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FENAVIN 2022

5月10~12日の3日間、カスティーリャ・ラ・マンチャ州のシウダ・レアル市でスペインの国産ワイン展 Feria Nacional del Vino = FENAVINが開催されました。隔年開催なので本来は昨年のはずだったのが、コロナのパンデミックのため一年延期されていました。

スペインでもコロナの影響は大きく、全国規模のワイン展としては、昨年11月22~22日にワイン・ガイドブックの「ギア・ペニン」が、点数の高いワインだけを集めて行う「第21回スペイン最高のワインの試飲会XXI Salón de los Mejores Vinos de España」が参加ボデガ350社を集めて開かれていますが、それも2年ぶりでした。バルセロナで開催されてきた食品展「アイメンタリア」からワイン部門だけが独立してできた「バルセロナ・ワイン・ウィーク=BWW」は4月4~6日に開催され、650社が出展し、入場者18,000人を集めています。

こうしてワイン展の賑わいが復活し始めたなか、FENAVINでも「やっぱり顔を見て話さないと」「これを待っていたんだ」と、直接会って話ができるのがうれしくてたまらないという雰囲気があふれていました。スペインでは公共交通機関や医療関係の場所以外はマスク不要なので、会場でマスクをする機会はほとんどありませんでした。しかもワインの試飲をしながらの話は盛り上がり、とどまるところを知りません。もちろんマスクなしで、ハグもキスも普通にしていました。もうCOVID(スペイン人はコロナでなくコビットを多く使うようです。)はインフルエンザのようなもの、と言われています。幸い、日本入国に際してのPCR検査も陰性で、無事帰国できました。

FENAVINは「国産ワイン展」というだけあって、スペイン中からワインが集合。スペイン本土はもちろんのこと、カナリア諸島やバレアレス諸島各所から、各ボデガ単位のブース、原産地呼称統制委員会のブース、自治州単位のブースといった形での出展がありました。

会場はパビリオンが1から8まで。出展ワインがタイプ別に試飲でき、気に入ったワインが見つかれば、そのブースを訪れることか出来るように考えられた「ワインギャラリー」も例年のように設定されていました。

 

セミナー

セミナーは、1)文化とワイン、2)テイスティングとハーモニー、3)対外プロモーションと経済、4)ワイン、健康、社会、5)経営に関する提案、6)技術・制度関係という幅広いテーマで、各界の専門家や代表者によるプレゼンテーションが多数行われました。

今回は地場品種をテーマにした2つのテイスティング・セミナーに参加しました。

1.MWのペドロ・バリェステロスPedro Ballesteros氏による「スペインのモナストレルの領域Teritorio Monastrell España」

スペインの黒ブドウ品種モナストレルを主要品種とする原産地呼称アリカンテ、アルマンサ、ブーリャス、フミーリャ、バレンシア、イェクラが、この品種とそのワインの市場での競争力を強めるために作ったスペイン・モナストレル協会の主催で、10のワインを試飲しました。

その資料によると、モナストレルはスペインで6番目に栽培面積の広いブドウ品種で、黒ブドウ品種としては4番目。その80%がこの地域で栽培されているとのことです。

 

 

2.ボバルを地場品種として売り出そうとしている3つの原産地呼称統制委員会による「リベラ・デル・フーカル、マンチュエラ、ウティエル・レケーナのボバル:現在と未来La Bobal en Ribera del Júcar, Manchuela y Utie-Requena : vinos del presente y del futuro」

この3つのDOが共同でその主要黒ブドウ品種、ボバルのプロモーションを行うことに合意したのが2019年で、前回のFENAVINでプレゼンテーションをしました。ボバルはテンプラニーリョに次いで栽培面積の広いスペインの黒ブドウ品種で、そのほとんどがこの3つの地域で栽培されています。

今回は各産地から2本ずつのサンプルが試飲されました。

*DOウティエル・レケーナの日本語版WEBサイトhttps://www.vinos-utiel-requena-jp.com/ もご参照ください。

 

原産地呼称統制委員会のブース

他には、まだあまり表に出てきていない原産地呼称のブースを訪れてみました。

1.DOカンガスCangas

1.シードラで有名なアストリアスAsturias州にあるワイン産地です。それだけに「アストリアスでワインなんか造っているの?」という疑問の方が先に出てきてしまいそうな地域です。かなり前、まだスペインワインが現在のようにエレガントなスタイルになる前、「アストゥリアスでワイン造っている!」と言われ、ワインフェアで試したことがあります。当時は色も薄く、風味も、ボディもすべて軽めというイメージがありました。そのため今回は現在のカンガスを試しに行ってみました。

カンガスはカスティーリャ・イ・レオンとガリシアに接する、スペイン北西部内陸の山奥にあります。リベイラ・サクラとプリオラトと共に、急傾斜地にブドウ畑が作られている地として挙げられる所です。ブドウ栽培農家は53軒、ボデガ9軒の小さなDOです。推奨品種は白ブドウがアルバリン・ブランコAlbarín Blanco、黒品種がカラスキンCarrasquín、アルバリン・ネグロAlbarín Negro、メンシアMencía、ベルデホ・ネグロVerdejo Negro。いずれも他の地域ではあまり栽培されていない地場品種です。今のカンガスは以前とは全く違う、モダンなワインに変身していました。野のベリーのような素朴さを残した、線の細さは地域的な個性でしょう。丁寧に迎えてくださった統制委員会会長のホセ・マリア・マルティネスJose Ma Martinez Parrondo 氏、ありがとうございました。

 

2.DOアルランサArlanza

カスティーリャ・イ・レオンCastilla y León州の北部、リベラ・デル・ドゥエロRibera del Dueroの北に位置するDOです。名前の由来はこの地域を横切って流れるアルランサ川にあり、標高が800~1000m地帯の内陸の産地です。使用する品種は白がアルビーリョ・レアルAlbillo Mayor、黒の推奨品種はティンタ・デル・パイスTinta del País=テンプラニーリョTempranilloというところは、DOリベラ・デル・ドゥエロと同じです。ただ、こちらは認定品種が少し違って、カベルネ・ソーヴィニョン、ガルナチャ・ティンタ、メンシア、メルロー、プティ・ヴェルドが含まれています。

写真の白は「ネロス・ブランコNereos Blanco」。アルビーリョとビウラが主ですが、畑が古いため、その他の黒ブドウ品種も交じっているとのこと。赤の「グラン・レルマGran LermaレセルバReserva」は古木のテンプラニーリョ100%でヴィーガンです。今やエコロヒコecológicoつまりオーガニックはごく普通で、ビオディナミbiodinámicoも珍しくなく、ヴィーガンveganoも増えてきていました。

3.DOアリベスArribes

スペインとポルトガルの国境線になっているドゥエロ川に沿ってリボンのようなひらひらと細長い形をしたDOです。この地域は2016年秋に一度訪問しています。その記事は11月22日に「アリベスのアバデンゴ Abadengo de Arribes」として、サイトにアップしてありますのでご参照ください。

https://www.vinoakehi.com/2016/11/abadengo_de_arribes.html

今回は原産地呼称統制委員会の技術部長カルロス・カピーリャ・バレダCarlos Capilla Barreda氏が、すごい勢いで次から次へとボトルを並べて試飲させてくださいました。

この地域も独特の地場品種を持っています。黒ブドウのほうがメインで、フアン・ガルシアJuan García、ルフェテRufete、ブルニャルBruñalが地元を代表する品種です、他にテンプラニーリョ、メンシア、シラー、ガルナチャも認定されていて、シラー以外はスペイン品種です。白ブドウではマルバシア・カステリャナMaivasía Castellana、ベルデホVerdejo、アルビーリョがあります。とはいえ売り出し中なのは地場品種。若いタイプから熟成タイプまで、各ボデガがそれぞれのコンセプトで造ったワインの数々は、どれもそれなりの個性を持っています。写真はブルニャル100%の3本。いずれも古木を使ったもので、特に中央の「インペリオImperio」は樹齢120年以上の樹を使っています。

他にも、首都マドリッドに近い産地DOウクレス Uclés、最近グレドス山脈のガルナチャで知られるようになったDOビノス・デ・マドリッドVinos de Madrid、独特の参加熟成タイプのワイン、フォンディリョンFondillónの産地、DOアリカンテAlicanteといった地域からも新しいボデガが出展していて、興味深いワインがありました。

 

グループや個別の出展

またグループ出展という形態も増えたようです。グランデス・パゴス・デ・エスパーニャGrandes Pagos de Españaは現在35社が会員になっています。ここでは創始者の一人、マルケス・デ・グリニョンMarqués de Griñónのボデガを始めとするビノ・デ・パゴVino de Pago認定ボデガも出展しているし、マス・ドイシュMas Doixといったプリオラトの有名なボデガのワインも試飲できました。また、「ボデガス・リバスBodegas Ribas」というマヨルカ島のボデガはハンフリー・ボガードの台詞「Desconfío de la gente que no bebe(飲まない人たちは信用できない)」を名前にした、地場品種マント・ネグロManto Negro100%のワインや、素晴らしいロゼを出展していました。シェリーのボデガはバルデスピノValdespinoが一社入っています。

 マヨルカ島からはDOプラ・イ・リェバントPla i Llevantの「ミケル・オリバールMiquel Oliver」というボデガが出展していました。ここはフランス品種も取り入れていますが、地場品種に力を入れていて、黒ブドウではカリェットCallet、マント・ネグロManto Negro、フォゴネウFogineu、白ではジロGiróとプレンサルPrensalを使ったワインを造っています。DOビニサレムも出展していました。

 

シェリーとマンサニーリャの産地、サンルーカル・デ・バラメダで、テロワールにこだわって畑ごとに異なったスティル・ワインのシリーズ「UBE」などを造るラミロ・イバニェスRamiro Ibañez氏のボデガ「コタ45  Cota 45」はテロワールにこだわったワイン造りをするボデガのグループに入っていました。

その仲間の一人は、マルク・イサルトMarc Isart氏。最初に会ったときは「ベルナベレバBernabeleva」、次は「コマンドG Comando G」、そして今度は「ブドウ栽培人マルク・イサルクMarc Isart Viticultor」という独自のプロジェクトを立ち上げて,ワインを造っていました。そのブランドは「ラ・マルディシオンLa Maldición」。DOビノス・デ・マドリッドの東端にあるアルガンダというサブゾーンで、その地場品種であるマルバールMalvar100%の白があります。

 

シェリーの産地からはサンルーカルのボデガ「カリェフエラCallejuera」のホセ・ブランコ・ロメロJosé Blanco Romero氏が、畑違いのシングルビンテージのマンサニーリャや、酒精強化なしでフロールの下で熟成した白ワインなどを試飲させてくださいました。

同じくサンルーカルで「ボデガス・ユステBodegas Yuste」と「アルグエソArgüeso」を率いるガブリエル・ラヤGabriel A. Raya氏と、醸造家のミゲル・ビリャMiguel Villa氏は「コンデ・デ・アルダマConde de Aldama」ブランドのマンサニーリャ・パサダ・エン・ラマのマグナムボトル(年間500本限定出荷)とオールド・シェリーで迎えてくれました。

シェリーの統制法の仕様書改訂が承認されれば自社ブランドをシェリーとして初米出来るようになるチクラナの町のボデガ「プリミティボ・コリャンテスBodegas Primitivo Collantes」のワインは、土地柄の違いのせいか、ヘレス、サンルーカル、エル・プエルト、いずれとも違った個性が感じられるワインでした。

 

今回のFENAVINではスペイン全国各地に地場品種を生かした独自性のあるワイン造りをする生産者が数多くいることを改めて感じることができました。いずれも高い品質の製品ですので、もっと多くのワイン愛好家の方々に知っていただけると嬉しいです。

次は5月29~31日にヘレス・デ・ラ・フロンテラで開催される、酒精強化ワインと甘口ワインの試飲会「ビノブレVINOBLE」のレポートです。

 

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