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ピスコ、ぶどうが香るペルーの”燃える水” 2 Pisco, aguardiente de Perú con el aroma de uva 2

<ボデガ訪問>

1.     
エル・サルカイ・デ・アスピティア El Sarcay de Azpitia

 

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最初のボデガは首都リマからパンアメリカン・ハイウェイを南に下った、マラ川Río Malaの渓谷にありました。ヤシの木もある田園地帯で、リンゴの栽培も盛んです。

 オーナーで、原産地呼称統制委員会の会長でもあるハイメ・マリモン・ピサロJaime Marimón Pizarroさんと、まず畑へ。ボデガの横の畑はアルビーリャでした。ダブルT(Doble T)という仕立てで、T字形を二段に重ねた杭に枝を沿わせる方式です。

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 ボデガでは、ちょうどぶどうが搬入され、除梗破砕機にかけられていました。品種はケブランタです。ひとつの房に赤と白の実が一緒についていたりする変わった品種で、赤い実の方が多いため果汁は赤くなるとのこと。発酵槽はポリエチレン製のタンクです。発酵温度が上がると、水をかけて冷やすのだそうです。蒸留器はワインの余熱タンク付きのアランビケが二基。各1000ℓ入りですが、800ℓ入れて使っています。蒸留後、69か月寝かしてから出荷するそうです。

 

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写真にあるエル・サルカイの製品は3つのアチョラドで、一つはイタリアとアルビーリョ、もう一つは6品種(同社はウビーナとネグラ・クリオーリャは栽培していない)のアチョラド、もう一つは「女性に敬意を表して」と記されたモスト・ベルデのアチョラド。これは素晴らしくマイルドです。

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ここでは近所のボデガ「ドン・サカリアスDon
Zacarías
」のオーナー、シェイラ・サカリアスSheyla Zacaríasさんも加わって、彼女のピスコも試飲しました。トロンテル2008年、ケブランタ2007年、ケブランタのモスト・ベルデ2007年。いずれもピスコにしては長く寝かせたものですが、色は変わらず無色透明で、とてもまろやかでした。

 

2.     
ボデガ・デ・ラ・モッタBodega De la Motta

 マラ川からさらに南に下ると、カニェーテ川Río Cañeteに至ります。この渓谷を上るとルナウアナ、つまりウビーナ種を栽培している地域があります。

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そこにあるのがボデガ・デ・ラ・モッタです。到着が夜の8時を過ぎていたにもかかわらず、ぶどうの搬入が行われていました。小粒で見事な濃い紫色のウビーナです。トラックにびっしり詰まれた箱を降ろすのは全て手作業。「明日の朝6時から作業を始めます」とオーナーのセルヒオ・デ・ラ・モッタSergio De la Mottaさん。その晩はボデガ併設のレストランでチルカノChilcano*というカクテルを飲みながら夕食を食べ、併設のホテルで泊まりました。

*Chilcano:氷を入れたグラスにピスコ、レモン果汁、ガムシロップ、ジンジャーエールを入れて混ぜ、アンゴステュラ・ビターズを一滴。

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翌朝。早々に除梗破砕機にぶどうを移す作業が開始されました。実はホースを通って横の解放プールの上の段へ。底の穴から流れ出る果汁は下の段のプールに溜まっていきます。フリーランジュースが出終わると、上のプールには人が入って、残り滓をまとめ始めます。この間も果汁は下のプールに流れています。まとまった滓は昔ながらの木製の垂直プレスにかけます。これも手作業です。人が推すプレスはなかなか見られません。

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こうしてとれた果汁はポリエチレン・タンクに入れられ、発酵に移ります。この日、激しい発酵で、泡がもくもく出ているタンクには、作業員がホースを引っ張っていって、水をかけて冷やしていました。

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畑は、ウビーナだけでなく、モスカテル・ロサダ、ネグラ・クリオーリャ、ケブランタも植わった所を見学に行きました。渓谷とはいえ、岩と砂の大地で、途中には山崩れというか、岩崩れで埋まった石造りの村の廃墟があったりします。それを超えてたどり着いた畑も、ぶどうの葉は生き生きした緑ですが、視線を上げると、正面に砂と岩の山が迫っています。畑の向こうでは川がゴーゴーと音をたてて流れていました。

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ここではデ・ラ・モッタDe la Mottaブランドと一緒にデリクシルDelixirブランドも試しました。同じケブランタでも、デリクシルのものは畑がさらに南のチンチャのもので、トロピカルフルーツにチョコレートウェハスのような香りがあってアルコールがしっかりしています。一方デ・ラ・モッタの方は、パイナップルや柑橘系の香りでソフトです。アチョラドもデリクシルは2011年収穫のカニェーテのイタリアと2010年収穫のチンチャのケブランタのブレンドで、青い葉のような香りにキャラメルのような甘さが感じられ、ソフトな口当たりです。一方デ・ラ・モッタの方は、ウビーナ、ケブランタ、イタリア、モスカテルのブレンドで、ハーブや繊細なフルーツの香りがあります。

ピスコの面白さはぶどうの産地や品種の違い、メーカーの違いで、それぞれの個性があることです。デ・ラ・モッタの醸造家はワインコンサルタントでもあるリリス・モナステリオLyris Monasterioさん。

 

3.
ミ・ロセダルMi Rosedal

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デ・ラ・モッタのすぐ近くにあるボデガです。オーナーのジョニー・サンチェス・ロハスJhonny Sánchez RojasさんはマフエロMajueloというブランドの自分のピスコもつくっていますが、余所のボデガのピスコの蒸留も引き受けています。前出のデリクシルもここで蒸留されたものです。

アランビケが二基。ちょうど一基の蒸留が始まったところでした。加熱を始めたのは6時半。最初の蒸留液が出てくるのに約2時間かかるけれど、二回目はワインの余熱タンクがあるため、30分か40分ですむそうです。

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最初に出てくるヘッドの部分をちょっとなめてみると舌にピリッと来ました。これは使いません。流れ出す液を見張っていて、ときどきアルコール度を測定し、ヘッドを捨て、ボディに入ります。そして最終的に平均3848度のアルコール度になるように、テイルを切ります。ピスコはこれで出来上がりです。

今回のボデガ訪問のオーガナイザー、デリクシルのボデガのオーナー、サカリアス・ウアイナスZacarías Huaynasさんと息子のルイスLuisさんは、同じくカニェーテ渓谷にある新しいボデガの建設予定地を見せてくれました。道路を挟んで美しい河原が広がっています。ここもホテルを併設するそうです。砂漠地帯のコスタで、渓谷は市民の安らぎのゾーンになっているそうです。

 

4.
セパ・デ・ロロCepa de Loro

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ペルー第二の都市アレキパには、カニェーテから一旦リマに戻り、飛行機で行きました。アレキパは標高2300m以上の高地にあります。空港に着くとすぐ、富士山のように秀でたアレキパの象徴、ミスティ山の美しい姿が見えます。ユネスコの世界遺産に認定されている旧市街は、白い石で作られたスペイン風の家並みが美しい町ですが、まずはボデガへ。西に向かって延々と砂漠の中を走り、マヘス川Río Majesの渓谷まで行きます。この川も濁流です。けれども両岸は豊かな緑。その多くが、何と稲作の水田です。黄金色の実をつけた畑には大きな収穫トラクターが入っていました。

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セパ・デ・ロロのオーナー、セサル・ウイェンCésar
Uyén
さんと、ぶどうを収穫している畑へ。女性が三人、頬かむり状態で、大変丁寧に葉や悪い実を取り除きながら収穫していました。その背景は岩と砂の壁状の山です。反対側、道を挟んだ向かいには水田が広がっていました。

セサルさんは2002年、1800年代に作られたボデガを買い取って、ピスコつくりを始めました。今、土壁や木と竹の天井、土の床に古いティナハ(素焼きの壺)が半分埋められている、昔のままのボデガはミュージアム状態。隣にステンレス製温度調節付の発酵タンクを10基備えた新しいボデガを建設中です。アランビケは2基で、ヘッドは玉葱型と円錐型の2種類がありました。

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この日はモケググアという、もう少し南にある産地のボデガの人たちもやってきて、古いボデガは飲み会状態。ここではネグラ・クリオーリャやモリャール、トロンテルも試飲できました。

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セサルさんの得意はネグラ・コリエンテ。「これはスペイン人が最初に持ってきた品種です」とセサルさん。花のような豊かな香りがあるピスコです。モリャールもハーブや花のような香り、トロンテルもオレンジややわらかな花のような香り。ここはケブランタも、2010年収穫だったせいもあるかもしれませんが、まろやかでした。

 セパ・デ・ロロには2泊。最後は名物のエビの煮込みを食べ、また広大な砂漠を走り抜け、アレキパの町に戻り、ボデガ訪問の旅を終えました。

 

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