以上の深さに掘られたものです。現在は総面積16万㎡の熟成庫に1億2千万本のカバが眠っているそうです。
フレシネは1861年、フランセスク・サラ・フェレスがアメリカ向けのワイン生産を始めた会社が基になっています。その後1889年、跡取り娘のドローレス・サラはペドロ・フェレールと結婚し、カバの生産に着手しました。ペドロは「ラ・フェシェネダ(トネリコの木)」という名前の畑で育ったため、フレシネというニックネームで呼ばれていました。そこで新しいカバに名前を付けるにあたり、フレシネを使ったのでした。
フレシネのカバのブランドといえば「コルドン・ネグロCordon Negro」が有名ですが、先にできたのは甘口の「カルタ・ネバダCarta Nevada」です。1941年、スペイン内戦のなか、夫と息子が戦場に出た後を守りつつ、妻のドローレスがあえて発売した、ほんのり甘いセミセコの製品です。日本でもおなじみの黒いボトルで辛口、ブルットの「コルドン・ネグロ」が登場したのは1970年代のことです。いずれも伝統的なカタルーニャのブドウ品種で、カバの基本3品種であるパレリャダ、チャレロ、マカベオが使われています。
フレシネは若者向けから通向けまで様々な製品を造っていますが、ぜひ品質の高いものをお試しいただきたいので、ここでは伝統的な3品種を使った「ブルット・バロッコBrut Barroco」をご紹介します。
パレリャダ40%、マカベオ30%、チャレロ30%。瓶内熟成30~36か月です。柑橘系の香りでフレッシュ。ソフトな口当たりで、複雑実のある、バランスの良い飲み口です。ボトルのデザインもバロックで、ゴージャス感があります。何かの記念日に飲みたいカバです。
また、2016年に制定されたカバ・デ・パラヘ・カリフィカドCava de Paraje Calificado(特選区画カバ)認定のカバ「カン・サラCan Sala」もあります。このカテゴリーは、単一区画の畑のブドウだけで造られワインを瓶内二次発酵させ、36か月以上熟成させた、辛口のヴィンテージものが認定される制度で、初年度に認定された12本のうちの1本です。フェレール・サラ家が、代々維持してきたボデガを1999年に修復し、2004年から「カン・サラ」というブランドのカバだけを造ってきたものです。2007年ヴィンテージはチャレロとパレリャダを使った80か月瓶熟のブルット・ナトゥレです。
コドーニュCODORNIU
生産量ではフレシネに次ぐ2位。ですが、カバの歴史を語るにあたり、絶対に外せないのがコドーニュです。それは、最初にカタルーニャの地元品種であるマカベオMacabeo、チャレロ Xarel·lo、パレリャダ Parelladaを使って、瓶内二次発酵製法でスパークリング・ワインを商品としてつくり出した会社だからです。
その歴史は16世紀、1551年に始まります。この年にジャウメ・コドーニュがワイン造りをしていたという記録が残っています。1659年、唯一の継承者だったアナ・コドーニュはミケル・ラベントスと結婚します。以後ラベントス家が家業を継き、1872年、ジョセップ・ラベントスによって最初のカバが製品化されたのです。けれども社名は創始者ファミリーに敬意を表し、コドーニュを使っています。
コドーニュのボデガはサン・サドゥルニ・ダノイアの町の中心から少し離れたところにあります。同社のホームページの案内によると、駅から歩いて30分弱。門の外からも見えるボデガの姿は誰が見ても紛うことのないモデルニスタ・スタイル。1915年、ジョゼ・マリア・プッチ・イ・カダファルクJose Maria Puig i Cadafalchによってボデガとして作られたもので、1976年、フアン・カルロス前スペイン国王によって歴史的芸術的国家記念建造物に認定されています。広大な敷地の中には美しい庭園や邸宅もあって、ゴージャス感いっぱい。
熟成庫はモデルニスタ建築の地下にあります。煉瓦で壁を固められた洞窟が延々と続き、各通りには名前が付けられていて、町中の通りの標識のように、プレートが貼ってあります。輸出先である日本を代表して、CAVA TOKYOもありました。
コドーニュはシャルドネを使用した「アナ・デ・コドーニュAnna de Codorniu」を1984年に売り出したり、ピニ・ノワール100%で造ったロゼを2002年に発表したり、カバの世界でパイオニア的で存在であり続けています。
カバ・デ・パラヘ・カリフィカドには、「ラ・フィデウエラLa Fideuera(同名の2.61haの畑のチャレロ100%)」、「エル・トゥロス・ノウEl Tros Nou(同名の1.68haの畑のピノ・ノワール100%)」、「ラ・プレタLa Pleta(同名の7haの畑のシャルドネ100%)」の3つのカバが認定されています。