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カナリア諸島訪問記 REPORTAJE DE LAS VISITAS DE BODEGAS EN LAS ISLAS CANARIAS 2/4

2日目:グラン・カナリア

 グラン・カナリア島はテネリフェ島の南にあります。はホテルから歩いてすぐの港からフェリーで向かいます。所要時間1時間半ほどでテネリフェ島に近い、島の西側の小さな港アガエテに到着。ここから無料バスで東側にある島の中心都市ラス・パルマスに向かいました。ここはコロンブスが新大陸発見の旅に出たときに寄港したところでもあり、かつて日本のマグロ漁の基地だったとき日本人が多く住んでいた町でもあります。

 向かうのは「ビエン・デ・アルトゥーラBien de Altura」です。ボデガは“アルトゥーラ=高度、高所”という名前だけあって、山をどんどん登っていった先にあります。リゾートムードあふれる島で、道々、主要農産物であるバナナが栽培されている畑がたくさん見られました。カナリア諸島はヨーロッパとアメリカの中間地点にあるため、ヨーロッパの需要とアメリカの供給との間で経済的に左右されることが多いところです。航海にワインが必要な時はブドウの苗が持ち込まれて栽培され、砂糖が必要な時はサトウキビが植えられ、砂糖キビの生産地がキューバに移ると、バナナを栽培し始めるといった感じです。

リゾート感満載の別荘風の家々やマンションが立ち並ぶ村々をいくつも抜け、たどり着いたのが「ビエン・デ・アルトゥーラ」のはずが、門には「Bodegas Montealto」と書いてあります。この日、オーナーのカルメロ・ペニャ・サンタナCarmelo Peña Santanaさんは不在。「一緒にワインを造っているアルマンドArmandoさんが案内するからね」と連絡をいただきました。しばらく待つとアルマンドさんが、どんな急傾斜でも凸凹でも平気そうな頑丈な小型トラックで登場。畑の中の小道を辿ってボデガへ案内してくれました。ここはもともと別のボデガのものだったのを入手して、現在整備中とのこと。

 カルメロさんは、調べたところ、1986年生まれ。ポルトガルのDOPポート&ドウロのディルク・ニーポート氏やスペイン北部のDOPビエルソのラウル・ペレス氏のもとで修業し、30歳のとき、故郷のグラン・カナリアでこのボデガを設立しています。直接お話を伺えなかったのは残念でしたが、ワインは試飲させていただきました。

「イケウェンIkewen」はサン・マテオ地区にある3つの区画のブドウを使ったもので、赤はリスタン・ネグロが主でリスタン・プリエトListán Prietoも使用とのこと。リスタン・プリエトは新大陸に渡った黒ぶどう品種でミッションとかパイスとか呼ばれているものです。サン・マテオ地区というのはグラン・カナリアの最高峰ピコ・デ・ラス・ニエベス(1949m)の北東斜面にあります。

 「バンダマVandama」というワインはカルメロさんのワインの中でアルマンドさんが実際に一緒に造っているワインです。畑もボデガもすぐ近くにあるので、カルデラのわきの道を通って、そちらに移動しました。火山島なのでカルデラがあちこちにありますが、最大のカルデラが“バンダマのカルデラCaldera de Bandama”で深さ200m、直径1,1km。ワインの名前「バンダマ」ではこのBandamaのBをVに変えたものです。

 ここでは畑も見せていただきました。小さなカルデラの底と斜面が使われていて、古い畑は株づくりで枝が周囲に這うように伸びているスタイルです。ピコンPicónという火山灰が固まった、真っ黒な微細な軽石のような土壌に植わっていました。

 

3日目:テネリフェ

まず、DOバーリェ・デ・ラ・オロタバにある「ビノス・エン・タンデムVinos en Tandem」へ。オロタバの町の少し内陸、つまりテイデ山麓を登って行ったところにあります。一見普通の家のような外観で、ガレージの扉のような入り口を開けると、中にはロバが3頭。住居と醸造所が一緒になった、可愛いボデガです。

オーナーは醸造担当のロレト・パンコルボLoreto Pancorboさんと、ブドウ栽培担当のガブリエル・モラレスGabriel Moralesさんご夫妻です。ロレトさんはMWを目指すリオハ出身の醸造家、ガブリエルさんはカナリア諸島各地でコンサルタントもする醸造家です。

オロタバにある3haの畑は標高620mで、リスタン・ブランコListán Blanco、アルビーリョ・クリオーリョAlbillo Criollo、グアルGual、ビハリエゴ・ネグロVijariego Negroを栽培しています。

東隣のDOタコロンテ・アセンテホにも畑を持っていて、白はベルデーリョ Verdello、モスカテルMoscatel、黒はリスタン・ネグロListán Negro、ネグラモルNegramoll、カステーリャ・ネグラCastilla Negra、バボソ・ネグロBaboso Negroを栽培しています。

今年は収穫が早まり、タコロンテの黒品種は通常9月初旬から中旬のところが8月に、オロタバの白品種は通常10月のところが8月31日からになったそうです。異常気象の影響はカナリア諸島でも大きいようです。

伝統的な手作り感覚のワイン造りで、ブドウは足踏み、垂直プレス使用、セメントタンク、卵型セメントタンクで発酵、素焼きの壺Tinajaや樽で熟成。“デミジョンDemijhon”という大瓶も使っています。この瓶はスペインではガラフォンといって、昔ワインの量り売りが一般的だった頃によく使われていたもので、「その言い方は安いワインのイメージがあるからあえて“デミジョン”と呼ぶの」とのこと。彼女は音楽好きなので、歌手やアーティストの写真を発酵槽や樽に張ったりする、こだわりのある人のようです。ボトルのラベルには指紋が!たくさんのワインをセメントタンクや樽そしてボトルから試飲させていただきました。いずれも生産量はごく僅かです。

今回訪問したのは規模の小さいものの、テロワールを表現することに拘ったボデガがほとんどで、ワインの種類は多いものの、生産量が少なく、各ワインの生産本数は4桁がほとんどで、中には3桁のものもありました。

 

次はタコロンテの「ボデガス・モンヘBodegas Monje」です。

最初にテネリフェを訪れた時から20年以上お付き合いのあるボデガです。来るたびに新しくなっています。今回はテイデ山が目の前に広がる素晴らしいテラス付きのレストランができていました。カナリア諸島は観光が最大の産業なので、ボデガは観光客誘致に力を入れています。そのなかでこのボデガのオーナー、フェリペ・モンヘFelipe Monjeさんは、かなり前から若者のワイン離れを阻止すべく、ボデガでさまざまな若者向けのイベントを行ったり、グッズを販売したりして、ボデガに来てもらうことによってワインを身近に感じてもらえるような努力をしてきていました。その点ではエノツーリズムの先駆者の一人といえます。

モンヘ家は1750年から続くワインメーカー一族です。今も先代、ミゲル・モンヘさんが1956に作り、1983年にリニューアルした(といっても古色蒼然とした)ボデガがそのまま保存され、古い樽の中には現在もワインの熟成に使われているものもあります。

畑はボデガの周り、テイデ山の山麓、標高600m~200mほどの所にあります。目の前は海です。ここではパラル・バホParral Bajoという仕立て方を見ることができました。枝が広がる高さを低く設定した棚仕立てのことです。

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DOPイスラス・カナリアスの仕様書による仕立て方の説明を抄訳してみます。

  1. エン・バソEn vaso: 株仕立て。枝が伸びすぎた時は支柱で支える。
  2. エン・ラストラス En rastras: 高さ1m以下で支柱によって支えられ、枝を水平に伸ばす伝統的な仕立て方。
  3. コルドンCordón: 高さ1m以下で、枝は一つにまとめられて紐のように伸ばされる伝統的な仕立て方。(訳注:コルドン・トレンサドのこと)
  4. パラル・トラディシオナParral tradicional: 木か金属の構造物の上に水平に枝を広げる伝統的な仕立て方。
  5. パラル・バホParral bajo: 約1m幅の針金の上に枝が広がるように仕立てたシステム。

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畑にはエン・ラストラスもありました。ブドウの実に色が付き始めるころ、支柱(オルケータHorqueta)を立てて、ブドウの房が土に着かないように持ち上げるとのことです。収穫が終わった後でしたので、支柱は外され、樹は平べったい株づくりのような様相でした。

ここでもたくさんの種類のワインを造っていますが、ごく限定生産の「バスタルド・ネグロBastardo Negro」にはストーリーがあります。20年ほど前、標高670mのラ・モスタサという区画で発見し、品種が分からなかったため“ティンタ・モンヘ”と命名して維持していたところ、調査の結果バスタルド・ネグロだと分かり、ワインとして商品化したとのこと。試飲したビンテージ2020はフレンチオークで8か月熟成。生産本数200本。

このボデガは、以前はDOタコロンテ・アセンテホ所属でしたが、今はVTイスラス・カナリアスです。

 

テネリフェ島の最後はオロタバの「マルサナガ・エレメンタレスMarzanaga Elementales」です。

クラウディオ・ミゲルClaudio Miguelさん一家のボデガです。大変入り組んだ細い急斜面の道を走るため、普通車からクラウディオさんの車に乗り換えて行きました。その畑にあったのがコルドン・トレンサドCordón Trenzadoです。トレンサドは“三つ編みにされ”たという意味で、一見三つ編みのようですが、実際はお下げ髪のように編まれているわけではありません。1本の幹から伸びてくる何本もの枝を一つにまとめて束にして紐で括ったものです。長さは5mから15mにも及びます。

クラウディオさんの畑は大変古い樹が植わっているため、その幹はがっしり太く、長さもかなりあります。畑はテイデ山の山肌にあるので、棚田状に作られていて、各段は石垣を組んで崩れないように固めてあります。上の段の畑の樹と同じ根から、石垣をものともせず、下の段の畑に幹が伸びていて、それも長くしっかりしたトレンサドに仕立てられています。現在は常時支柱が立てられているそうですが、かつては収穫が終わると、1面の畑のトレンサドはまとめて幹のある一辺に集め、空いたスペースにじゃがいもを植えていたのでしょう。使われなくなった木のオルケータが脇に積んでありました。90度曲げられても折れないブドウの樹。何とフレキシブルで丈夫なことでしょう。

トレンサドの畑の脇の一角、崖の際のような位置に、巨大なブドウの樹が1本。”ラ・アブエラLa Abuela=おばあちゃん“と呼ばれています。これは幹から枝が地を這うように四方八方に伸びています。オロタバ地域では、前にもこのスタイルの巨大なブドウの樹を見たことがあります。その時は、灌木をかき分けて入っていくと、いきなり前が開け、そこに思いっきり手を広げたかのように、枝を四方八方に伸ばし放題で生えていました。自然にブドウの樹を放置するとこうなるのでしょう。もちろん実はワインに使われます。

試飲はクラウディオさんのお宅の横にある樽熟庫も兼ねたスペースで。白はアルビーリョとリスタン・ブランコで3種、赤は6種ありました。

いずれもビオディナミです。ちなみに、リスタン・ネグロ90%+カステェリャナ10%で造る「イガHiga」という赤ワインの場合、収穫は手摘み(畑を見れば当然ですが)、ステンレスタンクで、天然酵母で自然発酵、温度調節なし、添加物なし、濾過も清澄もなし。9か月栗材の樽で熟成。ブドウがしっかりしているのが感じられます。

クラウディオさんはカナリア諸島のサステナブルでナチュラルなワインを造る23人のグループ「ビニャドーレスViñadores」の会長もしています。

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