VINOBLE開催! 5月29日から31日までの3日間、シェリーの里ヘレス・デ・ラ・フロンテラで”ノーブルなワイン”(ビノ・ヘネロソと総称されるアルコール度15%以上のワインとリキュール・ワイン)の祭典、VINOBLEがカムバックしました。隔年開催のワインフェアなので本来は2020年開催のはずでしたが、コロナのパンデミアのため、1回パス。今年の開催になりました。
6月13日に主催者側が発表したデータによると、来場者は8,000人で、海外からの来場者は3%減ったものの、総数では前回の2018年より多かったとのこと。出展数は42。地元のヘレスやサンルーカルのボデガが多いのは当然ですが、各社独自のブースのほかに、原産地呼称単位や同じ趣旨のワインメーカーが集まったグループとしての出展もあり、試せるワインは大変豊富です。
会場はヘレスのアルカーサル(12世紀半ばから建造されたというアラブの城塞)です。この城壁内に18世紀に建てられたビリャビセンシオという邸宅とパティオにブースが並び、メスキータ(モスク)と、かつてオリーブオイル搾汁場だったモリーノがテイスティング・セミナーの会場に使われました。
メスキータのテイスティング・セミナー
メスキータでは毎日4つのテーマでテイスティング・セミナーが開催され、入場チケットは発売開始当日に完売したとのこと。
幸いにもシェリー&マンサニーリャ統制委員会会長セサル・サルダーニャ氏による「バイオロジカル・エイジング(生物学的熟成)の旅:生まれも育ちもサンルーカル (‘Un viaje por la crianza biológica, con origen y destino en Sanlúcar’. César Saldaña, presidente del Consejo Regulador del vino de Jerez)」に参加できました。試飲したのは次の8本(写真左から)です。
- サンルーカルの中でもバリオ・アルトと呼ばれる崖の上の地区で熟成された「ナベ・トリニダNave Trinidad(Barbadillo)」
- グアダルキビール川のビーチ際のボデガで熟成する「ソレラ・プラヤSolera Playa (Bodegas del Río)」
- 7年近く熟成したシングル・ヴィンテージの「マンサニーリャ・アニャダ2015 Manzanilla Añada 2015 (Valdespino)」
- 創設200周年記念に出荷されたマンサニーリャ・パサダ・エン・ラマ1822 Solera de Viruta (Argüeso)
- 創業225年記念にボトリングされた「ラ・ヒターナ・アニバーサリーLa Gitana Aniversario (Hidalgo La Gitana)」
- バリオ・アルトのボデガで15年熟成した「マンサニーリャ・パサダ・コンデ・デ・アルダマManzanilla Pasada Conde de Aldama (Francisco Yuste)」
- マンサニーリャ・ラ・ギータからできた熟成15年(フロールの下で8年+参加熟成7年)のアモンティリャド・エン・ラマAmontillado en Rama (La Guita)
- 熟成期間40年以上の「アモンティリャド・クオ・バディスAmontillado Quo Vadis (Delgado Zuleta)」
もう一つ参加できたテイスティング・セミナーは、シェリーを始めとするビノ・ヘネロソ界で今を時めく若手醸造家、ウィリー・ペレスWilly Pérezとラミロ・イバニェスRamiro Ibáñezによる「エル・カノンEl Canon」と題された、シェリーとモンティーリャの流れに重要な影響を与えた8名を紹介し、その功績を表現したワインのテイスティングする会です。人選の基準は、彼ら二人が考えている、土地の個性と自然の力、伝統と最新情報・技術の融合によるワイン造りの基礎を築いてきた歴史的人物ということだと理解しました。今回のVINOBLEでは、最近の大きな流れに乗ってパゴ(同一テロワールを持つ畑の区画)という単語が普通に使われていました。
- アンダルシアのブドウ品種の研究をしたシモン・ロハス・クレメンテSimón Rojas Clemente (1777-1827)
- ヘレスのパゴ・マチャルヌードをアルト(上)とバホ(下)に分け、パゴの独自性を特定したペドロ・ドメックPedro Domecq (1787 – 1839)
- さらに内陸のパゴ・カラスカルの個性を生かしたマヌエル・マリア・ゴンサレス・アンヘルManuel María González Ángel (1812 – 1887)
- サンルーカルのパゴ・ミラフローレスの特性から、海辺のワインのスタイルを確立したドミンゴ・ペレス・マリンDomingo Pérez Marín (primera mitad del XIX – 1917)
- 樽の中のワインに触れることなく保持し、その凝縮を求めたホセ・ガブリエル・アルダマ、アルダマ侯爵José Gabriel Aldama, Conde de Aldama (1851 – 1901)
- PXの繊細なワインを生み出す標高の高いモンティーリャの畑のアイデンティティを確立したフランシスコ・デ・アルベアールFrancisco de Alvear (1869 – 1959)
- 偉大なワインを生み出すためには畑が大切と、サンルーカルの全パゴを調査したマヌエル・バルバディーリョManuel Barbadillo (1891 – 1986)
- 畑やテロワールを見据え、シェリーの産地の昔の製法に則り、酒精強化せずフロールの下で熟成させた白ワイン「ナバスソ・ニーポートNavazos-Niepoort」を生み出したエドゥアルド・オヘダEduardo Ojeda
パティオのテント・ブース
屋外の主要会場であるパティオ・デ・サン・フェルナンドには、デルガド・スレタDelgado Zuleta、ルスタウLustau、フェルナンド・デ・カスティーリャFernado de Castilla、ボデガス・トラディシオンBodegas Tradición、エミリオ・イダルゴEmilio Hidalgo、ディエス・メリトDiez Mérito、オスボルネOsborneといったシェリーのメーカーが出展。それと並んで人気が高かったのが、「テリトリオ・アルバリサTerritorio Albariza」です。
「テリトリオ・アルバリサ」は、今注目されている新進ボデガのグループです。
- ボデガ・サン・フランシスコ・ハビエルBodega San Francisco Javier:O.リベラ・デル・ドゥエロでアシエンダ・モナステリオとピングスのワインを造るピーター・シセックPeter Sissekがヘレスで取り組むプロジェクト。
- ボデガス・ルイス・ペレスBodegas Luis Pérez:醸造家でカディス大学で教鞭をとったルイス・ペレス氏の息子で、前出のテイスティング・セミナーを行ったウィリーが率いるボデガ。
- ボデガス・デ・ラ・リバ Bodegas de la Riva:前出のウィリーとラミロが復活を図っている、19世紀にマヌエル・アントニオ・デ・ラ・リバが創設したボデガ。
- ホアキン・ゴメス・ベセール Joaquín Gómez Beser:ミゲル・ドメックやトレブヘナの協同組合の醸造家を務めるホアキン独自のプロジェクト。ワインはパロミノの白1本だけ。
- ボデガス・プリミティボ・コリャンテスBodegas Primitivo Collantes:チクラナに「畑と醸造熟成設備を持つボデガ。チクラナならではの個性が光る。
- サンルーカルのボデガス・コタ45 Bodegas Cota 45:ラミロ・イバニェスがサンルーカルの地を研究し尽くして造るワイン。
- ボデガス・ラ・カリェフエラ Bodegas la Callejuela:サンルーカルの郊外の畑の中にあるボデガ。畑はサンルーカルとヘレスに持つ。
- ムテャダ・レクラパルトMuchada Leclapart:ブドウ栽培はオーガニックでビオディナミ。そのほとんどが樹齢50年以上。ワイン生産工程も限りなくナチュラル。
- エル・プエルトのボデガス・フォルロングBodegas Forlong:エル・プエルト・デ・サンタ・マリアに畑を持つボデガで、辛口白ワイン核種を生産。
注)上記のうち、訪問したボデガに関しては、別途記事を掲載しますので、ご覧ください。
ビリャビシオサ邸1階
ビリャビシオサ邸では1階の入り口横のスペースを占めた、ヘレスのボデガにもかかわらずペドロ・ヒメネスだけを使ってワインを造る「ヒメネス・スピノラXiménez Spínola」が多くのファンを集めて賑わっていました。
同じく1階の広いスペースを占めたD.O.モンティーリャ・モリーレスMontilla-MorilesのコーナーにはアルベアールAlvear、ペレス・バルケロPérez Barquero、トロ・アルバラToro Albaláといった伝統ある著名なボデガや、完全オーガニックのビノ・ヘネロソを造るボデガス・ロブレスBodegas Roblesが出展。他にボデガス・ラ・アウロラBodegas La Aurora、 モリーレスにあるラガール・エル・モンテLagar El Monte、ソプラ・ポニエンテ Sopla Ponienteといった小規模なボデガもありました。
興味を引いたのはラ・イングレサLa inglesa=イギリス人女性という名前のボデガでした。
「ラ・イングレサ」の歴史は17世紀、モンティーリャにあるパゴ・デ・リオフリオという畑でワインが造られていたという記録から始まります。この地を入手したディエゴ・デ・アルベアール・イ・エスカレラが徐々に所有地を広げていき、ほぼ現在のボデガの所有地に匹敵する状態に至っています。18世紀、次世代のディエゴ・デ・アルベアール・イ・ポンセ・デ・レオンは海軍に入隊し、南米に渡ったのですが、帰国の船隊がイギリス軍に襲われ、妻子と死別し、ロンドンに囚われます。その際、知り合って再婚したのがイギリス人のルイサ・レベッカ・ワードでした。彼らはモンティーリャに戻って生涯を終えますが、その後、このイギリス人女性を偲んでパゴ・デ・リオフリオの館は、ワイン醸造所だったため、「ラガール・デ・ラ・イングレサ」と呼ばれるようになったということです。この建物は19世紀末に焼失し、3代目が建て直しました。1967年、「ラガール・デ・ラ・イングレサ」は、モリーレス・アルトに畑とボデガを持ち、ワインを熟成してきた現オーナー一族のドブラス家の手に渡ります。彼らは社名を「ラ・イングレサ」とし、モンティーリャとモリーレス・アルトの両方の地を生かし、今もワインの生産と熟成を続けています。モリーレス・アルト地区で熟成された古いワインを持っていることもあり、注目されているボデガです。
D.O.モンティーリャ・モリーレスは、アンダルシア州政府がパティオに設えた特設テントで行った州内各地のワインの紹介のプログラム中でもテイスティング・セミナーを行い、どうD.O.の名前のもとで、様々なタイプのワインが造られていることをアピールしました。
D.O.コンダド・デ・ウエルバCondado de Huelvaはスティル・ワインの白、ロゼ、赤も生産し、特にサレマという地場品種で造る白が主要な製品です。けれども伝統的にシェリーと同じタイプのワインを生産してきた地域で、これまではフィノのタイプをコンダド・パリド、オロロソのタイプをコンダド・ビエホと呼んできましたが、これからはそれぞれ、フィノ、オロロソと呼んでよいことになりました。また、この地域独特のビノ・ナランハVino Naranjaというオレンジの香りを付けたワインがあります。
日本にはまだサレマの白ワインが何種かしか入ってきていない産地ですが、出展していたボデガ「マルケス・デ・ビリャウアMarques de Villaua」や「ボデガス・スアシBodegas Suaci」には質の高い製品がありました。モンセラットとベゴニア(写真)の姉妹が運営する「ボデガス・スアシ」のビノ・ナランハ「S’Naranja」はベースのワインに遅摘みのPXとパロミノ・フィノを使っていて、ナチュラルでエレガントな風味でした。
その隣にはバレンシア州のD.O.アリカンテAlicanteがブースを出していました。アリカンテと言えばフォンディリョンFondillónです。この地の代表的な地場品種の黒ブドウ、モナストレルで造る酸化熟成タイプで、最低10年の樽熟期間が必要です。過熟ブドウの果汁を発酵させ、樽熟したもので、アルコール度も残糖量も自然のものです。ソレラの方式で複数収穫年のワインが混ざっているタイプと、単一年のものがあります。「フォンディリョン」はアリカンテでしか造られていないので、貴重なワインです。
ビリャビシオサ邸2階
ビリャビシオサ邸2階はシェリー&マンサニーリャの統制委員会が広いスペースを占めていました。ここではタイプ別に多くのボデガの製品が試せます。その奥ではワインテイスティングも行われていたので、「マンサニーリャとフィノ:フロールの膜の謎Manzanillas y Finos : La Magia del velo de Flor」に参加してみました。試飲したのはエル・プエルトのフィノ(Fino de Gutierrez Colosía)、ヘレスのフィノ・エン・ラマ(Fino en Rama de Santa Petronila)、サンルーカルの町中で熟成されたマンサニーリャ(Manzanilla de La Cigarrera)、サンルーカルの川沿いで熟成されたマンサンーリャ(Soler Fino de Bodegas del Rio)でした。熟成地の違い、ソレラの違いなど、いろいろな条件の違いによってフロールの状態が変われば、ワインの風味も変わります。
D.O.マラガもここに出展していました。マラガは一つの原産地呼称名のもとに、たくさんのタイプのワインが含まれているので、一口では語れません。今回は、現在3代目が伝統を守りつつも新しい試みにも挑戦しているという「ボデガA.ムニョス・カブレラBodega A. Muñoz Cabrera」のブースで、マラガのワインの体験コースのごとく、様々なタイプを試飲させていただきました。ラベルのデザインも斬新で、面白いボデガです。
通路を挟んで向かい側にはシェリーの有名ボデガがブースを出していました。
ハーベイHarveyのワインは現在、フンダドールFundadorというブランデーのブランド名を社名にする会社に属しています。シェリーの各タイプがそろっているのですが、ブリストル・クリームBristol Cream以外日本には入ってきていません。平均熟成期間30年以上のVORSシリーズも試させていただきました。
ウィリアムズ&ハンバートWilliams & Humbertにはウィリアムズ・ビンテージ・シリーズWilliams Colección Añadaがありました。オーガニックのフィノ2015年、フィノ2014年、パロ・コルタド2002年、アモンティリャド2001年、オロロソ2001年、オロロソ2009年はいずれもエン・ラマです。
ティオ・ペペの会社ゴンサレス・ビアスはブドウ品種違いのフィノを発表しました。パゴ・デ・カラスカルPago de Carrascalのパロミノ・フィノPalomino Finoで造るフィノ、同じくパゴ・カラスカルのペドロ・ヒメネスPedro Ximénezで造るフィノ、チピオナのいくつかのパゴPagos de Chipionaで栽培したモスカテルMoscatelで造るフィノの3種です。いずれも原産地呼称統制法の仕様書に記載される認可品種ですが、パロミノ以外は通常甘口用にしか使われてきませんでした。それを辛口のフィノにしたのです。ありそうでなかった面白い試みです。
他にも興味深いワインがたくさんありました。VINOBLEはいつも新しい発見があるので、外せません。次は2年後です。