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FENAVIN 2023-2

5月9日から3日間、カスティーリャ・ラ・マンチャ州、シウダド・レアルしで開催されたスペイン国産ワイン展「FENAVIN 2023」。今回はアンダルシアのワインのブースをかなり訪問しました。今、変わろうとしている伝統的なアンダルシアのワイン、シェリー、マンサニーリャ、マラガ、コンダド・デ・ウエルバ。勢いに乗るスティル・ワイン。興味深い、新しい試みのワインをご紹介します。

 

≪伝統的なアンダルシアのワイン生産地≫

親しくしていただいているボデガが多いアンダルシアでは、まずDOPマンサニーリャの町、サンルーカル・デ・バラメダで1822年から続くボデガ「アルグエソArgüeso」https://herederosdeargueso.com/のブースを訪問。昨年、市場に登場した驚くべきワイン「コンデ・デ・アルダマ ラーヤ・コルタダConde de Aldama Raya Cortada」をチェックしました。パティオで4年ほど熟成されていた、ということは一番荒っぽい扱いを受けていたオロロソの表面に、なぜか、最もデリケートなはずのフロール(酵母)の膜が出現。オロロソなのでアルコール度は18%あり、常識的には酵母は発生しません。けれどもここでは酵母は膜を作り、アルコールを消費するため、ワインのアルコール度は下がっているとのこと。そして、その状態は今も続いているとのことでした。 “謎の”ワインは今年も深みのある良い味わいでした。

 同じブースを共有してるのはシェリーの町、ヘレス・デ・ラ・フロンテラにあるスティル・ワインのメーカー「ミゲル・ドメックMiguel Domecq」https://migueldomecq.com/ です。シェリーの主要品種パロミノ100%の白ワイン「トーレ・デ・セレスTorre de Ceres Palomino」と、注目の黒ブドウ地場品種、ティンティーリャ・デ・ロタ100%の赤ワイン「トーレ・デ・セレスTorre de Ceres Tintilla de Rota」を試飲。このボデガはもともと1730年にジュアン・オーリーが創業し、その3代目に当たるペドロ・ドメックがシェリーとブランデーの事業を成功裏に拡大し、長らく「ペドロ・ドメックPedro Domecq」の名で親しまれてきました。けれどもドメック一族がボデガを手放したため、一族の一人、ミゲル・ドメック氏が新たにスティル・ワインのボデガを開いたもの。土地をよく知るスタッフ一同が最新技術を駆使して作るワインはおいしくないわけがありません。

 自社所有の特定ブドウ畑(パゴPago)のブドウだけで高品質ワインを造るボデガ36社のグループ「グランデス・パゴス・デ・エスパーニャGrandes Pagos de España」https://grandespagos.com/en/home-en/ のブースにはDOPシェリーのボデガ「バルデスピノValdespino」https://www.grupoestevez.es/valdespino.cfm とDOPモンティーリャ・モリーレスの「アルベアールAlvear」https://www.alvear.es/が出展していました。

「バルデスピノVaidespino」は、1264年にスペインの国土回復運動でイスラム教と手からヘレスに取り戻したとき、戦いで功績のあった騎士に、国王が褒賞として与えた土地を拝領して、ブドウ栽培を始めたのが、今のボデガの始まりです。マチャルヌード・アルトという高品質の石灰質土壌、アルバリサを持つパゴのなかに自社畑を持っていて、現在も維持されています。バルデスピノ家はボデガを「ホセ・エステベス José Estévez」社に売ったため、現在はワイン造りに関与していませんが、ソレラ(継ぎ足し方式のシステムで長期熟成したワインが入った樽)のワインは引き継がれていて、今でもフィノの「イノセンテInocente」用のワインは樽発酵が続けられています。

1729年創業の「アルベアールAlvear」はモンティーリャで最も古いボデガです。畑は最も質の良いアルバリサ土壌があるシエラ・デ・モンティーリャSierra de Montillaとモリーレス・アルトMoriles Altoに所有。今回は、12年熟成のフィノ・パサド「フィノ・カパタス・ソレラ・デ・カサFino Capataz Solera de Casa 12 años Fino Pasado」、20年熟成の「オロロソ・カトン Oloroso Catón」と「パロ・コルタドNo.7 Palo Cortado n.7 」を試飲させていただきました。このフィノ・パサドはアモンティリャドになる寸前で、フロールを維持している状態のものとのこと。

同じDOPモンティーリャ・モリーレスでは、統制委員会のブースで「ペレス・バルケロPérez Barquero」https://www.perezbarquero.com/ から最初に勧められたのが伝統的製法のスパークリング・ワイン「G1」でした。コルドバ大学との共同研究の末に生まれた、凝った製品です。瓶内二次発酵に使われる酵母は、傘下の「ボデガス・ガルシアBodegas Garcia」が所有していた樽を80年代前半に取り分けておいたものが持っている産膜酵母を使用。ベースワインはシエラ・デ・モンティーリャ産のペドロ・ヒメネス100%。門出のリキュールは長期熟成オロロソ。製品は、ここまで手をかけたことを感じさせない、まろやかさのある爽やかな口当たりのスパークリングでした。

続いて、今売り出し中のビノ・デ・ティナハVino de Tinajaとビノ・デ・パストVino de Pastoを試飲。ティナハはモンティーリャ・モリーレスで使われる伝統的なコンクリート製の巨大な壺のこと。ワインは発酵を終えると、クリアデラとソレラの熟成システムに入るまで、このティナハで保存されます。その間に表面には酵母の膜が発生しています。この状態のワインを瓶詰したのが「フレスキート・ビノ・デ・ティナハFresquito Vino de Tinaja」。このワインを、半分はそのままティナハで、半分は樽で保存して、後にブレンドして瓶詰めしたのが「フレスキート・ビノ・デ・パストFresquito Vino de Pasto」。ビノ・デ・パストは日常的に飲むワインといった意味で、かつて農家が自分の畑で採れたブドウで自家消費用に造っていたワインもビノ・デ・パストです。ただ、この製品は手が込んでいます。樽熟に使う樽は、もともとフィノを熟成していた樽からワインだけ抜いて、底に澱が残った状態のもので、そこに前出のビノ・デ・ティナハを入れ、12か月間、ボデガの中の湿度の高い位置に置いておいたものです。樽の底に残った澱というのはフィノのワインの表面に発生する酵母が役目を終えて底に沈んだもので、時とともに分解し、それがワインの風味にも影響します。そのため、このワインはビノ・デ・ティナハより複雑味や凝縮感があります。ちなみにモンティーリャ・モリーレスのワインはフィノ系の場合、酒精強化しないので、アルコール度は、この2つワインの場合,14%ありますが、これは発酵による度数です。

同じブース内にオーガニックが看板の「ボデガス・ロブレスBodegas Robles」https://www.bodegasrobles.es/ も出展していましたが、ここでも最初にスパークリングを勧められました。スペインではスパークリングの需要が多いようで、伝統的製法のスパークリングを認定タイプに掲げているDOPやIGPがたくさんあります。

もう一つ流行っているのがベルモットで、どのボデガでも勧められました。そんななかロブレスの「ベルモット・エコロヒコ・ロブレスVermut Ecológico Robles」はオーガニックのオロロソをベースとし、大変滑らかな口当たりで、ハーブが自然に溶け込んだような優しさがあります。「ベルモットVRMT IIアンダルシア・レシピVermut VRMT II Receta andalusí」は8年熟成のオーガニックのオロロソをベースに、ほんの少しペドロ・ヒメネスを加えてあります。使用するハーブは同社のオーガニックのブドウ畑に生えてくるもので、テロワールを伝えてくれます。

DOPモンティーリャ・モリーレスのブースには「ロス・インセンサトスLos Insensatos」=「常軌を逸した人たち」という名前を持つボデガhttps://www.losinsensatos.com/ のマヌエル・ヒメネスManuel Jiménezさんが6本のワインを持って会いに来てくれました。モンティーリャに畑を持つグループで、同じ畑の中でも条件が異なる区画のペドロ・ヒメネスを使って、それぞれの個性を表現したワインのシリーズにしています。「デ・ラ・アンテオフエラDe La Antehojuela」、「エル・バルコEl Barco」、「エル・プレティルEl Pretil」、「ラ・マンガ・デル・ネグロLa Manga del Negro」は区画別。「ティナハ・ミックスTinaja Mix」はブレンド。そして「ラ・コンデナLa Condená 2021」は2021年、百年物の畑の樹を抜くにあたり、最後の収穫で造ったワインで、古木のワインらしい重厚さ、複雑味がありました。

注)アンテオフエラはアルバリサ土壌の中でも、緩めでぼろぼろした多孔性で、降った雨をスポンジのように吸い取ってくれる性格。湿っているときは柔らかいが、乾くと硬く固まる性質を持った土壌。

DOPマラガのブースでは、1927年創業で、現在は4代目が率いる「ボデガス・ディモベBodegas Dimobe https://www.dimobe.es/es/content/6-la-bodega」との出会いがあり、貴重な試飲体験をさせていただきました。かつて、マラガと言えば酸化熟成系ワイン、オロロソ色の甘口ワインで、スペインのスーパーでは普通に売っていましたが、最近はあまり目にしません。けれども今回試飲させていただいたのは、全く違うタイプのワインです。

このボデガはDOPマラガの中で、東の端に位置し、特異な条件を持つサブゾーン、アクサルキアにあります。南は地中海、東は3000m級の山が連なるシエラ・ネバダ。畑は急斜面にあり、土壌は粘板岩質で、ブドウ栽培はすべて手作業。栽培品種はモスカテル・デ・アレハンドリア。ペドロ・ヒメネスは別のサブゾーン、やはり傾斜地のモンテス・デ・マラガで栽培しています。

今回試したのはいずれもアクサルキアのモスカテルのワインですが、製法が違います。「ブランコ・ナトゥラルメンテ・ドゥルセBlanco Naturalmente dulce ピアマテルPiamater」の場合、収穫したブドウは天日に干します。数日乾燥させると重量が50%にまで減るそうです。この半干しブドウから果汁を搾り、自然に発酵させ、発酵が止まると出来上がり。アルコール度13 %、 残糖160 g/l.

「ビノ・ドゥルセ・ナトゥラルVino Dulce Naturalセニョリオ・デ・ブロチェスSeñorío de Broches」は、果汁を発酵させ、望む残糖度に達したところで、グレープアルコールを添加して発酵を止めたもの。アルコール度15 %、残糖130 gr/l

「マエストロMaestro ビニャ・アクサルキアViña Axarkía」はマラガ特有の珍しい造り方です。収穫したブドウを絞って取れたフレッシュな果汁に、まずアルコール度8%までグレープアルコールを添加し、その後で、ゆっくり発酵させます。アルコール度15 %、残糖110 gr/l

いずれも伝統的に造られてきたタイプですが、非常にきれいな甘口ワインとして、各々が製品になっているのが魅力的でした。

オーガニックワインの生産者のグループのコーナーで遭遇したのが、DOPコンダド・デ・ウエルバの「ガライGaray」https://bodegasgaray.com/ というボデガです。オーナー醸造家、マリオ・ガライMario Garayさんがすごい熱意を込めてワインを語る横で、奥さんアナ・ゴンサレスAna Gonzálezさんが穏やかに見守っているのが印象的でした。「ルスLuz」はオレンジ・ワイン。地場品種でDOPのブドウ総栽培面積の80%以上を占める白ブドウ、サレマ100%です。素焼きの壺で発酵、貯蔵したもので、まさにオレンジと言っていい色です。森の下草のような香りがあり、風味もしっかりと、個性的なワインです。「ネグロ・ロトNero Roto」はモンティーリャ・モリーレスのアモンティリャド系。同じくサレマの白ワインを12か月産膜酵母と共に熟成した後、12か月酸化熟成したもの。「レッドRed」は同じくサレマで、オロロソ系。造り手さん同様、いずれもインパクトの強いワインです。

このコーナーにはアンダルシアの内陸、DOPシエラス・デ・マラガで長年、素晴らしいスティル・ワインを造っているドイツ人、フェデリコさんの「F. シャッツF. Schatz」 https://f-schatz.com/も出展していました。彼がドイツから持ってきたレンベルガーというドイツ品種で造る「アシニポAcinipo」という赤ワインはステキです。

現在アンダルシアには8つのDOP保護原産地呼称と16のIGP=保護地理的表示があります。DOPではシェリー、マンサニーリャ、モンティーリャ・モリーレス、コンダド・デ・ウエルバ、マラガの5つが伝統的なワインを造る産地で、後の3つはシエラス・デ・マラガ、グラナダ、レブリハ(VC。酒精強化ワインはシェリーに登録)で、いずれもスティル・ワインの産地です。またIGPはコルドバ県にある一か所を除いて、全て主要製品はスティル・ワインで、外来品種が積極的に導入されています。同時に地場品種パロミノやティンティーリャ・デ・ロタに積極的に取り組むボデガもあり、外部からの参入者も増えています。スティル・ワインの世界の動きも見逃せなくなってきています。

 

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