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ピスコ、ぶどうが香るペルーの”燃える水”  Pisco, aguardiente de Perú con el aroma de uva


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310日からペルーのピスコのボデガを訪問してきました。ピスコの生産者と知り合ったのは数年前のこと。シェリーの産地の中心都市、ヘレスが姉妹都市提携を結んでいる関係で、ピスコの生産者がヘレスを訪問していたとき、たまたま同じパーティに参加していたのがきっかけです。今回で現地を訪問するのは二回目になります。

ピスコは、簡単に言えば、ワインを蒸留したものです。スペイン語ではアグアルディエンテ、”燃える水”です。 ピスコは原産地呼称です。

 

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<ピスコの由来 Origen de PISCO

ペルーはナスカの地上絵など数々の世界遺産でご存じの方も多いと思います。ペルーには紀元前から各地に文化があったのですが、有名なのはケチュア民族が作った、マチュピチュのようなインカ帝国の文化と、それを滅ぼしたスペイン人が構築した、クスコのようなコロニアル文化です。首都のリマもペルー第二の都市アレキパも、旧市街にはまるでスペインの町のような雰囲気があります。

ピスコもスペインと大いに関係しています。インカ帝国が隆盛を極めていた時代、太平洋岸に、たくさんの鳥がやってくる港がありました。ケチュア語で、鳥のことをピスクと言います。そのため、この町はピスク、後にピスコと呼ばれるようになりました。16世紀、この港にやってきたのがアメリカ大陸を発見したスペイン人たちです。彼らはインカ帝国のありとあらゆる財宝を船に積みました。けれども同時にキリスト教の布教も盛んに行っていたため、当然のごとく、ぶどうを植えワインをつくり、これも財宝とともにピスコの港から船に積んでスペインに持ち帰りました。ところが、このワインがスペインのワイン産業を圧迫するということから、1614年、輸入が禁止されてしまったのです。その結果、ペルー側では出荷できないワインが山積みになり、量を減らそうとしてとられた手段が蒸留でした。こうしてペルーのアグアルディエンテ=燃える水、フランス語でいえばオー・ド・ヴィが生まれました。皮肉なことに、蒸留技術を伝えたのもスペイン人でした。

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この港の地域で素焼きの壺を作っていた民族もピスコと呼ばれていたのですが、スペイン人の到来以降、彼らはワインの発酵や保存に使うティナハと呼ばれるアンフォラ形の壺を作るようになり、この壺もピスコと呼ばれていました。そして後にワインを蒸留したものを入れるのにも使われたため、その蒸留酒もピスコと呼ばれるようになったのです。スペイン人たちはピスコという名称を16世紀半ばから使っていたそうです。

2007年のペルー大地震で最も大きな被害を受けた町の一つだったピスコは、今、古い教会の隣に新しい教会が建てられ、中心部は復興されていますが、海辺はまだ殺風景なまま残されていました。

 

<原産地呼称ピスコ Denominación de Origen Pisco

 ピスコには原産地呼称認定地域があります。ペルーは太平洋岸沿いのコスタ、アンデス山岳地帯のシエラ、アマゾン流域のセルバの3地域に分かれますが、ピスコの産地はコスタ南部にあります。首都があるリマ県から南に下って、イカ、アレキパ、モケグアの各県、そしてタクナ県のロクンバ、サマ、カプリナの渓谷が含まれます。

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首都のリマを出て、パンアメリカン・ハイウェイで南に下ると右手は太平洋、左手は砂漠が延々と続きます。そしてやっと見えてくる緑の帯。そこだけが突然、濃い緑に包まれています。アンデスから下る川に沿った渓谷がぶどうを始めとする農産物の産地になっているのです。

ピスコのボデガを訪問する場合、この緑の渓谷を上流に向かって上っていきます。夏(日本では冬にあたる月)は雨季なので、シエラに降った雨で川はあふれんばかりの濁流です。白波を立てて轟々と流れる川に沿って谷間を走っていると、周りは緑ですが、背景が砂山なのが不思議な光景です。

ペルーは南半球でもかなり赤道に近い緯度にあるので、気候は亜熱帯系かと思うと、そうではありません。アンデス山脈と太平洋を流れる冷たいフンボルト海流の影響で地域によってかなり異なります。ぶどうの産地であるコスタでは、一年中ほとんど雨が降らず、特に夏(12月から4月)は乾燥して、厳しい暑さです。ぶどう畑の灌漑には川の水や地下水を使い、重力方式と言われる灌水法をとっています。これは高い位置にある水源の水門を開いて、下の畑の畝の間の溝に、一斉に水を流す方式です。

 

<ピスコのつくり方 Elaboración del Pisco

 

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ピスコはワインの蒸留酒です。従って、基本はぶどう栽培です。認可ぶどうは8種類。かつてはアロマティコ(芳香)とノ・アロマティコ(非芳香)に分類されていましたが、ぶどうでつくったワインを蒸留したものに各ぶどう品種固有の香りはあって当然だということから、表現を変えようとしていますが、まだ決まっていないので、以前の通り、芳香種と非芳香種で分けます。

芳香種の代表はイタリアItaliaです。これは別名モスカテル・デ・アレハンドリアという華やかな香りの白ぶどうです。他にモスカテルMoscatel(黒ぶどう)、トロンテルTorontel(白ぶどうで、トロンテス・リオハノ)、アルビーリャAlbilla(白ぶどうで、シェリーの主要品種、パロミノ・フィノ)があります。これはカイェタノ・エレディア・ペルー大学のゲノム研究室の資料によるものですが、ここまで見ても、ぶどうがスペインからもたらされたことが明らかです。

非芳香種のグループは黒ぶどうです。代表はケブランタQuebranta。他にモリャールMollar(ネグラ・モレ)、ネグラ・クリオーリャNegra Criolla(キリスト教の布教活動とともに新大陸に広まった、ミッションと呼ばれる品種)、ウビーナUvina(ジャケス)があります。ウビーナだけは産地がリマ県カニェーテ地方のルナウアナ、パカラン、スニガに決まっていますが、あとの品種は原産地呼称認定地域全体で栽培されています。

収穫は3月が最盛期です。摘まれたぶどうは除梗破砕され、フリーランジュースが採られ、のこりはプレスされます。それぞれ発酵槽に入れられ、発酵されます。

出来たワインはすぐに蒸留されます。蒸留器は単式です。二種類あって、その一つ、最も単純なのがファルカです。竈の上に大鍋が乗っていて、その鍋蓋から嘴のごとく出たカニョンという筒が、冷却水の入ったプールを通って、突き抜けて、その先端から蒸留液が出てくるというスタイル。もう一つはアランビケです。ワインの余熱タンクを備えているものと、ないものとがあります。

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ウィスキーなどの工程と同じく、蒸留液のヘッドとテイルは除きます。単式蒸留で、3848度のアルコール度に調整されます。製品のアルコール度は4142度ぐらいが一般的です。

ピスコはこれで出来上がりです。あとはレポソといって、最低3か月寝かせるだけです。その時の容器はガラスでもステンレスでもポリエチレンでもいいですが、物理化学官能的に液に変化を与えるものであってはいけないという規定があるため、樽熟は不可です。

 

<ピスコのタイプ Tipos del Pisco

 ピスコには3つのタイプがあります。プロPuro、アチョラドAcholado、モスト・ベルデMosto Verdeです。

 プロ、つまりピュアー、というのは単一品種のピスコです。従って8品種があります。一番多いのは香りが華やかなイタリアと骨太のケブランタです。いずれも見かけは全く無色透明ですが、品種による香りと風味の違いは明らかで、それが楽しめるのがプロというタイプです。

 アチョラドはブレンドです。基本は香りが豊かな品種とそうでない品種を混ぜたものです。ぶどうの段階でも、果汁の段階でも、ワインの段階でも、蒸留後でも、混ぜる時期は問いませんが、蒸留後に混ぜるケースが多いようです。一般的なのはイタリアとケブランタのブレンドですが、各ボデガがそれぞれの品種で、それぞれの配合で作っています。

 モスト・ベルデは発酵途中で蒸留したタイプです。香りがよりまろやかでフルーティですが、アルコール度がワインの半分ぐらいの状態で蒸留するので、ピスコ既定のアルコール度の液体を得るのに、果汁がプロの二倍必要とのことです。一番多いのはイタリアのモスト・ベルデで、もともと華やかな香りにまろやかさが加わって、口当たりもやさしいピスコになります。

<続く>

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