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カナリア諸島訪問記 REPORTAJE DE LAS VISITAS DE BODEGAS EN LAS ISLAS CANARIAS 4/4

5日目:ラ・パルマ

 初めてのラ・パルマです。テネリフェ島の北西にある、逆二等辺三角形の右肩が欠けたような形をした島です。北半分には最高峰ロケ・デ・ロス・ムチャチョス山(2,426m)、南には2021年に爆発したクンブレ・ビエハ山(1,949m)があります。

DOラ・パルマには「ナトゥラルメンテ・ドゥルセNaturalmente Dulces」という、樹で過熟させてから摘み、自然発酵させて造る伝統的な甘口ワインがあります。使用品種はマルバシアでしたが、最近は黒品種ネグラモルでも造られているそうです。これは島の南部が本場です。

特徴的なのは「ビノ・デ・テアVino de Tea」というカナリア松(テア)で作った樽で熟成したワインです。樽材として使える木が他になく、生えていた松を使ったのがもとです。ただ松は樹脂を多く含んでいるため、オークとは全く異なった影響をワインに与えます。

カナリア松とはどんな松なのか、松脂の影響を受けたワインとはどんな味なのか、今回は産地に確かめに行きます。ビノ・デ・テアもカナリア松の森も、本場は島の北西部です。

 

まず、島の南部にある「ビクトリア・トーレスVictoria Torres」を訪問します。他の島で「ラ・パルマに行く」というと、「ビクトリアの所?」と聞かれるため、彼女の名前は何度も耳にしていました。多分、今回はできる限り自然なワイン造りを志している、ごく小規模なボデガを中心に訪問してきたので、彼女もそんな仲間の一人なのでしょう。

ビクトリアさんに合うのは初めてですが、前々からWhatsAppでまめに連絡を取って下さっていました。とても繊細で優しい方です。

ビクトリアさんはブドウ栽培&ワイン造り農家の5代目です。畑はあちこちに点在していました。火山島なので、どこも傾斜地で、海を臨む斜面にブドウが植わっていました。土壌はピコンです。

最後に行った畑は、奥の方が多少斜面を上っていましたが、ほぼ平地でした。ここにはリスタン・ブランコが地に這うような形で植わっていました。幹が枯れた風情で、年を経ているのが目に見える樹です。風が強いので、こういう形になるそうです。見上げると山の上の方にこんもりした形の明るい緑の樹が見えます。これがカナリア松でした。ただ、ここは強風のため、普通の松のように真っすぐスラッとは伸びないそうです。畑でもブドウの樹の周りに、ランサローテの巨大な石壁に比べると極ミニサイズですが、石を積んだ丸い壁を作ってあるのも風よけのためです。

 “アコドAcodo”という取り木でブドウの樹を増やした跡も見られました。フィロキセラが到達していない地だからこそできる手法です。ただ、取り木の枝も地を這っていました。アコドをここではポルトガル語でマルグーリョMargulloともいうそうです。こんなところにポルトガルの影響が残っていました。

彼女のボデガはこじんまりしていますが、歴史が感じられます。古い木製のラガール(ブドウ踏み場)があり、その材はカナリア松でした。代々使っていたということはかなり古いはずですが、いまだに松脂が染み出てきています。気温が高いほどよく出るのだそうです。

周りには樽やセメントタンク、外には小さめのステンレスタンクも見られました。そんな樽からもいくつか試飲させていただきました。どれも優しいけれど芯がしっかりした素晴らしいワインですが、いかにも生産量が少なそうでした。

 

次はいよいよビノ・デ・テアです。「ビクトリア・トーレス」からラ・パルマ島の西海岸を通って北上します。途中で2年前の火山噴火で溶岩が海に流れ込んでいた地帯を通りました。道路は開通していましたが、両側は固まった溶岩で真っ黒でした。

 

オネシマ・ペレス・ロドリゲスOnésima Pérez Rodríguez」というボデガを訪問します。

ボデガの名前はオーナーのオネシマさんの名前そのままです。彼女は、外見はごくごく普通の奥さんですが、この島の最初の女性ワインメーカーで、1995年に島の北西地域でボデガを創設した最初の人で、ビノ・デ・テアをボトリングした最初の人でもあります。

ビノ・デ・テアについて伺いました。もともとこの島には材木として使える木がテアと呼ばれるカナリア松しかなく、家も塀も何でもテアで作っていたそうです。当然ながらワインの樽も同じテアでした。ただ、樽には硬い芯の部分しか使いません。テアの幹は3層になっていて、芯の部分以外は柔らかいので向かないそうです。さらに、樽材として使える木は樹齢200年といった古いものですが、現在100年以上の古いテアは保護林になっていて、切ることはできないため、使えるのは自然の倒木だけです。それにしても芯の部分は大変硬いので、細工が難しく、もう作れる職人さんがいません。ここ50年間、新しい樽は作られていないそうです。オネシマさんが使っている樽は両親から引き継いだもので、祖父も使っていたものとのこと。

オネシマさんのボデガにはテアの樽が5つありました。色が赤いものの方が古いそうです。200年は経つという古い樽の表面にはうっすら樹脂が染み出ていました。

この樽はピパPipaと呼ばれています。容量は480ℓです。これは昔、輸出用に樽を使っていた時のパイプPipeの名残だそうです。細長目の形をしています。鏡板の中心の板には3か所に木の栓が刺さっています。これは中のワインを出すときに使う穴で、中身が多い時は上の栓を開け、減ってくると次の栓を開け、さらに少なくなると一番下の栓を開けるそうです。この栓はトルノTornoといって、セレソ・ギンダCereso guindaという桜の一種の木で出来ているます。テアの樽は使い初めに海水を入れて慣らすため、最初の頃のワインは塩っぽいそうです。ハーブティーのようにフェンネルを入れたお湯を使うこともあり、その場合はワインがハーブっぽくなるとのこと。

中のワインは白も赤も一緒に発酵させたものです。かつては混植畑のブドウを使っていたのでしょう。今はリスタン・ブランコ5%、アルビーリョ10%、ネグラモル50%、他にアルムネコAlmuñeco、リスタン・プリエトも使われています。

昔は発酵にもテアの樽を使っていましたが、1994年にステンレスタンクに変えました。今は熟成だけをテアの樽で行っています。ビノ・デ・テアはボトリング後もまろやかさが増し、20年以上たったものもおいしく飲める、長持ちするワインとのことです。ビノ・デ・テア、漢方薬っぽいニュアンスを含んでいますが、うまみのあるワインです。

このボデガは白と赤のスティルワインも造っていますが、そのブランドは「ビテガVitega」。ビノ・デ・テア・デ・ガラフィアVino de Tea de Garafia=ガラフィア村のテアのワインを意味しています。何とかビノ・デ・テアの伝統を守っていっていただきたいです。

 

今回の旅では新しい造り手さんたちの意欲的な取り組みを目の当たりに見ることができました。

20年以上前にテネリフェの5つの原産地呼称を回ったときは、カナリア諸島のワイン生産の技術的向上を促すために、スペイン本土から醸造家が派遣されていた当時だったので、今と全く状況がまったく違いました。ワインは別物でした。その後何回かカナリア諸島に行っていますが、前回2016年には、現在の状況にかなり近い感じで、洗練度が増していました。そして今回試飲させていただいたのは、土壌の特性を理解し、他の地域にはない品種を生かした、大変洗練度の高いワインばかりでした。オーガニック、ビオディナミ、ナチュラル、サステナブル、こういった感覚はもう普通です。カナリア諸島はますます面白くなっていきそうです。

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