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コンダド・デ・ウエルバ Condado de Huelva

コンダド・デ・ウエルバという保護原産地呼称(DOP=Denominación de Origen Protegida)をご存じですか?https://docondadodehuelva.es/

スペインでワイン法が制定された1932年に既に産地として認定されています。にもかかわらず、あまり知名度が高いとは言えません。それは、もしかしたら勢いのいい周囲のワイン産地に押されて、自己主張しないうちに、どんどん年月が経ってしまったからかもしれません。

最後に行ってから20年ぐらいは経っていると思いますが、ものすごく素朴なところだという印象が強く残っています。今回は5月14日から17日まで、原産地呼称統制委員会の事務局長、アントニオ・イスキエルドAntónio Izquierdoさんにご案内いただいて、現在のコンダド・デ・ウエルバをじっくり観察してきました。

何処にあるかというと、スペインの南西の端、アンダルシア州の西の端、ポルトガルと国境を接するウエルバ県のなかでも、県の首都ウエルバの東部、つまり県の東の端で、セビーリャ県とカディス県に接しています。南東にはユネスコの世界自然遺産に認定されているドニャーナ国立公園があり、その東の境界を流れるグアダルキビール川の対岸にはシェリーの産地、特にマンサニーリャの熟成地サンルーカル・デ・バラメダが間近に見えます。

まさにドニャーナ国立公園に続く一帯なので、総称して「エントルノ・デ・ドニャーナEntorno de Doñana」、つまりドニャーナ環境と表現されています。

 

ワインの歴史

ワインの歴史は、先住民タルテソスとギリシャ人やローマ人との交易の時代に始まっているようですですが、はっきりした記述はありません。ただ、最近、ウエルバ市の近くで5000年以上前のものと思われる遺跡「オルデン・セミナリオOrden-Seminario」の中に紀元前1000年頃のブドウ栽培の痕跡が発見されています。スペイン各地に紀元前にフェニキア人が伝承したワイン造りの痕跡として石のラガール(ブドウ踏み槽)が発見されていますが、ウエルバの遺跡はブドウ畑です。まだ研究途中なので、はっきりしたことは分かっていませんが、興味深い発見です。いずれにしろ、この地域のワインの歴史は古そうです。

DOPの名前、コンダド・デ・ウエルバはウエルバの伯爵領という意味です。これは14世紀、レコンキスタ(国土回復運動)によってこの地がキリスト教徒の支配下に戻り、当時のニエブラ伯爵の領地Conde de Nieblaでブドウ栽培が始まったことが、現在のワイン産地のもとになっているからです。

大西洋岸に港を持つ、この地域は早くからワインの販路も広く、15世紀には英国やネーデルランド(現在のべネルクス3国地域)へ輸出されていたとのことです。

15世紀末、グラナダのアルハンブラ宮殿が陥落し、レコンキスタが完結した年、コロンブスCrsitóbal Colónは新大陸発見の航海の援助をスペインから得るために、ウエルバ市の東を流れるティント川の川向うにあるフランシスコ会のラ・ラビダ修道院 Monastrio de Santa Mría de la Rábidaを訪れます。この修道会の協力を得て、最終的にイサベル女王の決断により資金援助が得られたコロンブスは、1492年、修道院があるラ・ラビダの隣のパロス・デ・ラ・フロンテラの港から出航しました。そのため最初の航海にはウエルバ地域の人々が多く同行し、この地域のワインもたくさん積まれていました。現在ラ・ラビダ修道院は公開されていて、コロンブス関連の展示が見られます。また修道院の丘を下った、ティント川の川辺にある「カラベラ船埠頭Muelle de las Carabelas」では、航海に使われたサンタ・マリア号、ピンタ号、ニーニャ号の3隻の船の実物大レプリカがあり、見学することができます。こんな小さな船で、よく大西洋に向かって漕ぎ出していったと驚くばかりです。もちろん船底にはワインの樽が!

14世紀、今も認定地域内の西の端にあるマンサニーリャManzanilla村は大都市セビーリャの経済圏内にあり、そのワインはセビーリャに送られていました。これを追って、ビリャルバ、ボリューリョス、アルモンテ、ラ・パルマといった村々でもワイン造りが盛んになり、セビーリャへと出荷されるようになりました。セビーリャには1503年、通商院Casa de Contratación de las Indiasが設置され、新大陸との交易をつかさどる中心地として栄えていました。けれどもグアダルキビール川の河口に砂が溜まってきて船の航行が困難になったことから、1717年、通商院は大西洋に突き出た半島の先(もとは島だった)の町カディスに移転されました。それに伴い、この地域のワインは、カディスを始め、プエルト・レアル、プエルト・デ・サンタ・マリア、そしてサンルーカルといった大西洋岸の港町に向けて出荷されるようになったとのことです。

現在のワイン産地の中心はボリューリョスBollullos Par del Condadoで、ボデガの数も多く、統制委員会の本部もこの町にあります。

 

ブドウ栽培

コンダド・デ・ウエルバのブドウ畑のある地域は、なだらかな丘がある程度で、平坦です。大西洋も近いため標高は低く、50~180m。土壌はおおむね中性ですが、いくらか塩基性を帯びているところもあり、ローム(砂、シルト、粘土が混ざった土壌)質とのこと。

気候は冬と春は穏やかですが、暑い夏が長く続きます。大西洋の影響を受け、年間平均気温は、統制法の仕様書によると、15,8 ºC から 16,9 ºぐらい。年間日照時間は3.000 ~ 3.100時間。年間降水量は700~800 mm。湿度は60~80%。

認定ブドウ品種は、白ワインと酒精強化ワイン用は甘口も辛口も、サレマZalema、パロミノ・フィノPalomino Fino、リスタン・デル・コンダドListán del Condado、ガリド・フィノGarrido Fino、モスカテル・デ・アレハンドリアMoscatel de Alejandría、モスカテル・デ・グラノ・メヌドMoscatel de Grano Menudo、ペドロ・ヒメネスPedro Ximénez、コロンバール、ソービニョン・ブラン、ベルデホ、シャルドネ。

ロゼと赤用はシラー、テンプラニーリョ、カベルネ・ソーヴィニョン、カベルネ・フラン、メルローです。

コンダド・デ・ウエルバの主要品種は総栽培面積の86%を占めるサレマです。日本ではまだあまり知られていませんが、シンプルな造りのワインは大変飲みやすく、どんな食事にも尾合わせやすいタイプです。特に、白ワインのホーベンJoven(=若い)と呼ばれるタイプは、100%サレマで造られていなければなりません。

そしてサレマはシェリー・タイプのワインにも使われています。シェリーの場合、辛口タイプはパロミノ100%ですが、ここでは、認定ブドウ品種が多いため、使用品種はボデガによって異なり、サレマ100%のところもあれば、パロミノ100%も、リスタン100%も、さらにはブレンド・タイプもあります。

 

ワインのタイプ

白ワインにはホーベン以外に、コンダド・デ・ウエルバ Condado de Huelvaというセメント槽か樽で発酵させた伝統的製法のものと、それを1年熟成したトラディシオナルTradicuonalがあります。

ビノ・ヘネロソVinos Generososはシェリーと同じタイプです。フィノはコンダド・パリドCondado Pálido、オロロソはCondado Viejoとも呼ばれます。辛口では他にアモンティリャド、パロ・コルタド、甘口酒精強化ワインGeneroso de Licorにはペイル・ドライ、ペイル・クリーム、ミディアム、クリーム、さらに甘口リキュール・ワインVino de Licor Dulceにはドゥルセ、ペドロ・ヒメネス、モスカテル、そしてミステラMistelaがあります。

ミステラはスペインの他の地域にもあるタイプで、ブドウ果汁を発酵させずにアルコールを添加したもので、熟成タイプがあります。

もう一つ、ビノ・ナランハVino NaranjaというEUレベルでIGP(保護地理的表示:Indicación Geográfica Protegida)に認定されているワインがあります。直訳すればオレンジ・ワインですが、最近はやりの、白ブドウを果皮や種も一緒に発酵させて造るためオレンジっぽい色になるワインとは違います。本当にオレンジの香りを付けたワインです。

ベースはDOPで認定された白ワインでアルコール度が14.5%以下のもの、もしくはアルコール添加によって発酵が止められたDO認定地域産の果汁で、それにオレンジの皮を6か月以上漬けて香りを抽出したアルコールを3%以上加え、クリアデラとソレラの方式で2年以上熟成したものです。

≪訪問記≫

ドニャーナ国立公園

ユネスコの世界遺産で自然遺産に認定されているドニャーナ国立公園Parque Nacuinal de Doñana。自然保護地区Coto de Doñanaでもあり、現在、人は住んでいません。

位置的にはグアダルキビール川が大西洋に流れ込む河口の右岸低地と言ったらいいでしょうか。これまでシェリーの産地のサンルーカル側から船で渡ったことは何度かありましたが、ウエルバ側からは、少し入ったところで、ワインパーティをしたことしかなかったため、砂地の松林ぐらいのイメージしかありませんでした。

今回は、初めて3時間かけて車で周る見学コースです。ウエルバから南東方向、巡礼の聖地エル・ロシオも近い、エル・アセブチェという村が出発地点です。ここからスペイン語ではトド・テレーノTodo-terreno(直訳すると全地形対応型。普通は四輪駆動車を指す)と呼ばれる、波打ち際でも、砂漠でも、でこぼこ道でも走れるオフロード対応のバスで、内陸側から入ります。ほぼ砂漠状態で、乾燥した灌木ぐらいしか生えていません。ドゥナDunaと呼ばれる砂丘は、この地帯では、風によってかなり移動するのが大きな特徴です。松の森がまるまま、迫ってくる砂丘に埋もれそうになっているところも見られました。一方マリスマMarismaという潟のような地帯では、水草が生え、多くの野鳥が見られます。牛が放し飼いされている草原もありました。終点はかつての集落です。松も多い、緑の林の中に茅葺のような屋根の小屋がいくつかあります。昔、ここの井戸から汲んだ水を飲ませてもらったことがあるのを思い出しました。グアダルキビール川の浜辺に出ると、向かいのサンルーカルの町が目の前に見えます。右手は大西洋です。帰りは、大西洋岸の、全く何もない、白砂の海岸の波打ち際を35km、一気に駆け上りました。

 

ボデガ1コントレラス・ルイス Contreras Ruiz

https://contrerasruiz.com/

最初は、ドニャーナ国立公園と続くDOPコンダド・デ・ウエルバの認定地のほぼ中央に位置するロシアナ・デル・コンダドという町で4代続くボデガ「コントレラス・ルイス」を訪問しました。

1833年にブドウ栽培農家に生まれたグレゴリオ・コントレラスGregorio Contreras Lópezがワインの販売も始めたのが初代です。その息子、アントニオは畑を増やし、ボデガを新設し、事業を拡大し、それをもとに、3代目のグレゴリオとマヌエルがコントレラス・ルイスのアイデンティティ確立に力を注ぎました。そして今、4代目が最新の知識と技術を駆使して、さらに質の高いレベルを目指しています。

案内してくださったのは4代目のホセ・ホアキン・コントレラスJosé Joaquín Contrerasさん。まずは畑に向かいました。ただ、5月半ばのこの日は、スペイン最南端の州、アンダルシアにとっても異常な暑さの30℃超え。しかも昨年の秋以来全然雨が降らないとのことで、乾燥しきっています。幸い帽子を持っていたので多少は救われましたが、手足は、痛くなるくらい強烈な太陽の光線です。

畑の土は全体的にかなり赤っぽい色をしていますが、場所によっては白い部分が混じっていたりもします。ホームページの記載によると土壌はロームで石灰分を含む部分もあるとのことで、典型的なコンダドの土壌です。70haある畑で、生産するワインの90%を賄っているとのこと。標高は数十メートルのレベルで、小高いなだらかな丘状態です。

土地に根差した持続可能なワイン造りを基本とし、9か所にある自社畑は40年代に植えた区画と90年代に植えた区画があるということで、かなり古い樹を持っています。その90%はサレマです。

 サレマ100%のワインではオーガニックの「エダロÉdalo」や、スキンコンタクトやシュールリの手法を取り入れた「ビニャ・バレデロViña Barredero」があり、どちらも食事に合わせやすいタイプです。

またコンダド・デ・ウエルバはシェリーの産地の隣ということで、同タイプのワインを造っていますが、ここではひと手間かけた独自のスタイルのワインを造っています。その一つが「リベロ、ビノ・デ・フロール Líbero, vino de flor 2021」です。これは50%サレマ、50%リスタン・デル・コンダドです。サレマは、もともとオロロソが熟成されていたボコイという600~650ℓ入りの大きめの樽で、リスタンは、フロール(産膜酵母)と共に400ℓ樽で、それぞれ9か月熟成した後、ブレンドされています。香りにはフロールが感じられ、ふと甘さを感じさせるようなところもありますが、フレッシュで塩っぽさやミネラル感があり、ハーブっぽさもあり、大西洋とドニャーナの自然が感じられるワインです。

もうひとつは「1918 アントニオ・コントレラス・ラブラドールAntonio Contreras Labrador」。サレマで造るオロロソです。1918は先々代が生まれた年。ラブラドールは農民、畑を耕す人といった意味で、地に根差したワイン造りをしてきたことが見て取れます。平均熟成年数70年。先々代から引き継いだソレラのワインは100年ものです。現世代がボデガとして創業した1983年からはこの熟成システムを維持するために、長期熟成に耐えられる、石灰質土壌で栽培されるサレマを使い、毎年の収穫で造る新しいワインを第2クリアデラの各ボコイに補充しています。いずれも古い樽なのでアメリカンオークだけでなく栗材も使われているとのことです。ソフトでデリケートな口当たりで、歴史を感じさせてくれる深みのある味わいが広がります。

最後に試した「カラKala」は遅摘みのサレマの甘口です。晩秋まで待って収穫し、フレンチオーク樽で発酵させたもの。甘口というより、なめらかに、自然に喉を通っていく、とてもナチュラルなワインです。

 

ボデガ2:ヌエストラ・セニョーラ・デル・ソコロ協同組合Cooperativa Nuestra Señora del Socorro

https://www.bodegasdelsocorro.com/

 1957年に200軒のブドウ栽培農家が集まって作った協同組合で、やはりロシアナ・デル・コンダドにあります。現在は320軒の組合員、650haのブドウ畑を擁しています。栽培品種はサレマが主ですが、最近は黒ブドウの認定品種テンプラニーリョやシラーも栽培されています。

ボデガではスペインの協同組合の醸造設備の移り変われが見られます。大きなステンレス・タンクが立ち並ぶスペースが現在の主力です。けれどもその隣には昔の、そして大変アンダルシアらしい、セメント製円筒型の巨大な壺、ティナハTinajaが、立ち並ぶスペースが残っていました。これに似たタイプのティナハはアンダルシア内陸のDOPモンティーリャ・モリーレスでは今もうまく利用されていますが、ここではもう使われていないそうです。その先には次の時代のセメント槽があります。地上部分は使っていないとのことでしたが、地下のセメント槽はワインの熟成庫として使われていました。

基本ともいえる製品は、サレマ100%の白で、20世紀半ばにこのボデガが最初にボトリングして発売した「エル・ガモEl Gamo」というブランドのシンプルなワインです。「ビニャガモ・セレクシオンViñagamo Selección」は良い畑のサレマだけを使い、シュールリで造ったもの。「ドン・フレデDon Frede」ブランドのロゼと赤はテンプラニーリョとシラーのブレンド。ドン・フレデは、この地域に最初に黒ブドウを植えた方の名前とのことです。「ビニャガモ・エティケタ・ネグラ・フリッツァンテViñagamo Etiqueta Negra Frizzante」は赤と黒のボトルデザインが強烈なイメージ。サレマ100%、微発砲でアルコール度も低い、まさに夏の夜のビーチ・パーティにピッタリのワインです。

 

統制委員会で試飲

原産地呼称コンダド・デ・ウエルバの統制委員会Sede del Consejo Regulador de la DOP Condado de Huelvaはボリューリョスの町にあります。建物はネオ・ムデハル様式*の塔を改造したもので、外観は乾いたレンガ色ですが、中は落ち着いた木の雰囲気です。

* 注: ネオ・ムデハル様式:19世紀から20世紀初頭にかけて取り入れられた建築様式で、ムデハルと呼ばれる、レコンキスタ後もスペインに残ったイスラム教徒の影響を受けた様式のリバイバル版。

ここでは統制委員会の各タイプの基本サンプルワインを試飲しました。コンダド・パリドCndado PálidoもしくはフィノFino、コンダド・ビエホCondado Viejo もしくはオロロソOloroso、ビノ・ナラナハVino Naranjaの3点です。

パリドはシェリーのフィノよりシャープな香りで、しっかりした辛口。骨格がしっかりしていてボリューム感もありますが、口の中で柔らかく風味が広がります。

ビエホは平均熟成期間5年ですが、かなり濃い色です。柔らかな口当たりで、骨格を中心に肉付き豊かで、とてもまろやかです。

どうしてコンダド・パリドとフィノ、コンダド・ビエホとオロロソと、それぞれ2つの呼び方があるのか、事務局長のアントニオさんにうかがったところ、もともとはフィノ、オロロソと呼ばれていたそうです。ところが1960年代、シェリーからこの名称はシェリーのものだから使ってはいけないとのお達しがあり、あらたに考えられたのがコンダド・パリドとコンダド・ビエホだったとのこと。けれども21世紀、EUの決断により、アンダルシアの伝統的なワインの4つの産地(ヘレス、モンテョーリャ、マラガ、コンダド)が合意し、もともとあった名称は認められることになったため、コンダドのフィノ、オロロソという呼び方も戻ってきたとのことでした。

一方、ビノ・ナラナハVino Naranjaはコンダド・デ・ウエルバの特産といっていいでしょう。オレンジの皮は、1ℓのアルコールに200g以上の割合で使用し、1000ℓ以下の容器で6か月以上浸染しなければならないという規則もあります。

昔、初めてコンダド・デ・ウエルバのボデガを訪問した時、最後に「これを飲んでいきなさい」と言われ、大きな樽から出してくれたのがビノ・ナランハでした。まぎれもないオレンジの香りが、オロロソのような酸化熟成した豊かなワインから漂う、まさに締めくくり、「最後の一杯」にぴったりのワインでした。ただ、アンダルシアではこんな時 “Penúltimo(a)”と言います。最後の一つ前という意味です。これでお終いではありません、また会いましょう、また乾杯しましょうといった気持ちがこもった言葉です。

 

ボデガ3:ボデガス・インファンテBodegas Infante

https://www.dinfante.com/bodegas-mam/

  その歴史が1870年に始まる古いボデガですが、現オーナーは2020年にこのボデガを入手したグルポ・ヒノレGrupo Ginole。CEOのマヌエル・アスタシオManuel Astasioさん他2名がオーナーです。マヌエルさんはサイトによると醸造家でもあるようですが、実業家で、このボデガを一大リゾートに作り上げる事業について大いに語ってくれました。ブドウ畑の横には地下の熟成庫とするべく大きな穴が掘られていました。また宿泊設備やレストランも建設予定で、整地をしていたところ、遺跡が発見されて、現在作業は中断中という現場も見せていただきました。ここだけでなく、スペインでは建設予定地を掘っているとローマの遺跡やらフェニキアの遺跡やら、遺跡に行き当たることがよくあり、発掘調査が済むまで工事は中断されます。

ボデガス・インファンテはもともとブランデーのメーカーとして知られていたそうで、ウェブサイトによると、1870年に創業したミゲル・デ・ロス・カサレスMiguel de los Casaresの子孫が代々、アニスやポンチェ、ブランデーといった蒸留酒を造っていたようです。ワインでは2007年にスパークリングのブルット・ナトゥレを発売しています。

現在はブランデーの「インファンテ・グラン・レセルバ・エスペシアルInfante Gran Reserva Especial」を始めとするブランデーの他、ラム、ジン、アニスなど各種のスピリッツ系、スティルワインも数々造っています。前の晩ウエルバの町のレストランで飲んだのはここの「ディオサ・デ・ラス・3カベサスDiosa de las 3 Cabezas(3つの頭の女神)」という名のコロンバール100%のワインでした。シンプルかつフレッシュなシーフードによく合いました。「トラガンティア・サレマTragantia Zalema」というサレマ100%のワインも軽く飲みやすい白です。

 

ボデガ4:ビニコラ・デル・コンダドVinícola del Condado

www.vinicoladelcondado.com

1955年創設で、組合員500以上というアンダルシア最大の協同組合です。2002年に「ボデガ・プリビレヒオ・デル・コンダドBodega Privilegio del Condado」という自社ブランドを作っています。

このボデガ、統制委員会もあるボリューリョスにあり、ワイン・ミュージアムになっているウエルバ県の施設「コンダド・デ・ウエルバ・ワイン・センターCentro del Vino del Condado de Huelva」に直結しています。

ミュージアムでは統制委員会の会長、マヌエル・インファンテ・エスクデロManuel Infante Escuderoさんにご挨拶させていただきました。組合員の篤い信頼を受け、1999年から今までずっとこのワイン産地を統率してきた方です。人徳のある方なのだと感じられる、温かい方でした。

このセンター脇の小さなブドウ畑の先がボデガの入り口です。醸造家のエラディオ・マテオ・ソトEladio Mateo Sotoさんが案内してくださいました。

大きな共同組合だけに、かなり広いスペースを持っています。シェリーの産地でよく見る高い天井、アーチ形の柱、クリアデラとソレラの熟成システムの樽を並べる広大なボデガがありますが、壁際に樽が積んであるだけで、ほぼ空っぽ。ステンレス・タンクが並ぶ醸造設備が納められたボデガの外には、以前使用されていたであろう、ものすごい数のセメントの円筒型のコノcono(上が平らなティナハのようなもの)が撤去されようとしている現場がありました。1500個ほどあるそうです。自社ブランド作成も含め、21世紀のボデガとして生まれ変わろうとしている姿が目の当たりに見られて、うれしいというか、少し寂しい感じもします。

規模が大きいだけに各種白ワイン、赤ワイン、瓶内二次発酵のスパークリングも含め、たくさんの種類のワインを造っていますが、中でもサレマの辛口白「プリビレヒオ・デル・コンダド・ブランコ・セコPrivilegio del Condado Blanco Seco」は市場でもよく目にするワインです。ただ、ここは他にも素晴らしいワインを持っていまました。

 「カランバノCarámbano」はアンダルシア初のアイスワインです。モスカテル・デ・アレハンドリアとサレマを凍らせてから搾った果汁を自然に発酵させてできた甘口ワインです。灼熱のアンダルシアで育ったブドウからできるアイスワイン。クールです。

もうひとつ「ミステリオMisterio」のシリーズがここの本命と言っていいかもしれません。ナランハとベルモットもありますが、オロロソ12年とオロロソ70年は見逃せません。「ミステリオ・オロロソ・コンダド・ビエホMisterio Oloroso Condado Viejo」と「ミステリオ・オロロソ・ムイ・ビエホMisterio Oloroso Muy Viejo」です。12年でも深みがあって十分おいしいのですが、70年はさすがに複雑な要素が一体になった豊かさがじっくり染みわたってきて、アンダルシアの伝統の味が引き継がれてきているのが感じられます。エラディオさんが樽から出してくださったオロロソは格別においしかったです。これはどちらもサレマ100%です。

 

ボデガ5:ボデガス・オリベロスBodegas Oliveros 

https://www.bodegasoliveros.com/

 1940年にフアン・オリベロス・ペレアJuan Oliveros Pereaが創設したボデガで、「フアン・オリベロス・ティント・デ・アウトール・レセルバJuan Oliveros Tinto de Autor Reserva」という、彼の名を冠した、テンプラニーリョとシラーのブレンドで、良い収穫の年にしか造らないワインがあります。現在は3代目、ミゲル・オリベロスMiguel Oliverosさんが率いています。伝統を継承しつつも積極的に新しい技術を取り入れる気風の一家で、ボデガの随所に様々なアイデアが見られます。醸造設備は最新ですが、ワインの貯蔵熟成には、昔、ワインの発酵や貯蔵に使っていた、地下の巨大な槽をそのまま使っています。天井(地上からだと床)を見上げると、丸天井に丸い穴が開いているので、ティナハ(壺)型だったのが分かります。赤ワインのレセルバも瓶内二次発酵のスパークリングもここで眠っています。

今、ミゲルさんが力を入れているのが「ザ・ワイン・エッグ・プロジェクトThe Wine Egg Project」です。ごく和風に訳すと「葡萄酒卵計画」。卵型のセメント容器で、発酵中に自然に起こる対流を利用してワインを造る方法です。最近スペイン各地で使われるようになっている“卵”ですが、ここにはミゲルさん独自の方式があります。2018年に立ち上げたプロジェクトで、オーガニックで、ワインが生まれてきた畑、テロワールを表現するワイン造りを目指しています。

“卵”は2つで、1つは白ワイン用、もう1つは赤ワイン用です。容量は1000ℓとのこと。特徴は“卵”に足がないこと。セメント製の足が付いている“卵”もよく見られますが、ここのは、つるんとした卵型で、スティール製の枠に載せてあります。それは、最高の酸素透過性と熱伝導性を得るために、素材、その厚さ、そして継ぎ目のない一体型で、セメントの脚がない形が、計算されて設計されているからです。

白ワインはソービニョン・ブランの「ソブレ・リアス(シュールリ)Sobre Lias」。赤ワインはテンプラニーリョで、「ソブレ・ドゥエラスSobre Duelas」といいます。直訳では“側板の上”です。ドゥエラは樽の側板のことです。説明によると、セメント“卵”の中にワインと一緒に軽くトーストしたフレンチオーク材を入れ、木に浸透したワインが、さらにセメントの目を通して呼吸できるように考えられているとのこと。こうすることによってフルーティさが保たれ、ミネラル感たっぷりで、甘いタンニンの赤ワインになるとのことです。理論はともあれ、ラベルも可愛いし、おいしいワインなので、出会ったら、ぜひお試しください。

ここでは伝統的なオロロソも造っています。「オリベロス・コンダド・ビエホOliveros Condado Viejo」といいます。パロミノ・フィノとガリドを使って、クリアデラとソレラのシステムで、平均8年熟成したものです。残念ながらフィノは造るのをやめたそうです。

一方、ベルモットは創設者の代から引き継がれた方法で造られ続けています。「ベルモット・レセルバVermouth Reserva」は、30種のハーブをオランダと言われるアルコール度65%ほどの蒸留酒に浸染します。これとオロロソ、そしてペドロ・ヒメネスのミステラを合わせたものをアメリカンオーク樽で8年熟成します。

すごく凝ったことをするボデガですが、シンプルなサレマの白を始めとする各種ワインも、しっかり心を込めて造っています。

 

DOPコンダド・デ・ウエルバは伝統的なワインと新しいワインが混在する興味深い産地です。コロンブスも飲んだであろうワイン。新大陸に最初に上陸したワインはコンダドのワインだった可能性は大いにあります。大西洋の新鮮な魚介類が豊富な地で生まれるサレマの白ワインは、太平洋の魚介類をふんだんに使った和食にも文句なく合います。暑い夏は冷やし目で、どうぞ。

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