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グランデス・パゴス・デ・エスパーニャ1/3 Grandes Pagos de Eapaña 1/3

Grandes Pagos de España Logo「スペインの偉大なパゴGrandes Pagos de Eapaña」という名前を冠したボデガのグループがあります。パゴPagoというのは最近スペインのワイン関係でよく使われる言葉で、畑の区画を意味しています。ただ、単なる畑ではなく、伝統的に独自のテロワールを持つブドウ畑として認識されている区画を指しています。

個性ある単一畑のブドウだけで造られる特性を持ったワインの価値を認めてほしいという動きは1990年代末からあり、当初、故グリニョン公爵カルロス・ファルコ氏が先頭に立って提唱していました。こうして2000年、彼のマルケス・デ・グリニョン・ファミリー・エステイトMarqués de Griñón Family Estatesを筆頭に、フィンカ・エレスFinca Élez、カルサディーリャ Calzadilla、デエサ・デル・カリサル Dehesa del Carrizal、パゴ・デ・バリェガルシアPago de Vallegarcíaの5社が集まって形成したのがグランデス・パゴス・デ・カスティーリャGrandes Pagos de Castillaです。

この考え方をもとに2003年には国家的に原産地呼称制度のカテゴリーとしてビノ・デ・パゴVino de Pago(=VP)が認定され、2022年の現在、24か所が認定されています。

これと並行してグランデス・パゴス・デ・カスティーリャは2004年、著名な醸造家マリアノ・ガルシア氏が率いるマウロMauro、サン・ロマンSan Román、アアルトAaltoも加え、全12社でグランデス・パゴス・デ・エスパーニャ(略してGPE)として拡大スタートしました。

現在、参加ボデガ数は36社に至っていますが、必ずしも原産地呼称制度のVPに認定されたボデガというわけではなく、自社畑のブドウ100%で、そのテロワールを表現したワイン造りを提唱するボデガが参加していて、VP認定のボデガも8社あります。

そのブドウ栽培総面積は2,182ha. 栽培品種総数60種。黒ブドウが28品種、白ブドウが32品種です。32社がオーガニック栽培で、そのうち15社が認定済。9社がビオディナミで、うち3社が認定済です。

今回は、9月26日から10月5日にかけて、スペイン中央北部の一帯に点在するGPEのボデガ15社を訪問してきました。

 

最初の週はカスティーリャ・イ・レオン州にあるボデガを訪問するので、中心都市のバーリャドリに宿泊しました。この町は規模は小さいですが、歴史が詰まっていて、趣があります。何より、市庁舎がある中心広場周辺にバルがたくさんあるのが魅力です。最近はタパスがピンチョスの形に作られているところが多く、かなり似たり寄ったりになっています。そんななか、クリーミーなクロケータス(コロッケ)で有名なバル「エル・コルチョ」はいつも変わらず、外まで人があふれる人気のバル。ワイン1杯とコロッケ1個で幸せな気分になれます。

 

9月26日(月)はDOルエダRuedaのボデガ2軒を訪問。DOルエダはバーリャドリの南に広がる、総栽培面積2万haほどの地域です。その地場品種ベルデホの白ワインが、今やスペイン各地のバルの定番として名を馳せています。けれどもその個性はボデガによって大きく異なります。今回訪問した2社も、それぞれのベルデホのワイン造りにかける意識と手法に大きな違いを感じました。

 

ベロンドラーデBelondrade

ホテルに迎えに来てくれたのはジャン・ベランドラーデJean Belondrade Lurtonさん。創設者ディディエ・ベランドラーデ氏の息子です。父はフランス南部のモントーバン、彼はボルドー生まれ。けれどもスペインで素晴らしい白ワインを造りたいという思いのもと、出会ったのがルエダの地とその固有品種ベルデホでした。1994年にワイン造りに着手し、1996年、最初に発売された製品が大成功を収めたのを機に、「スペインの中のボルドー式シャトー」を目指し、自社畑の確保に力を入れてきました。こうして2000年、ラ・セカLa Secaというワイン造りの伝統ある町の「キンタ・サン・ディエゴQuinta San Diego」という土地に現在のボデガを完成しました。

「ベランドラーデ」のワインは“100%自然の酵母の力で自然に発酵してできるワイン”ということで、そのもとである畑が自然に、良好な状態にあることが基本です。キンタ・サン・ディエゴにある畑は合計40haですが、散在する23の区画は各々の土壌、日照を受ける向きといった自然条件が異なり、樹齢、台木、クローンも違うので、それぞれの個性を持ったブドウが収穫できます。

最初に見せていただいたのは樹齢70年の畑で、当然ながら株づくりです。表面がカント・ロダドcanto rodadoと呼ばれる角の取れた丸い石だらけの砂質土壌。その下層は粘土質とのこと。カント・ロダドの層は場所によって深さ10㎝から60cmあり、区画によってカント・ロダドの層、砂質の層、粘土質の層、石灰岩層の厚さが異なります。また同じ区画内でも植える方向を変えてある部分もあります。オーガニック栽培で、収穫は手摘み、発酵は区画ごとに容器を分けて行っています。

醸造家はマルタ・バケリソMarta Baquerizo Mesonero-Romanosさん。最初からここでワイン造りに携わっているという心強い大ベテランです。

製品は3つ。看板ブランド「ベランドラーデ・イ・リュルトンBelandrade y Lurton」は、23の区画のベルデホをそれぞれフレンチオーク樽で発酵させ、各区画の個性を生かしながらブレンドした、ボデガのエッセンスともいえるワイン。「キンタ・アポロニアQuinta Apolonia」は姉妹品ともいえるワインで、発酵には70%ステンレスタンクを使用。他に「キンタ・クラリサQuinta Clarisa」というテンプラニーリョとシラーのブレンドタイプのロゼがあります。

今回は「アポロニア2021」と「ベランドラーデ・イ・リュルトン」2020と2017を試飲。「ベランドラーデ」は時を経るにしたがって複雑味を増し、エレガントに熟成していくのが感じられる素晴らしいベルデホです。6~8年、おいしく飲んでいただけるような造りをしているとのことです。

 

フィンカ・モンテペドロソFinca Montepedroso

次の訪問は、ラ・セカの隣、DOルエダの統制委員会もある町、ルエダの「フィンカ・モンテペドロソ」です。このボデガはリオハを拠点にするマルティネス・ブハンダ家Familia de Martínez Bujandaが持つ5つのボデガ(他にDOCaリオハのビニャ・ブハンダViña Bujandaとフィンカ・バルピエドラFinca Valpiedra、DOラ・マンチャのフィンカ・アンティグアFinca Antigua、DOに拘らないワインを造るコセチェロス・イ・クリアドーレスCosecheros y Criadores)のうちの1つです。

2012年開業の新しいボデガです。マルティネス・ブハンダ家はルエダの在来品種ベルデホで高品質のワインを造ろうという意図のもとに、この土地を入手し、最新式のボデガを建設しました。案内してくださったのは5代目アドリアン・マルチネス・ブハンダAdrián Martínez Bujandaさん。畑はボデガを囲む25haで、ボデガの名前「Monte=山、Pedroso=岩が多い」が示すように、沖積土で、石ころに覆われた土壌です。栽培しているのは全てベルデホで、昨年からオーガニック栽培しています。垣根作りで、点滴灌漑設備は万全。熱暑だった2022年は灌漑したそうです。

ワインは2種類あり、いずれもステンレスタンクで発酵します。「フィンカ・モンテペドロソ2021」は5か月澱と共に置いたもので、フレッシュなベルデホらしさを感じてもらうためのものですが、この日、2017年と2015年も試させていただいたところ、年と共に深みを増してボリューム感が出てくることが分かりました。もうひとつの「モンテペドロソ・エノテカ」は14か月間卵型のセメントタンクで澱と共に熟成しています。こちらは複雑味もあってしっかり造られている感があります。

 

9月27日(火)はDOトロToro https://www.dotoro.com/ のボデガを2軒訪問。DOルエダの西隣にあります。迎えに来てくれた車の運転手さんがマスクをしていないので、「これは公共交通機関?」と聞くと、笑って、「中間だね」と言うので、マスクは止めました。スペインでは公共交通機関と医療関係機関ではマスク着用義務があり、地下鉄やバス、電車そしてもちろんタクシーでも、みんなかなり真面目にマスクをしていました。

トロといえばティンタ・デ・トロTinta de Toroという地場品種で有名です。1990年、カスティーリャ・イ・レオン州が州内のブドウ品種のクローンを調査した結果、ティンタ・デ・トロはトロの固有地場品種だということが証明されたと原産地呼称統制委員会のオフィシャルサイトに記されています。ただ一般的にはテンプラニーリョTempranilloが長い時を経てトロの地に順応した結果独特の個性を持つようになったものと語られています。

いずれにしろ、この地は土壌が砂質なため、19世紀末に広まったフィロキセラにも侵されることなく残った自根の樹が多いのは確かです。

 

サン・ロマンSan Román

サン・ロマンは、後日訪問する「マウロMauro」、DOリベラ・デル・ドゥエロにある新しいボデガ「ガルモン・コンティネンタルGarmón Continental」とともに、ベガ・シシリアVega Siciliaの元醸造家として知られるマリアノ・ガルシアmariano García氏とその2人の息子、アルベルトAlbertoとエドゥアルドEduardo(醸造家)が運営するボデガです。ガルシア一家は1995年にいくつかの畑をチェックし始め、1996年に、DOトロの認定地の中では北東の端に位置するペドロサ・デル・レイPedrosa del Reyにある畑を入手し、97年にボデガを完成しました。

まだボデガがなかった頃、マリアノ・ガルシア氏がわざわざトロまで連れて行ってくれ、「この樹を見ろ」と、力強く枝葉を伸ばしたティンタ・デ・トロの古木を見せてくれたのを思い出します。素晴らしい未来を秘めた宝物のような樹を見つけた感激を伝えたかったのでしょう。彼の目に狂いはありませんでした。

この日も、まずは畑に向かいました。案内してくれたのはテクニカル・ディレクターのビクトル・フェルナンデスVictor Fernandezさん。風が冷たかったのに短パンで、全然気にしていないのがすごくエネルギッシュです。

現在畑は150ha。自根のティンタ・デ・トロがほとんどで、他にはガルナチャ20ha、マルバシアが12~14haぐらい、とのこと。ビオディナミ栽培です。水はけのよい砂質の土壌で、石ころの多い区画もあります。さらに年間降水量は200~400mmという厳しい条件なので、ブドウ樹は水分を含む粘土質の下層に至るまで、しっかりと根を伸ばしています。

ボデガのトップワインは「カルタゴCartago」というブランドですが、このワインはパラヘ・デル・ポソParaje del Pozo(井戸)という、本当に井戸のある、4.5haの畑のブドウだけで造られています。砂質で石ころが混じった土壌で、砂質の層は1m。ゆるい傾斜を登っていくと、樹が小さめになってきます。樹齢75年だそうです。「カルタゴ」は素晴らしく洗練された魅惑的なワインでした。

主要ブランドで、ティンタ・デ・トロの個性を表現した「サン・ロマン」の他、ガルナチャもブレンドしてあるフレッシュ感のある「プリマPrima」、樹齢60年のブドウで造る白ワイン「サン・ロマン・マルバシアSan Román Malvasía」、色合いも風味もソフトで優しい「サン・ロマン・ガルナチャSan Román Garnacha」がありました。

熟成にはフレンチオークとアメリカンオークの225ℓや500ℓの樽を使いますが、フルーティさを維持したい「プリマ」にはフードルも使っています。

 

ヌマンシアNumanthia

ヌマンシアというのは、紀元前134年ごろ、攻めてきたローマ軍に対峙し、20年間耐えた勇敢な町ヌマンシアにちなんで付けられた名前です。

ボデガの創立は1998年。「ヌマンシア」というワインが市場に出た時、そのエレガントで洗練されたスタイルに驚かされたのを覚えています。当時、トロのワインは既に以前よりスマートになってはいましたが、やはり周囲の産地で造られるテンプラニーリョのワインに比べると、荒っぽさのある土着ワインという感がありました。そこに登場した「ヌマンシア」はトロのイメージを一変しました。

今も素晴らしくエレガントな「ヌマンシア」。ディレクターのルーカス・ロウィLucas Löwiさんが説明してくださいました。

このワインが生まれる畑はDOトロの北から南まで、広い範囲に散在する157の小さな区画で栽培されています。最も離れている区画間の距離は70㎞に及ぶそうです。合計すると110haですが、1つの区画の面積は1haに至りません。それは古い良い畑を求めて、小さな農家から買ったり、長期契約を結んだりして集めたからです。樹齢は100年を超し200年に至るものもあるとのこと。土壌は基本的に砂質で石ころだらけですが、畑によって、深さ、石ころの混じり方、植えてある方向など諸条件が異なります。もともと農家の土地だったので、ブドウの合間に果物の樹が植わっていたりします。

「ヌマンシア」には樹齢55~200年のティンタ・デ・トロを使いますが、若さやフレッシュさを感じさせる「テルメスTermes」は樹齢50年までのものを使います。ボデガのトップワイン「テルマシアTermanthia」用には、自根で樹齢120年以上の区画が5つか6つ選ばれ、その収穫量は1haあたり1000㎏ほどしかありません。20か月フレンチオーク樽で熟成後、5年間瓶熟します。その深み、複雑みはさすが。繊細で、シリアスなワインです。

現在、ヌマンシアはMHD モエ・ヘネシー・ディアジオの傘下に入っています。

 

9月28日(水)はVTカスティーリャ・イ・レオンVino de la Tierra de Castilla y Leónのボデガを訪問しました。カスティーリャ・イ・レオンはスペイン国土の18,6 %を占める最大面積を持つ自治州で、このVTはそのすべてをカバーしています。従って、この州内にある9つのDO、4つのVC(Vino de Calidad=DOになる一段階前のクラス)の認定地域から外れた場所にあるボデガやDOやVCの規定に嵌らない造り方をするボデガが名乗ることができます。

フエンテス・デル・シレンシオFuentes del Silencio

このボデガはDOレオンの認定地内にあります。けれどもDOは名乗らずVTにしています。位置的にはカスティーリャ・イ・レオン州の南部。エレロス・デ・ハムスという村のハムス川沿いの一帯に畑があります。バーリャドリからはかなり離れているので、この日の訪問はここ1軒だけです。

周りには何もない小さな古い村で、レンガを積んで作った小さな家々が肩を寄せ合うように並んでいるだけです。到着したのはまさに収穫したブドウが運び込まれているときでした。白ブドウ。摘まんでみると、甘くてジューシー、快い酸味。「これは何?」「パロミノ。」

こんなところで最初に出合ったブドウがアンダルシアのシェリーの品種パロミノとは!。ガリシア州やDOルエダではパロミノはよく使われていますが、レオンの端にもありました。

この地域はローマ時代には既にワインが造られていたし、サンティアゴ・デ・コンポステラに向かう巡礼者たちにワインを提供していたので、長い歴史があります。またこの地域は地下から湧き出る泉が多かったことから、ボデガは「静寂の泉(フエンテス)」と名付けられています。

オーナーのミゲル・アンヘル・アロンソMiguel Ángel Alonsoとマリア・ホセ María José Galeraのご夫妻は、地場品種が栽培されている古い畑の力を生かし、テロワールにこだわったワイン造りを目指して、この地にボデガを開きました。畑は海抜800~1000m地帯にあり、土壌は全体に泥交じりから砂質で、石ころが多く、ニ酸化ケイ素を多く含んでいます。ブドウ栽培面積は合計30haですが、小さな区画に分かれていて、区画ごとに土壌も違えば、植えられている品種も様々です。

使用される品種は全てこの地の古い畑に植わっていたもので、白ブドウがパロミノPalomino、ゴデーリョGodello、ドニャ・ブランカDoña Blanca。黒ブドウはメンシアMencía、プリエト・ピクドPrieto Picudo、アリカンテ・ブシェAlicante Bouschet、ガルナチャGarnachaなど。

例えば白ワインの「マタペレソサMataparezosa」には樹齢90年以上のドニャ・ブランカ、ゴデーリョ、パロミノが使われていますが、泥と砂に石英と粘板岩が混じった土壌の畑に混植されているものです。赤ワインの「ラス・キンタスLas Quintas」の場合は同名の区画に植わっている樹齢80年以上のメンシアが85%で、混植されたアリカンテ・ブシェ、パロミノも使われています。ブドウはフレンチオークの円筒型の木桶で、足踏みで潰され、発酵され、500ℓの樽で熟成されます。

このボデガのワインはそれぞれ畑、造り方、熟成法に個別の特性を持っています。造っているのはマルタ・ラモスMarta Ramasとミゲル・フィサク Miguel Fisacのご夫妻。フランス各地でワイン造りに携わったのち、カリフォルニア、ニュージランド、南アフリカで経験を積み、スペインに戻ってきました。

ボデガの中には小型のステンレスタンク、円筒型の木桶や樽、セメント槽などさまざまな容器が並んでいます。ちょうど新しい卵型の陶器製の容器を買ったところで、これを熟成に使ってみようとしていました。今も面白いですが、これからも楽しみなボデガです。

 

*グランデス・パゴス・デ・エスパーニャ2/3に続く

 

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