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グランデス・パゴス・デ・エスパーニャ2/3 Grandes Pagos de Eapaña 2/3

カスティーリャ・イ・レオン州にあるグランデス・パゴス・デ・エスパーニャ所属のボデガ訪問記の続きです。残りは2日。最初の日は、朝バーリャドリを出発して3軒訪れ、その日は、キンタニーリャ・デ・オネシモ村のホテル「フエンテ・アセーニャFuente Aceña」に宿泊しました。村はごくごく小さく、中央広場の周りにバルが2~3軒あるだけです。ただ、ホテルだけはモダンでオシャレ。レストランも、モダン・スパニッシュの料理で、素敵でした。ホテル到着時は突然の土砂降りの雨でしたが、すぐ晴れ、空いっぱいに二重の虹がかかり、すばらしい気分にさせてくれました。その翌日はボデガを2軒訪問した後、バーリャドリに戻り、楽しいバル巡りで締めくくりました。(写真はVPアバディア・レトゥエルタの畑)

 

9月29日(木)はVTカスティーリャ・イ・レオンとDOリベラ・デル・ドゥエロのボデガを3軒訪問。

マウロ Mauro はスペインでも高名なボデガの一つです。その理由の一つは創設者で醸造家がスペインの最高峰ワイン、そして、かつて孤高の超ブランド・ワインだった時代の「ベガ・シシリアVega Sicilia」を30年間造ってきたマリアノ・ガルシア氏であることは確かです。もう一つの理由は、もちろんワインの品質が高いからです。けれども、それ以外に、このボデガがDOリベラ・デル・ドゥエロの認定地域からわずかに外れたトゥデラ・デ・ドゥエロ村にあったことから、DOを名乗れなかったけれど、DOなしでも品質で売れる時代の先駆けを作った点に大きな意義があると思います。

最初に「マウロ」を訪れた時、ボデガとして使われていたのは17世紀に建てられた舘でした。その後2004年に村の郊外に新しいボデガを作ったため、村の中の館は熟成庫とボトリングされた歴代のワインの保存庫に使われるようになりました。

今回は新しいボデガをアナ・ポルテラAna Portelaさんが案内してくれました。ボデガも畑もドゥエロ川の右岸にあります。ブドウの栽培総面積は90haで、11の区画に分かれています。その土壌は基本的に石灰分を多く含む粘土質ですが、区画によって異なり、そのサンプルがテイスティングルームに展示してありました。全部株仕立てで平均樹齢35年。オーガニック栽培で、現在ビオディナミに移行中。テンプラニーリョが大半で、他にシラーとカベルネ・ソーヴィニョンがあります。

 ちなみに「マウロ2020」はテンプラニーリョ85%で、あとの15%はシラーとカベルネですが、「マウロVS」は樹齢60~90年の限定畑のテンプラニーリョ100%、「テレウスTerreus」は「マウロ」が所有する畑の中で最も古い区画、エル・クエバ・バハのテンプラニーリョ100%です。

収穫が終わったばかりのころで、発酵が終わったタンクに残った皮や種などをスコップで掻き出しているところに出合いました。アルゼンチンから収穫体験に来ている人もいるそうです。

唯一の白ワイン、「マウロ・ゴデーリョMauro Godello」。ゴデーリョはDOリベラ・デル・ドゥエロの認定品種ではありません。ブドウはカスティーリャ・イ・レオン州の北西部にあるDOビエルソで栽培されたもので、マウロのボデガに持ってきて醸造しています。このワインだけ、500ℓのフレンチオーク樽で発酵させる特別室がありました。。

 

セイ・ソロ Sei SoloはもとDOリベラ・デル・ドゥエロの統制委員会事務局長で、マリアノ・ガルシア氏と共に「アアルト」を創設した、ハビエル・サッカニーニJavier Zaccagnini氏のボデガです。

彼は1999年に「アアルト」を立ち上げ、注目されました。次に2005年、DOルエダでベルデホの白ワインを造るべく「オシアンOssian」を創設。この時は、卵型のセメントタンクを導入し、熱烈に白ワインを語っていました。けれども、2007年ごろから、これまでにないフルーツ味のある繊細でエレガントなテンプラニーリョのワインを造ろうという構想のもと、研究した結果、独自のボデガを開設すべく「アアルト」と「オシアン」の株を売って、DOリベラ・デル・ドゥエロの地で、独自のボデガ、「セイ・ソロ」に専念することにしたそうです。

”研究した結果“というのは、実は、「アアルト」のボデガの片隅を借りて毎年、自分のワイン造りを模索してしいたことを指しています。ハビエル氏曰く、「”いい加減にしろ“と言われ始め、”そろそろ出ていこうか“ということで、2018年に独立したんだ!」いつも何をしでかすかわからない面白い方です。今は、少し控えめな感じの、息子のマイケルMichaelが醸造家として一緒に働いています。

 畑はラ・オラという町にあります。前出のマリアノ・ガルシア氏がベガ・シシリア用に、地域の協同組合に属する栽培農家から良いブドウを選別して買っていたことから、彼も古い樹が植わった良い畑を知っていたので、それを入手したり、長期契約したりして、現在は27の小さな区画を合わせて33haの畑で栽培されるブドウを使っています。

主要ブランドの「セイ・ソロ」はラ・オラ村にある樹齢60~100年の畑のものだけを使い、各区画別に発酵します。マロラクティック発酵を行う樽は2年使ったフレンチオーク製。ウェブサイトのテクニカルシートによると、マロラクティック発酵の温度は14℃以下で、数か月かけてゆっくり行うとのこと。熟成には600ℓの樽を使っています。

もう一つのブランド「プレルディオ・デ・セイ・ソロPreludio de Sei Solo」には、別の村の畑のブドウや少し若い畑のブドウも使い、熟成には228ℓ、300ℓ、500ℓ、600ℓの樽を使っています。

ちなみに「セイ・ソロ」というのはハビエル氏が好きな作曲家ハッバのバイオリン・ソナタ全6曲の楽譜の最初に書いてある言葉を採ってつけられた名前です。「プレルディオ」はプレリュード、つまり前奏曲という意味なので、「セイ・ソロ」への導入的なワインという位置付けでしょう。

 

アロンソ・デル・イェロ Alonso del Yerro はこの日最後の訪問先で、DOリベラ・デル・ドゥエロの統制委員会本部もある町、ロアにあります。このボデガの正式名は「ビニェドス・アロンソ・デル・イエロViñedos Alonso del Yerro」で、ボデガスでもなくボデガス・イ・ビニェドスでもありません。つまり醸造設備より畑が主役といった考え方が伝わってきます。

 ハビエル・アロンソとマリア・デル・イェロご夫妻はもともとリオハの中心都市、ログローニョにボデガを持っていました。けれども土地に根差した質の高いワイン造りに専念したいという思いで、これまでのビジネスは捨て、2002年、DOリベラ・デル・ドゥエロに新たに畑を買いました。フィンカ・サンタ・マルタFinca Santa Martaという名の所有地には、1980年代に植えられた26haの畑があり、その4つの区画はさらに36に区分されています。95%は垣根づくりです。

ワイン造りを担っているのは息子のミゲル・アロンソMiguel Alonso氏。リベラ・デル・ドゥエロがDOに認定されたのと同じ、1982年生まれだそうです。

高品質のワイン造りに徹底的に取り組むため、醸造コンサルタントにはボルドーの著名な醸造家ステファン・ドゥラノンクール氏を、畑の土壌分析には土壌微生物学の権威クロード・ブルギニヨン氏を招いています。

 ロアはDOリベラの中でも標高の高い地域で、ここは840mあります。土壌は粘土質、石灰質、砂利、砂質など様々ですが、各区分によって状況は異なります。全体に緩やかなスロープの地帯で、この日見に行った畑では、到着地点は表面が粘土質でしたが、斜面を下っていくと砂質になっていきました。

このボデガは3つのワインを造っています。看板ブランドの「アロンソ・デル・イェロ」はテンプラニーリョ100%、フレンチオーク樽で12か月(新樽10%)熟成したもので、フルーティさのある、とてもよくまとまった飲みやすいワインです。その上のランクの「マリアMaría」は粘土質土壌の「エル・シルコ」と石灰質で石ころの多い土壌の「ビオレタ」という、特性の違う2つの畑のブドウだけを使い、良い年にしか造られない、とてもエレガントなワインです。最後の1つはDOトロのティンタ・デ・トロを使った「パイドスPaydos」でした。

 

9月30日(金)はDOリベラ・デル・ドゥエロ地域内の2軒を訪問しました。いずれもその品質には定評のある著名なボデガです。

 

アアルト Aalto は既に登場している醸造家、マリアノ・ガルシア氏とハビエル・サッカニーニ氏が、高品質ワインを造るために、1999年に立ち上げたボデガです。ただ、最初は独自の醸造所はなく、2004年まで設備を借りていました。現在のキンタニーリャ・デ・アリバ村の、15haの畑がある土地にボデガを建設したのは2005年でした。拡張された現在のボデガが完成したのは2016年です。

 素晴らしいロケーションで、見渡すと周囲は同じ高さの尾根に囲まれています。畑は下を流れる川に向かって下る傾斜地にあります。この景色はドゥエロ川沿いの畑によく見られます。アアルトの醸造家、アントニオ・モラルAntonio Moral氏の説明によると、川の両側が同じ高さなのは、台地ができた後、その合間を川によって浸食されたからとのこと。

調べたところ、かいつまんで言うと、そもそもこの地域は海の底にあり沈殿物が堆積していました。それが古生代のヘルシニア造山活動によってメセタ(イベリア半島中央部の高原台地)として現れ、その後アルプス造山運動によってメセタの周囲に山脈ができ、第四紀の浸食、堆積によって現在のドウロ川低地が出来たということでした。

「アアルト」は現在130haの畑を持っていますが、区画が200以上あり、それがDOの認定地域の西から東にわたり、川沿いもあり、川から離れたところもある9つの村に分散しています。標高は750~950mまで様々、地形も土壌も気候も様々な固有の条件を持った畑があります。樹齢は40~100年、90%は株づくりです。

 ワインは「アアルト」と「アアルトPS」。「アアルト」は9つの村にある樹齢40~80年の畑のティント・フィノ(テンプラニーリョ)100%で造られます。フレンチオークとアメリカンオークの樽で18か月熟成。アルコール度14.5。リベラらしい濃さのあるしっかりしたワインです。「アアルトPS」の方は、限定畑です。ラ・オラ村にあるローム質、赤茶色の土、砂質、砂利、と部分によって異なる特性を持つ区画のブドウと、ラ・アギレラ村にある上層は砂質で、下層は粘土質の畑のブドウを使っています。いずれも樹齢は60~90年。こちらはアルコール度15%。大変エレガントですが、凝縮感がある力強いワインです。

「アアルト」では「ブランコ・デ・パルセラBlanco de Parcela」というベルデホの白ワインも造っています。地域内では西部にあるキンタニーリャ・デ・アリバ村にあるフエンテ・デ・ラス・オンタニーリャスという名の区画のブドウを使った単一区画ワインです。これはベルデホがDOリベラ・デル・ドゥエロに承認されていない品種のため、TVカスティーリャ・イ・レオンです。

 

・アバディア・レトゥエルタ Abadía Retuerta へは、「アアルト」のテイスティングにも参加してくれた、アルバロ・ペレスÁlvaro Pérez氏と共に向かいました。国道N122を西、つまりバーリャドリ方向に進み、「ベガ・シシリア」の前を通りすぎた先のサルドン・デ・ドゥエロ村にボデガはあります。整然とした美しさの壮大な建物が「アバディア(大修道院)・レトゥエルタ」です。

「アバディア・レトゥエルタ」はVTカスティーリャ・イ・レオンに登録されていましたが、2022年6月、VP(ビノ・デ・パゴ)に認定されました。昔から独自のスタイルを持ち、わが道を行くボデガというイメージがありました。それは、その成り立ちや条件を見れば納得です。

11世紀、国土回復運動が進み、この地がイスラム教徒からキリスト教徒の手に戻ると、修道院がいくつか建設されました。その中の一つが、現在のボデガのもと、ヌエストラ・セニョーラ・サンタ・マリア・デ・レトゥエルタ修道院で、完成したのは1146年のことでした。そしてワイン造りは盛んになっていきました。けれども19世紀、修道院が持つ多くの寄贈地を供出させ、競売にかけ、国庫を潤そうという目的のため発令された永代所有財産解放令により、ブドウ畑は修道士たちの手から離れます。その後フィロキセラの害もあり、ブドウ栽培は衰退していき、穀物栽培に取って代わられました。1988年、グローバル企業サンドスが、この修道院のオーナーでもあったスペインの種子会社を買収したところ、その土地のポテンシャルの高さに気づき、途絶えていたブドウ栽培をよみがえらせたのです。1994年に元シャトー・オーゾンヌのワインメーカー等の要職に就いていたことで知られるパスカル・デルベック氏を招き、現在のボデガ計画を立て、1996年に着手。この年に現在の醸造家、アンヘル・アノシバル氏Ángel Anocíbar(写真左)も参加しています。

畑は、所有する800haの山の各所にあるため、極ごく頑丈な車で凸凹の山道をかき分けながら向かいます。山は高度や部分によって植生が違うのが見て取れます。ということは各部分で土壌も気候も条件が異なるということです。頂上は標高900mほどの平地で、あたり一帯が見渡せます。一番低い畑の標高は700mほど。畑の大部分は北向き、つまりドゥエロ川に向かって下る斜面にあります。その中で70 haあるテンプラニーリョはフィロキセラ以前のクローン5種のものとのこと。ガルナチャやトウリガ・ナシオナル、ソーヴィニョン・ブラン他も栽培しています。訪問した日はカベルネ・ソーヴィニヨンの収穫をしていました。

試飲したのはまず、2011年から造り始めた白の「ブランコ・ル・ドメーヌBlanco LeDomaine」。メルローの畑の中でソーヴィニョン・ブランが発見されたことがきっかけになって出来たワインとのこと。ベルデホも少しブレンドされています。「セレクシオン・エスペシアルSelección Especial」は54の区画のブドウを別々に醸造し、ブレンドしたもので、主体のテンプラニーリョの他カベルネ・ソーヴィニヨン、シラー、メルロー、プティ・ヴェルド、ガルナチャが使われています。次の「パゴ・グランドゥーニャPago Granduña」は単一畑のシラー100%。続く「パゴ・バルデベリョンPago Valdebellón」は単一畑のカベルネ・ソーヴィニヨン100%。最後は「PV(Petit Verdot)2017」100%。ボルドーでブレンドに使われるプティ・ヴェルドが強烈な太陽のスぺインの砂質土壌の地で育つとどんなワインになるか。深い色。黒いベリーのコンポートや紅茶のような香り。しっかりしたタンニン、きれいな酸、まろやかな口当たり、豊かな風味で、ポテンシャルの高いワインになりました。

「アバディア・レトゥエルタ」の修道院はきれいに修復されてゴージャスなホテルとレストランとして使われています。その横には自家菜園があって、収穫された野菜はレストランで使われているそうです。ナスやトマト、イチゴもありました。何世紀も前、修道士たちも自家製の野菜と自家製のワインでナチュラルな食事をしていたことでしょう。

 

これでバーリャドリを中心とする地域の訪問は終了。週末はリオハの中心都市、ログローニョで過ごします。

 

グランデス・パゴス・デ・エスパーニャ3/3に続く

 

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