5月22日(水)
ボデガス・マラガ・ビルヘン Bodgas Málaga Virgen
これまで2日間はマラガ市から近いモンテス・デ・マラガとアクサルキア地域で、山々と深い谷の連続でしたが、今日からは違います。マラガ市を囲む山々の北側、つまり内陸側へ抜けた、アンテケラ低地と呼ばれる地域です。標高400m以上の平坦な地形で、サブゾーンで言うと、DOマラガではノルテNorte、DOシエラス・デ・マラガではノルテ・デ・マラガに分類されています。
最初は「ボデガス・マラガ・ビルヘンBodegas Málaga Virgen 」です。マラガのワインと言えば「マラガ・ビルヘン」と言ってもいいくらい有名な甘口ワインを造っているボデガです。
1885年、サルバドール・ロペスSalvador López Lópezが創業し、世界中に販路を広めたのが始まりです。1896年、兄弟のフランシスコFrancisco López López(後にマラガ市長にも就任)も加わり、「マラガ・ビルヘン」、「ソル・デ・マラガSol de Málaga」、「トラヒネロTrajinero」というボデガの3大ブランドを確立しました。現在は4代目に5代目も加わって、さらに事業を拡大しています。
このボデガはDOマラガとDOシエラス・デ・マラガで35種ものワインを生産しているとのこと。今回は伝統的なタイプを試飲させていただきました。そのため説明するに当たり、マラガのワインに関する様々な伝統的な用語が出てきます。
「トラヒネロ」は辛口長期熟成リキュールワインVino de licor añejo secoと名乗っています。ただ、辛口と言っても残糖約30 g/lです。これはセコ=辛口の残糖が17~32 g/lという規定のスパークリングワイン、DOカバのセコ=辛口と同じレベルです。ペドロ・ヒメネス100%で、果汁が発酵を終わり、アルコール度15%に至ったワインに、グレープアルコールを添加して18%まで上げ、同じくペドロ・ヒメネスで造ったティエルノで甘みを加えています。ちなみに、ティエルノTiernoとは天日干しして糖度を上げたブドウの果汁を発酵させ、グレープアルコールを添加して発酵を止め、甘みを残したワインのこと。「トラヒネロ」はアメリカンオーク樽で10年間、クリアデラとソレラのシステムで熟成されています。アニェホAñejoは通常は樽熟期間3~5年のものを指すので、このワインの場合、DOマラガの規則に従うと5年以上熟成のトラスアニェホTrasañejoの表示ができるレベルの長い熟成を経ています。
「マラガ・ビルヘン」もペドロ・ヒメネス100%で、ティエルノ、ドゥルセ・ナトゥラル、ナトゥラルメンテ・ドゥルセ、オロロソのブレンドに1%アロペを加えて、アメリカンオーク樽で熟成したもの。DO マラガの場合ドゥルセ・ナトゥラルはフレッシュなブドウの果汁を使用し、その発酵をアルコール添加で止めた甘口ワイン。ナトゥラルメンテ・ドゥルセというのはDOマラガでは ペドロ・ヒメネスand/or モスカテルの過熟果実、つまり糖度が高い実だけを使い、発酵によるアルコールだけで13%以上、残糖80g/l以上の甘口ワインのことです。
「ドゥンケルDunkel」はティエルノ、ドゥルセ・ナトゥラル、20年以上熟成のワインも含め、いろいろなワインのブレンドにアロペを加えた真っ黒なワインです。ドゥンケルというのはドイツ語でダーク、色が濃いという意味だそうです。それもそのはず、アロペの割合は50%。ワインの半分はアロペという珍しい製品です。ただ、色の割には、ほろ苦さのあるすっきりしたワインでした。
「モスカテル・デ・ラ・ファミリア」と「ペドロ・ヒメネス・デ・ラ・ファミリア」はいずれも天日干ししたブドウを搾り、軽く発酵させ、アルコール添加で発酵を止めて甘さを残したワインをフレンチオークで樽熟したものです。
「トラスアニェホ」は熟成期間30年以上のワインのシリーズで、「セコ・トラスアニェホSeco Trasañejo」は前出「トラヒネロ」と同じ造り方で残糖約20 g/lです。「モスカテル・ドン・サルバドールMoscatel Don Salvador」はモスカテル・デ・アレハンドリアで造ったいくつかの甘口タイプのワインのブレンド、「ペドロ・ヒメネス・ドン・フアンPedro Ximénez Don Juan」はペドロ・ヒメネスで造ったいくつかの甘口タイプのワインのブレンドで、いずれも残糖300 g/lのごく甘口です。
最後に出てきたブランデーはペドロ・ヒメネスのワインを蒸留したものを、「マラガ・ビルヘン」を熟成していた樽で熟成したもので、ソフトな口当たりでした。
「ボデガス・マラガ・ビルヘン」は、モスカテル・デ・アレハンドリアはアクサルキア地区のもの、ペドロ・ヒメネスはノルテ地区のものを使っています。
伝統的なDOマラガの規則に関しては、原産地呼称統制委員会のホームページをご参照ください。https://vinomalaga.com/consejo-regulador/d-o-malaga/
ボデガス・イ・ビニェドス・ラ・カプチーナ Bodega y Viñedos La Capuchina
次は、ワイン造りは2005年からという、ボデガとしては新しい「ラ・カプチーナLa Capuchina」へ。所有する「ラ・カプチーナ農場El Cortijo La Capuchina」という名の広大な土地はもともと修道院のもので、18世紀後半から20世紀初頭にかけてスペインで何度か出された永代所有財産解放令によって民間に渡った土地とのこと。200年ほど前に建てられたという家を囲むブドウ畑は20ha、オリーブ畑は180haあります。
ボデガはかつてオリーブオイル工場だったスペースを使用し、最新設備を導入しています。造っているワインはスティルワインの白、ロゼ、赤、甘口と伝統的な甘口ワインです。
使用するブドウは白が地場品種のドラディーリャDoradillaとペドロ・ヒメネス、モスカテル・デ・アレハンドリア、黒はプティ・ヴェルド、シラー、カベルネ・ソーヴィニョン、カベルネ・フランの他、地場品種のロメRoméと最近カディス県を中心にアンダルシアで注目されている地場品種のティンティーリャ・デ・ロタTintilla de Rotaです。
ワインのブランド名は「カプチーナ・ビエハCapuchina Vieja」です。
DOマラガのワインは2つあります。1つは「ペドロ・ヒメネスCapuchina Vieja PX」で、2018年に設定したソレラのシステムで熟成するドゥルセ・ナトゥラルで、発酵によるアルコール度は13%。それにアルコールを添加して17%に上げ、アメリカンオーク樽で6年間熟成したものです。もう1つはモスカテル・デ・アレハンドリアで造るナトゥラルメンテ・ドゥルセの「ソルCapuchina Vieja Sol」です。
DOシエラス・デ・マラガのワインの中では、地域的にもまだ栽培面積が少ないドラディーリャ100%で造っている白の「ドラディーリャ」に注目。畑は1.5ha しかないそうです。ドラディーリャ50%、プティ・ヴェルド50%で造ったロゼの「キウムKium」もあります。他に白ではモスカテル・デ・アレハンドリアの辛口も造っています。赤は現在のところ、フランス種品のものだけが製品になっています。
このボデガはオリーブオイルも重要な商品です。アンダルシアの品種として知られるオヒブランカHojiblanca、アルベキナArbequina、ピクアルPicualの他に、少数派の地場品種ネグリーリョNegrillo、レチンLechín、ゴルダル・デ・アルチドナGordal de Archidonaの栽培にも力を入れています。現在商品としてはオヒブランカ100%のエクストラ・ヴァージンがあります。
ボデガス・カルペ・ディエム/アンダルシア農業協同組合ビルヘン・デ・ラ・オリーバ
Bodegas Carpe Diem / Sociedad Cooperativa Andaluza Agrícola Virgen de la Oliva (SCAAVO)
「ボデガス・カルペ・ディエム」は1977年、モリーナMollina村の14の農家が集まって作ったアンダルシア農業協同組合協同組合ビルヘン・デ・ラ・オリーバSCAAVO(Sociedad Cooperativa Andaluza Agrícola Virgen de la Oliva)のワイン部門で、最初はバルクでワインを販売していました。けれども1933年、ワイン会社「ボデガス・カルペ・ディエムBodegas Carpe Diem」を設立し、ボトリングしたワインの販売を開始しました。SCAAVOは現在、組合員1200、ワインの他に、オリーブオイル、食品加工、流通、金融部門を持つ大きな組織になっています。
ボデガは最新設備と伝統的なティナハ(セメント製で円筒形の巨大なアンフォラ)が共存しています。ティナハの効果は最近見直されているので、素晴らしい財産と言っていいかと思います。
ワインも数多く作っていますが、今回は特徴ある5本を試飲させていただきました。最初はDOシエラス・デ・マラガの「モンテスペホMontespejo」という、アイレンAirén とモスカテルのブレンドのフレッシュな白ワインです。
次は「ガデア・セパス・ビエハスGadea Cepas Viejas」つまり古木シリーズの「単一品種白ワインVino blanco monovarietal ドラディーリャDoradilla」。樹齢60年の古い畑で20年以上前からオーガニック栽培されてきたドラディーリャです。色が濃く、ボディがあり、骨格のしっかりしたワインです。
DOマラガには「カルペ・ディエムCarpe Diem」のシリーズがあります。「ペドロ・ヒメネス辛口白Carpe Diem Pedro Ximénez Blanco Seco」はフロールのもとで3年熟成されたものです。さらに2024年最初にエン・ラマ(清澄処理なし)で出荷されたワインです。ここから北に向かった、さらに内陸に位置するコルドバ県のDOモンティーリャ・モリーレスのワインと同じ造りですが、こちらの方が、厚みがある感じがしました。
「ペドロ・ヒメネス・トラスアニェホCarpe Diem Pedro Ximénez Trasañejo」は、ボデガの表現を借りると「マラガのエッセンス」。ペドロ・ヒメネスのドゥルセ・ナトゥラルで、樽熟期間は30年以上とのこと。5%は200年ものの熟成ワインが入っているとのことです。同じ「カルペ・ディエム」シリーズのペドロ・ヒメネスに、熟成期間が短いアニェホAñejoもあります。
他にもスティルワイン各種、バッグ・イン・ボックスも揃っています。そしてもちろんオリーブオイルもあります。
この日は、ユネスコの世界文化遺産に認定されている古都、ロンダに泊まります。
≪マラガのワイン4に続く≫