BLOG

マラガのワイン4/VINOS DE MÁLAGA 4

5月23日(木)

ボデガ・ドニャ・フェリサ Bodga Doña Felisa

4日目の今日はDOシエラス・デ・マラガのサブゾーン、セラニア・デ・ロンダSerranía de Rondaのボデガを訪問します。昨日のノルテ地区に比べると山がちで、標高は600~1000mあります。西隣はカディス県で、大西洋の影響も受ける地域です。

ユネスコ世界文化遺産認定の古都ロンダの近くにあるローマの遺跡「アシニポAcinipo」でブドウの図柄があるコインが発見されたり、ブドウ搾り場が発掘されたりしていることからも分かるように、長いワイン造りの歴史があります。2001年にDOシエラス・デ・マラガができる前から上質のスティルワインを世に出しているボデガもありました。そのため、他のサブゾーンとは分けて、セラニア・デ・ロンダにある醸造所で造られ、使用されるブドウが100%同サブゾーン産で、収穫は手摘みのみ、総収穫量は黒ブドウも白ブドウも9000kg/1ha (他地区の場合、白は12,000㎏)といった特定必要条件を満たしているものは、セラニア・デ・ロンダを名乗ることができるという特例があります。

最初に訪問する「ドニャ・フェリサ」は1999年にホセ・マリア・ロサントスJosé María Losantos とヘマ・アロンソ Gema Alonso夫妻が始めたプロジェクトです。標高900m、シエラ・デ・ラス・ニエバス、シエラ・デ・グラサレマ、アラメダ・デ・タホという3つの自然公園に囲まれた、前出のアシニポにも近いところにあります。

畑は標高700mから900mに至る6か所にあります。なだらかな傾斜のある地形で、緑も豊かです。一番古い畑は標高810m地点にある5haの区画で、1995年にシャルドネ、ソービニョン・ブラン、カベルネ・ソーヴィニョン、グラシアノ、カベルネ・フラン、テンプラニーリョ、シラー、メルロー、プティ・ヴェルドが植えられています。一番新しいのは2019年に植えた区画で、シャルドネ、シラー、テンプラニーリョ、カベルネ・ソーヴィニョンの他マルベック、プティ・ヴェルドも植えています。他にはスペイン品種のグラシアノやアンダルシアの地場品種ティンティーリャ・デ・ロタとロメも栽培しています。

 醸造設備は最維新式。目立ったのは縦に引き伸ばしたような細長目の卵型の醸造タンク。

 試飲の最初は「クロエCloe」という長女の名前をブランドにしたシリーズの伝統的製法のスパークリングで、使用品種はソービニョン・ブランです。次の「マルキスMarkíss」もソービニョン・ブランですが、ハンガリー産オークの500㎖の新樽3個分、1800本しか造らない限定品です。畑はグラサレマというマラガ県とカディス県の間にある山脈に近い標高900mのところにあり、地中海性気候と大西洋性気候の両方の影響を受けるとのこと。大変しっかりしたワインです。次の「セイス+セイスSeis + Seis」は花のラベルが可愛いテンプラニーリョとシラーのブレンドで、ソフトで滑らか。「ドブレ12 Doble 12」はカベルネ・ソーヴィニョンとメルローノブレンド、「エンカンテEncaste」はカベルネ・ソーヴィニョンとプティ・ヴェルドのブレンドで12か月樽熟。オシャレなボデガです。

ラ・メロネラ La Melonera

メロンのような名前のボデガ「ラ・メロネラ」。これはマラガの地場品種の黒ブドウの名前です。本当にメロン、というよりスイカ(英語ではウォーターメロン!)、のような縦縞が入るのでこの名前があります。

 このボデガは2003年、紀元前からのワイン造りの歴史があるロンダの地で、地場品種の復活を目指そうという意図のもとに設立されたもので、このプロジェクトを主導するのはカタルーニャ州の北の端、フランスとの国境際にあるDOエンポルダのボデガ「カスティーリョ・ペレラダCastillo Perelada」を運営するペレラダ・グループGrupo Pereladaです。カスティーリョ=城という名前の通り、大庭園の中に立つ中世の城と修道院を所有していて、その図書館には古来の蔵書が詰まっています。1923年にこのボデガを入手したスケ・マテウ家Suqué Mateuは、1807年に書かれた本にセラニア・デ・ロンダとそのワインの歴史が詳しく記されているのを読み、フィロキセラ以前に栽培されていたブドウ品種を復活させようと思い立ったのでした。

ローマの遺跡アシニポから2㎞ほどの所に所有する土地fincaは約200ha。エンシナencina(セイヨウヒイラギガシ:西洋柊樫、学名: Quercus ilex、英語名:holm oak、ブナ科コナラ属の常緑高木、イベリコ豚のえさになるドングリの成る木)の林に囲まれています。標高は650~1000m近くまで、寒暖の差が大きく、さらには年間降水量800m以上と、スペインとしては多め、つまりブドウ栽培には充分な量です。

栽培に力を入れている品種は、ボデガの名前にも使っているメロネラを筆頭に、ティンティーリャ・デ・ロタ、ブラスコBlasco、ロメ、ビヒリエゴVigiriego、キエブラティナハスquiebratinajas, モリスコmoriscoなど、他ではあまり聞かない品種もあります。醸造スペースには小型のステンレス発酵槽がいくつも並んでいて、いろいろ試しているのがうかがえます。

最初に試飲したワインのブランド名「ラ・エンシナ・デル・イングレスLa Encina del Inglés(イギリス人のエンシナ)」は、19世紀にこの地を訪れたイギリス人の旅人たちのロマンを表現したもの。白はモスカテル・デ・アレハンドリア、ペドロ・ヒメネス、ドラディーリャというマラガの主要品種のブレンド。赤はアンダルシアの地場品種ティンティーリャ・デ・ロタ50%にカベルネ・ソーヴィニョントガルナチャをブレンドしたもの。

次は「パヨヤ・ネグラPayoya Negra」というブランドです。ラベルに描かれているのはアンダルシアのパヨヤという品種のヤギで、そのミルクでチーズが作られています。このワインはティンティーリャ・デ・ロタ75%にロメとシラーをブレンドしたもので、12か月間フレンチオーク樽で熟成してあります。醸造家のアナ・デ・カストロAna de Castroによると、よく熟したフルーツの凝縮した感があるのは、ロメが持つフルーツのコンポートのような風味のせいだとのこと。

最後は「ヨ・ソロYo Solo=私だけ」というネーミングのワインです。このボデガの絶滅危惧アンダルシア品種復活にかけるあふれる思いを詰め込んだワインと言っていいでしょう。ティンティーリャ・デ・ロタ50%、ブラスコ50%。3年目のフレンチオーク樽で発酵し、12か月熟成。きっかりした骨格でバランスの良い、エレガントなワインです。

そのうちメロネラを使ったワインも登場することでしょう。楽しみです。

デスカルソス・ビエホス Descalzos Viejos

キリスト教に関係していそうなネーミングのボデガです。直訳すると高齢の跣足修道士たちという意味です。

ボデガの建物は歴史のありそうな石造りです。迎えてくれたオーナーのパコ・レタメロPaco Retameroがまず見せてくれたのは、ボデガの位置関係が分かる景色です。入り口前の広場の端から眺めると、断崖絶壁の下には周囲を山に囲まれたなだらかな低地が広がっています。このボデガが所有するブドウ畑もそこにありました。そして視線を上げると、ごく近くに世界遺産の町ロンダが見えます。ロンダは谷底から98mの所に掛かったヌエボ橋が有名ですが、このボデガも同じレベルにあり、ロンダの橋の下のレベルに畑があるのがよくわかります。

このボデガの建物は、極々かいつまんで言うと、1505年に建てられた修道院でした。16世紀末、不便だということでロンダの町中に移転。その後に改革派、跣足修道士たちがやってきますが、いろいろ問題があり、出ていったのが17世紀半ば。結局残ったのは年老いた修道士たちだけでした。というわけで「跣足修道士=デスカルソス・年老いた=ビエホス」という歴史の詰まった名前になったのです。

このフィンカ(土地と建物)は永代所有財産解放令によって修道院から一般人の手に渡った後、様々な使われ方をしてきましたが、1998年、現オーナーが入手し、大改造計画が始まりました。建物はもとより、庭、畑、池や泉、そしてそれを囲む自然環境全体を元の姿に戻そうというのです。修道院の修復過程では祭壇のフレスコ画が発見されました。そのスペースは今ワインの樽熟に使用されています。

ボデガがあるのはコルニサ・デル・タホ・デ・ロンダCornisa del Tajo de Ronda=ロンダ渓谷の崖上地帯と呼ばれる所ですが、ブドウ畑は崖下にあります。合計10haで、一番大きい6 haある畑は標高650mほどの寒暖差の大きい地帯にあり、石灰質の石ころの多い土壌で、ガルナチャやグラシアノ他フランス品種の黒ブドウ品種が栽培されています。ボデガの近くの3haの畑は標高600mで、グアダレビンGuadalevin川(ロンダの橋の下を流れている川)に近く、ロームから粘土質土壌で、ガルナチャ、シラー、シェルドネを栽培。もう一つはロンダの少し北にあり、標高600m、小川の岸にある粘土質の畑で、気温が低めで湿度が高めということで、シャルドネを栽培しています。

 ワインのブランド名は「DV」。最初の白は単一品種の「シャルドネ」。赤は3本で、いずれも一番大きい畑で栽培されたものです。まずシラー100%の「ルフィナRufina」。半分全房発酵でDOマラガのアクサルキアで造られたナトゥラルメンテ・ドゥルセを熟成していた500ℓ樽で16か月熟成したものです。次はガルナチャ100%の「イウスタIusta」。一部全房発酵で、500ℓ樽で16か月熟成。最後はプティ・ヴェルドに少しガルナチャをブレンドした「アイレスAires」で、フレンチオーク樽で16か月熟成。ワイン造りにもいろいろ工夫をしているようです。

 

コルティホ・ロス・アギラレス Cortijo Los Aguilares

「ロス・アギラレス農場」という名のボデガは、ロンダから北東5㎞ほどの所にあります。800haという広大なエンシナ林を持ち、その中の25haでブドウを栽培しています。周りはエンシナやコルク樫だけでなく、松やアーモンド、イチジクの木なども多く、大変多くの種類のハーブや野の花が生えていて、ワインの豊かな香りの基になっています。

ここは南東にラス・ニエベス山脈、南西にグラサレマ山脈を控えた内陸地域で、日較差が20℃に至ります。年間降水量は800~900 mmで、粘土質土壌で、石灰質の石を大変多く含んでいるため、水分を蓄積でき、雨の降らない厳しい夏にも耐えられます。

 畑は4か所にあり、1999年に植えた畑が3か所あります。樹齢500年以上と言われるエンシナの大木が目印のエル・エンシナールEl Encinarにはピノ・ノワールとテンプラニーリョ。樹齢100年といわれるオリーブ畑の横にある粘土質土壌の畑、エル・オリバールEl Olivarでは、熟成に時間がかかるプティ・ヴェルドとカベルネ・ソーヴィニョン。100年もののエンシナが何本も生えている畑、エル・カレロEl Caleroにはプティ・ヴェルドが主ですが、シラーとメルローも少し植えられています。ペレレPeleleは2014年に植えられた畑です。標高が高く、粘土質、砂質、石灰質の石ころなど、様々な土壌が混在する畑で、ガルナチャ、グラシアノ、プティ・ヴェルドが植えられています。

2007年からこのボデガで醸造家として働くビビBibiの案内でボデガを見学。ここにも細長卵型の発酵槽が並んでいましたが、一般的な卵型もあり、アンフォラもありました。

ボデガのテラスで試飲したのは、まずペレレ畑のガルナチャ・ブランカにビオニエとビヒリエガを少しブレンドした白ワイン「ブレニャルBreñal」。ハーブっぽさのあるワインです。次は赤の単一品種シリーズから「PN ピノ・ノワール」と「Gガルナチャ」。「GRグラシアノ」もあります。ピノ・ノワールだけ熟成にフレンチオーク樽だけでなく卵型セメントタンクも使っています。

ここからはプティ・ヴェルドが主役です。この地域の気候条件に最もよく馴染んで、テロワールをよく表現できる品種とのこと。「パゴ・エル・エスピノPago El Espino」は、プティ・ヴェルド70%にシラー、テンプラニーリョをブレンドしたもの。「タデオ・ティナハTadeo Tinaja」は名前の通り、ティナハという素焼きの壺で熟成したプティ・ヴェルド100%のワインです。ティナハを使うことによって品種の個性がより素直に感じられるようになるとビビは言います。しっかりした色で凝縮したフルーツ感がある、ブドウのエッセンスのようなワインです。ティナハ2個分しか造っていません。一方「Tadeo 2021」は、フレンチオーク樽で15か月熟成したものです。スパイシーでミネラル感があり、背筋の通った、洗練されたワインです。

お昼を食べた後、畑を見学に行きました。土は赤っぽい粘土質ですが石がかなり混ざっています。この地域で何回か見た棒仕立て(幹の横に立てた棒に沿わせて枝を集める形)です。すぐ後ろにごつごつの岩山がそびえているのが、異様な景色ですが、これが、この地域特有の自然条件です。

 

今回は伝統あるDOマラガのワインと新しい生産者たちがテロワールの表現を競い合うDOシエラス・デ・マラガを訪問しました。あまりに奥が深すぎて、文字では表せない世界です。マラガのワインに出合ったら、ぜひ一度お試しください。素晴らしい生産者のワインが日本に輸入されています。

 

関連記事

PAGE TOP