ボルジェス Borges
緑の山から青い海に流れる川の上にブーゲンビリアが覆いかぶさって咲き乱れる、フンシャルを縦断する通り。その右岸には、19世紀前半にイギリス領事の館だった、現マデイラ・ワイン博物館が美しい姿で佇んでいる。川を挟んで、その目の前にあるのがボルジェスだ。1877年、エンリケ・メネゼス・ボルジェスが創設し、今もボルジェス家が継承している。19世紀そのままではないかと思わせるようなロッジ。エストゥファジェンもクラシックだ。他のメーカーはタンクの外側にジャケットを巻いた、ワインの発酵タンクと同じような形式のものを使っているが、ここのタンクは中に設置したらせん状のパイプに熱湯を流してワインを温める方式だ。ゆっくりと温度を45~50℃ぐらいまで上げて、3か月間加熱し、90日以上かけてゆっくり常温に戻して安定させる。カンテイロは町中にありながら、木の天井から差し込む光が、素朴な、昔懐かしいような雰囲気を醸している。ボトルのラベルを貼る作業は今も手で行っていた。
ここでは3年熟成の辛口、5年熟成の中甘口、10年熟成の中甘口、20年のヴェルデーリョ、1977年のボアルを試飲。11月に瓶詰めしたばかりだという新製品、20年熟成のヴェルデーリョは軽めの琥珀色で、エレガントで繊細だった。
ドリヴェイラ D’Oliveira
フンシャルの町の中心に近く、マデイラ島の細々したお土産も売っているため、常に観光客が出入りしているドリヴェイラ。5年熟成など若いマデイラ・ワインのボトルはどんどん売れている。だが、ここの神髄はオールド・ヴィンテージのマデイラだ。設立年の1850年ヴィンテージのヴェルデーリョが、1本630ユーロという価格で2010年セレクション・リストに掲載され、店頭販売されている。マデイラ・ワインなら大抵誰でも誕生年のヴィンテージが見つかるといわれるのも納得できる。
試飲に用意されていたのは10年熟成の辛口、甘口、15年の中甘口。ヴィンテージはオールド・ワイン(ティンタ・ネグラの場合は品種名を表記しない)1995年からマルヴァジア1907年までの10本だ。ヴェルデーリョ1912年は印象的だった。凝縮感、複雑味があり、100年の年月を生き生きと表現する、豊かな力を備えたワインだ。最後に「何か試したいものがあれば、何でもどうぞ」というオーナーのルイス・ドリヴェイラさんの言葉に甘えて、珍しい「モスカテルを」とお願いしてみた。快く応じで下さって、いただいたモスカテルは1900年ヴィンテージ。ちなみに店頭販売価格は365ユーロ。独特の酸味が個性的なワインだ。