BLOG

シェリー・アカデミー研修ツアー2025-I Sherry Academy Tour 2025-I

 恒例の「シェリー・アカデミー研修ツアー」は今年で第20回に至りました。2002年にベネンシアドールの公式資格称号認定試験を始めて以来、毎年、その年の最優秀ベネンシアドールの方を翌年1月末にご招待する、シェリー原産地呼称統制委員会主催の現地研修に、ご興味のある方も参加できるようにツアーを組んだのが始まりです。

今年は1月18日(土)夜に成田を出発し、エミレーツ航空ドバイ経由で、マドリッド着が19日(日)。市内のアトチャ駅まで移動して、直通列車ALVIAでヘレスに到着。ホテルは統制委員会と同じ通りの隣のブロックにあるNHアベニダ・ヘレスです。

 

1月20日(月)

初日は9:00から統制委員会で、会長セサル・サルダーニャCésar Saldañaさんによるシェリーの基礎講座です。研修内容のベースになる知識をおさらいしていただきました。

講義後、最初の訪問先はヘレスの大聖堂とアラブの城塞アルカサルの横にある「ゴンサレス・ビアスGonzález Byasshttps://www.tiopepe.com/ です。1835年、マヌエル・マリア・ゴンサレス・アンヘルが若干23歳で始めたワイン・ビジネスが、現在ティオ・ペペで知られる世界有数のワイン・メーカーに成長しています。

毎年訪問させていただいていますが、毎年参加者の大半がヘレスが初めての方ですので、帰国後シェリーを語っていただくに当たり、外せないポイントになっています。

 今年はゴンサレス・ビアスの顔ともいえる醸造家で、マスター・ブレンダーとも呼ばれる、アントニオ・フローレスAntonio Floresさんがアテンドしてくださいました。今注目のティオ・ペペのパルマスPalmasのシリーズのワインを毎年選出するのも彼です。もちろん樽からベネンシアでシェリーを注いでくださいました。そしてツアー参加者も順番にベネンシアさせていただきました。ちなみにアントニオさんは、フィノ・タイプの「ティオ・ペペ」のブランド名の元になった、創設者の叔父(ティオ)であるペペ(=ティオ・ペペ)が自分用のワインを熟成していた元祖ティオ・ペペのボデガ(見学可)の上の部屋で生まれています。

今回はブランデー生産工程も見学させていただきました。同社の「レパントLepanto」はヘレスのブランデー(統制委員会は英文のサイトでも、シェリー・ブランデーではなく「ブランデー・デ・ヘレスBrandy de Jerez」という名称を使用)で唯一、ヘレスの認定地域内の畑で栽培されたパロミノ100%で、ヘレスで蒸留され、熟成されているブランデーです。

午後の自由時間は街の散策とお買い物。ベネンシアドールの衣装もこの間に購入。

18:00からは町の中心のアレナル広場にも近いボデガ「ファウスティノ・ゴンサレス Faustino Gonzálezhttps://bodegasfaustinogonzalez.com/ 訪問です。1972年にファウスティノ・ゴンサレス・アパリシオが1789年設定のソレラを買って、妻カルメン・ガルシア・ミエルの実家のボデガに持ってきたのが始まりで、現在もそのボデガでシェリーは熟成されています。オーナーのハイメ・ゴンサレスJaima Gonzálezさんはヘレス・スペリオール(上質のアルバリサ土壌で地理的環境に恵まれた地区)に認定されているパゴ・モンテアレグレに所有する7haの畑で栽培するブドウを使って、樽発酵し、昔ながらの手法でシェリーを造っています。家庭的な雰囲気で、樽からもボトルからもおいしいワインをたくさん飲ませていただきました。ブランド名の「クルス・ビエハCruz Vieja」は古い十字架という意味で、製品はすべてエン・ラマen rama(ボトリング前に軽いフィルタリング以外の冷却や清澄処理をしないもの)です。

 

1月21日(火)

 2日目は統制委員会でプロモ-ション・ディレクターのカルメン・アウメスケットCarmen Aumesquetさんによるテイスティングです。統制委員会が毎年選んで1年間使用する、各タイプの典型的な特性をよく表現したワインです。各ボデガが熟成している各タイプのワインにはそれぞれ各ボデガの個性があります。そこで、このクラスではまずシェリー各タイプの基本のスタイルを味わっていただきました。

 試飲クラスの後は1792年創業のサンルーカルのボデガ「ボデガス・イダルゴ・ラ・ヒターナBodegas Hidalgo -La Gitanahttps://bodegashidalgolagitana.com/ の訪問です。ここも毎年訪問させていただいています。所有する畑の一つはヘレスからサンルーカルに向い道筋にあります。「エル・クアドラドEl Cuadrado」、四角という意味の名前を持つ畑で、実際に四角い形をしています。標高100mを超すなだらかな丘の頂上部分に収穫から搾汁・醸造・酒精強化・保存までの行程を納めるボデガがあり、その周囲に畑があります。ボデガの前から大西洋岸までは平坦な土地で、カディスやサンルーカルが望めます。ということは海風が、邪魔されることなく、畑まで届くということです。この日は雨が降った後だったため、きめの細かいアルバリサが靴にお団子のように付いてしまい、こそげ取るのが大変でした。丘の上のボデガではタンクから2024年収穫のモストを飲ませていただきました。

「ラ・ヒターナ」の熟成庫はサンルーカルのバリオ・バホBarrio Bajo(低い地区)、海抜ゼロm地帯にあります。グアダルキビール川が大西洋に流れ込む地点、自然保護地区のドニャーナ国立公園を目の前にしたビーチまでは歩いてすぐ。同時に町の中心もすぐ目の前です。

ここではマンサニーリャとマンサニーリャ・パサダの飲み比べや、何十年も熟成されたアモンティリャドやパロ・コルタドといった貴重なワインを試飲させていただきました。そして重要なマリアージュ。マンサニーリャは辛口ですっきりしていて口当たりがソフトなので食事と合わせやすいワインです。鴨ごはんにもよく合いました。

 

午後はチピオナの「セサル・フロリドCésar Floridohttps://www.bodegasflorido.com/ へ向かいます。2022年まではシェリーの熟成出荷地区認定外だったため、シェリーの中でもチピオナが本場であるモスカテル以外はシェリーを名乗れなかったのですが、今はどのタイプにもシェリーのシールが貼られています。

 このボデガも町の真ん中にあります。普通の通りに何の飾り気もない一見ガレージのような大きな扉があって、それを開けると中はパティオ。その奥にプレスが並んでいるのが見えます。このボデガの特徴の一つにティナハがあります。アンフォラの近代版といった感じでしょうか、コンクリート製の円筒形の槽で、ワインの発酵や保存に使われます。現在シェリーのボデガでティナハを使っているところは他に見たことがありませんが、隣のワイン産地モンティーリャ・モリーレスではティナハが今も実際に使用され続けていて、観光的にもよく知られています。

オーナーのセサル・フロリドさんと息子さんの案内で、ティナハの並ぶボデガの奥にある樽熟庫で試飲。そして、一旦外の通りに出て、少し歩いた先にある次のボデガでも試飲。ボデガは3か所にあるそうです。天井がそれほど高くなく素朴な感じのボデガで、空気感がヘレスともサンルーカルとも違います。少しモ~っと暖かいような感じがします。ワインもそれなりに、柔らかで親しみやすい口当たりのように感じました。

メインのブランドの「クルス・デル・マルCruz del Mar」はチピオナの中心街の突き当りのビーチに立っている十字架を指しています。モスカテルには天日干ししたブドウを使用した「モスカテル・デ・パサスMoscatel de Pasas」と遅摘みブドウを使用する「モスカテル・ドラドMoscatel Dorado」、それにアロペを加えた「モスカテル・エスペシアルMoscatel Especial」があります。セサル・フロリドは自社畑のブドウを使用しています。

 

1月22日(水)

この日は一日遠出です。午前中は2022年まで熟成出荷地域に入っていなかったレブリハとトレブヘナを訪れます。シェリーの生産および熟成・出荷認定地域のほとんどはカディス県に属していますが、唯一トレブヘナだけセビーリャ県に属しています。グアダルキビール川の最も上流に位置しているので、ヘレスからはほぼ北に向かって走る感じです。

訪問するのは「ボデガス・アルコンBodegas Halcónhttps://bodegashalcon.es/。鷹という名のワイナリーです。レブリハの旧市街の真ん中で、小型バスが入っていけないような小路の奥に、真っ赤な塀に真っ青な扉、緑の小さな瓦屋根付きの門を構えた、ボデガというより瀟洒なお宅といった風情の入り口がありました。入れていただくと、中には色とりどりの花が咲くパティオ。ボデガはその横の、お宅の通路のようなところを通って入ります。

「ボデガス・アルコン」はもと「ボデガス・マルケス・デ・サン・ヒルBodegas Marqués de San Gil」といって、1711年からあったボデガです。1911年、現在のオーナーのマルガリータMargarita Halcón Álvarezさんの祖父であるサン・ヒル侯爵に引き継がれたものを、2016年、マルガリータさんが継承し、名前も「ボデガス・アルコン」に変えました。同じファミリーなのになぜ名前を変えたのか伺ったところ、貴族の家系は長男が爵位を継ぐため、彼女はその名前を使えないので、家紋にある鷹を採ってアルコンにしたとのことでした。所有地は12世紀にこの地にやってきたイスラムのアルモアデ派が建てた城壁からサンタ・マリア・デ・ラ・オリーバ教会まで含む広大なもので、レブリハの町を見渡せる美しいパティオもありました。イベントに使えるホールもいくつか備えた大邸宅式ボデガです。ペロ・ボデゲロperro bodeguero(ボデガ犬。ヘレスが起源の小型と中型の間位の犬)も飼っていて、完璧アンダルシアのステキなボデガ・シーンが広がるボデガです。

ワインのスタイルはクラシックな落ち着いた感じで、フィィノ、アモンティリャド、オロロソ、クリーム、PXを発売しています。お土産にアモンティリャド「ビゴティーリョBigotillo」を木箱入りでいただきました。クラシック!

 

次はトレブヘナの協同組合「ビティビニコラ・アルバリサスCooperativa Vitivinícola Albarizas de Trebujenahttps://www.facebook.com/vinosdeAlbarizas/ です。社名がアルバリサということからして、良い畑を持ったブドウ栽培者の集団をアピールしている感じが伝わってきます。統制委員会の資料によると、1977年に40人のブドウ栽培者が集まって作った組合で、当時のブドウ栽培面積は180 ha. パンフレットによると現在は組合員202、総栽培面積265 haで、年間300万キロのブドウを受け入れているとのことです。

トレブヘナはブドウ栽培面積ではヘレス、サンルーカルに続く3位で、ヘレス・スペリオール認定畑も多い地域です。2022年までは自社製品をシェリーとして発売する権利がなかったため、権利を持つヘレス、サンルーカル、エル・プエルトのいずれかのボデガにワインを販売していました。けれども今では自社ブランド「カスティーリョ・デ・グスマンCastillo de Guzmán」でフィノ、アモンティリャド、オロロソ、クリーム、「テラアルバTerralba」ブランドでパロミノの白、オーガニックの白、甘口の白とロゼを発売しています。

ボデガの建物は、ヘレスやサンルーカルの大手の立派なボデガを見慣れていると、素っ気ないないような感じですが、協同組合らしくと言ってはナンですが、シンプルで機能的です。

ここではもうひとつDOヘレスはではなくビノ・デ・ラ・ティエラ・デ・カディスで発売している白ワイン「ビフレBijuré」をご紹介しておきます。発酵にはもとフィノかアモンティリャドもしくはオロロソを熟成していたソレラの樽を使います。ブドウはビドゥエニョ。これはブドウ品種の固有名詞ではなく、混栽畑のことです。この地域でフロキセラ以前には栽培されていたものの、現在ではほぼ絶滅の危機にさらされている地場品種の古木が植わった混栽畑のことです。ペルーノ、マントゥオ、バルセロネ、カステリャノ、カニョカソ、ベバといった品種が挙げられています。これらの品種の中には2022年に最初に統制委員会総会で決定された改訂案には含まれていたものの、最終的には除外された品種も入っています。興味深い1本です。

この日案内して下さったマネジャーのホセ・カスティーリョJosé Castilloさんは、ボデガで熟成樽から各種のワインを試させてくださっただけでなく、近所の人たちが買いに来る量り売りワインの売店で、タンクから試飲させてくださいました。

この後サンルーカルへ向かうのですが、畑を見たかったですと言ったところ、ホセ・カスティーリョさんは運転手さんにどの道を通っていきなさいと指示してくださいました。それは地元民しか知らないようなルートでした。最初は確かに畑がありました。けれども後はまさにマリスマ体験コース。グアダルキビール川河口左岸の広大な一帯にある浅い潟の合間のでこぼこ道を延々と走りました。

 

最後の目的地はサンルーカルのバリオ・アルトBarrio Alto(上の地区)にある「ボデガス・バロンBodegas Barónhttps://bodegasbaron.es/ です。サンルーカルの浜辺のレストランで昼食をとり、向かいのドニャーナ国立公園や大西洋を見ながら浜辺を散歩した後、バリオ・バホからバリオ・アルトに向って坂を上り、細い道を辿っていくと、昔から変わることなく、真っ白な壁に真っ赤な扉の「バロン」がありました。

「ボデガス・バロン」のもとは1630年、アンセルモ・パスによって始まります。この一家には継承者がなかったため、1895年、マヌエル・バロン・フェルナンデスManuel Barón Fernandezに売却された後、1984にホセ・ロドリゲス・ヒメネスの手に渡ります。彼の時代に畑の買い替えや新しいボデガの建設が進みました。2011年、跡を継いだのが現在のオーナー、ホセJoséとフアン・ルイスJuan Luisのロドリゲス・カラスコ兄弟です。現在もサンルーカルの町中のボデガは伝統的な雰囲気を維持した熟成庫になっています。入り口のパティオの周囲に樽が並んでいる懐かしい光景も残っていました。

サンルーカルと言えば竹のベネンシアです。竹と言っても日本の孟宗竹系の竹ではなく、カーニャcañaと言われる竹のような中空で節のある植物で、水分の多い土地に自然に生えています。これを切って乾燥させて、使いやすい長さと節にナイフで削ります。バロンではカパタスcapatáz(セラーマスター)がカーニャのベネンシアで樽からワインを出して注いでくれました。

日本でおなじみのブランド「ミカエラMicaela」と熟成期間の長い「チチャリートXixarito」には、マンサニーリャ、フィノ、アモンティリャド、オロロソ、ミディウム、クリーム、モスカテル、PXのフル・レンジがあります。

 

*シェリー・アカデミー研修ツアーIIに続く。

 

関連記事

PAGE TOP