BLOG

シェリー・アカデミー研修ツアー2026 (1) Sherry Academy 2026 I

2001年から、コロナの時期を除いて、毎年実施してきた「シェリー・アカデミー研修ツアー」の2026年版のご報告です。ツアー全体は1月17日(土)らか25日(日)の9日間の日程で、アカデミーのプログラムは5日(月)から23日(金)までの平日5か間でした。

 シェリーは現在過渡期にあります。2022年秋までのシェリーは生産地域と熟成出荷地域が限定され、使用できるぶどう品種はパロミノ、モスカテル、ペドロ・ヒメネスの白ブドウ3種類で、アルコール度15%~22%までの酒精強化ワインでした。

シェリー・アカデミーの企画は昨年から、シェリーの仕様の変更を念頭に、新しいシェリーの世界を感じていただけるプログラム構成に進化しています。

まずツアーの訪問地です。これまでシェリーの生産地は9都市で構成されていました。けれども熟成出荷地はシェリー三角地帯=シェリー・トライアングルの3つの頂点に当たるヘレス・デ・ラ・フロンテラJerez de la Frontera、エル・プエルト・デ・サンタ・マリアEl Puerto de Santa María、サンルーカル・デ・バラメダSanlúcar de Barramedaの3都市で、あとの6都市はブドウを栽培し、発酵させ、酒精強化し、熟成しても、製品として発売する権利はなく、出荷権利を持つ主要3都市のメーカーに売るしかありませんでした。それが変更され、これら6都市でも最後まで熟成し、ボトリングして出荷できることになりました。それがレブリハLeburija、トレブヘナTrebujena、チピオナChipiona、ロタRota、プエルト・レアルPuerto Reala、チクラナ・デ・ラ・フロンテラChiclana de la Fronteraです。これに加えてサン・ホセ・デル・バーリェSan José del Valleという、1995年にヘレスから独立した町も生産地域に含まれたため、現在、熟成出荷認定都市は10都市です。

というわけで、これまでは3都市にあるボデガや畑を訪問していましたが、認定地全体をより広く知っていただきたく、昨年から新しい熟成認定地もルートに入れています。

そして今年は登録出荷業者がないプエルト・レアルとサン・ホセ・デル・バーリェ以外の8都市を巡りました。

 

1日目 1月19日(月)

統制委員会でのセミナー

初日は原産地呼称ヘレス・ケレス・シェリー、マンサニーリャ・サンルーカル・デ・バラメダ&シェリー・ビネガー統制委員会Consejo Regulador de las Denominaciones de Origen Jerez-Xérès-Sherry, Manzanilla-Sanlúcar de Barrameda y Vinagre de Jerezで訪問プログラム開始前のシェリー情報整理といった形のセミナーを受けます。今年の講師はFEDEJEREZ=Federación Española de Empresas Vitivinícolas y Bebidas Espirituosas del Marco de Jerez  https://fedejerez.com/ (ヘレス地域ブドウ栽培ワイン生産および蒸留酒スペイン連盟)というシェリー、ブランデー、シェリー・ビネガーの生産会社で構成される連盟の事務局長・執行役員のパトリシア・デ・ラ・プエルタPatricia de la Puertaさんです。いつもは会議室を使うのですが、今年はゴージャスな役員会議室、4年毎の会長・役員改選や、重要事項の決定が行われる所でのセミナーでした。

記念に、いろいろな場面で登場する、階段の踊り場にある収穫の絵柄のステンドグラスの前で写真を撮りました。

 

ゴンサレス・ビアス González Byass

 最初の訪問は外してならないティオ・ペペTio Pepeのメーカー、ゴンサレス・ビアス社です。ヘレスの町の中心であるアレナル広場のすぐ近く、カテドラルの横、アルカサル(アラブの城塞)の前にあります。この日は晴天で、空にはティオ・ペペの風見鶏がくっきり見えました。

1835年、若いマヌエル・マリア・ゴサンレス・アンヘルManuel María González Ángelが創業し、叔父のホセ・マリア・アンヘル・イ・バルガスJosé MaríaÁngel y Vargas=ペペ叔父さん=ティオ・ペペのアドバイスを受けながらワイン・ビジネスを拡大していくサクセス・ストーリー。ビアスは1855年、マヌエル・マリアが英国市場の市場拡大のため共同経営者として組んだロバート・ブレイク・バイアスRobert Blake ByassのByassのスペイン語読みです。1988年にゴンサレス・ビアス社はバイアス家の株を全部買い上げますが、長年の功績を称えて名称は残しました。

  ここには1862年、イサベルII女王の訪問に合わせ、エッフェル塔のエッフェルのデザインで建てられたコンチャ(concha貝殻の意味)という名のボデガ(熟成庫)があったり、日本の現天皇陛下が1992年、セビーリャ万博の際に訪問された時のサインのある樽があったり、見どころ満載です。そしてテイスティングはもちろん樽からベネンシアで注いだフィノからスタート。この日はゴンサレス・ビアス社の顔ともいえる醸造家のアントニオ・フローレスさんのお嬢さん、シルビアさんが案内してくださいました。

お昼はヘレスの市庁舎前の広場にある「クルス・ブランカ」というレストランで、「ティオ・ペペ」で乾杯!肉料理に合わせてオロロソ「アルフォンソAlfonso」も。

 

ファウスティノ・ゴンサレスFautino González

   初日の午後はこれもヘレスの町の中心部にあるボデガ、ファウスティノ・ゴンサレス社です。朝も通ったアレナル広場から反対方向に細い通りを斜めに入ると突き当りがサン・ミゲル教会。その正面から右手の細い通りを少し下ったところにあります。細い鎖を引っ張って鐘を鳴らして、入り口の扉を開けてもらいます。すると、そこはもう樽熟庫。奥にはパティオが見えます。街中の小さなボデガですが、完全自社製です。ヘレス・スペリオール(上質アルバリサ土壌認定地区)にあるモンテアレグレMontealegreというパゴに7haの自社畑を持ち、100%その収穫で、樽発酵して造るシェリーはまさにビノ・デ・パゴ(VP=スペイン・ワインの原産地呼称法のトップに立つカテゴリー)に匹敵するのですが、そんなことはお構いなさそう。手間暇かけて大切にワインを造っています。

  ボデガは1972年、現オーナー・ファミリー代表のファウスティノ・ゴンサレスさんの父親、ファウスティノ・ゴンサレス・アパリシオさんが、ヘレスの城塞にあった1789年設定のソレラを買ったことから始ります。それらの樽を奥様のカルメン・ガルシア・ミエルさん所有のボデガに収納し、以来ずっと息子たちの世代が引き継いでワインを熟成しています。ここでもまずは樽からフィノを試飲させていただき、ベネンシアもさせていただき、その後、パティオで、製品としてボトリングされているワインもいただきました。

「クルス・ビエハCruz Vieja」ブランドにはフィノ、アモンティリャド、パロ・コルタド、オロロソ、ペドロ・ヒメネスそしてオロロソ・ムイ・ビエホ(とても古いオロロソ)があり、全てエン・ラマ(異物混入を避ける程度の濾過だけ)です。

最後に参加者全員、樽にいサインをさせていただきました。

 

2日目 1月20日(火)

統制委員会で試飲

 この日もスタートは統制委員会です。プロモーション・ディレクーのカルメン・アウメスケットCarmen Aumesquetさんによるテイスティングです。使用するサンプルは統制委員会が選んだ「各タイプの特徴を最も端的に表現しているワイン」です。フィノ、マンサニーリャ、アモンティリャド、オロロソ、クリーム、ペドロ・ヒメネスの6タイプを試しました。この味を基本として、各メーカーのシェリーを試すと、個性の違いが分かりやすいかと思います。

  試飲の後は統制委員会にあるボデガ「サン・ヒネスSan Ginés」を見学。熟成出荷業者として登録しているボデガの名前と紋章入りの樽や、フェリア・デル・カバーリョ(馬祭り)のテーマ国の紋章を付けた樽が積まれています。もちろん日本の樽(なぜか桐の紋章)もあります。

「サン・ヒネス」はワイン関係者の守護神で、2024年、私は原産地呼称統制委員会と共にシェリーのプロモーションに25年以上携わってきた功績を認められ、「サン・ヒネスの鍵」をいただきました。https://www.sherry.wine/es/yoshiko-akehi-representante-de-los-vinos-de-jerez-en-jap%C3%B3n-recibe-la-llave-de-san-gin%C3%A9s-como-reconocimiento-a-m%C3%A1s-de-25-a%C3%B1os-de-colaboraci%C3%B3n-con-el-consejo-regulador

 

カトリコ・アグリコラCatólico Agrícola

この日はチピオナへ向かいます。ヘレスの西北西、海辺の町で、スペインで一番高い灯台があります。

チピオナと言えばモスカテル。海辺に近いので畑の土壌が砂質です。そこで栽培されるブドウがモスカテル=マスカット。モスカテル・デ・アレハンドリアです。独特の香りと甘みを持った個性的なブドウで、シェリーの統制法には極甘口ワインのグループ、ビノ・ドゥルセ・ナトゥラルでペドロ・ヒメネスと並んで登場する品種です。特徴的なのが収穫したブドウをアソレオasoleoと呼ばれる天日干しをすることです。チピオナは海岸地帯で、砂質土壌なので、ブドウも畑の砂の上で干します。収穫したブドウは手作業で砂の上に並べられ、やはり手作業でひっくり返して両面から水分を蒸発させ、干しブドウ状にします。これを絞って取れた果汁を必要な残糖度に至るまで発酵させ、アルコールを添加して発酵を止めて、クリアデラとソレラの樽熟システムに入れて熟成したものがモスカテル、もしくはモスカテル・デ・パサ(干しブドウのモスカテルの意味)と呼ばれるごく甘口のワインです。

  今回はチピオナのカトリコ・アグリコラを訪問。1922年、86軒のブドウ栽培農家が集まって発足した組織で、正式名は協同組合カトリコ・アグリコラBodega Cooperativa Católico Agrícola de Chipionaといいます。

まずはモスカテル・ミュージアム見学です。その入り口にある畑のサンプル、とはいえ本当に植えてあるモスカテルとパロミノの畑、その奥のかつてブドウ栽培者たちが暮らしていた小屋、熟成樽を入れる小さなボデガを見学してから、モスカテルやチピオナの歴史をビデオで見るというコースです。

  締めくくりは試飲です。お勧めは新製品のフリッツァンテ・ノア・ノアFrizzante Noa Noa。チクラナのモスカテル100%の軽やかでソフトな甘さのかわいいワインですが、ここでは本命の伝統的なモスカテルに注目。モスカテルにはドラドとオスクロとデ・パサスがあります。ドラド=金色は明るい琥珀色です。オスクロは暗いという意味で、ワインも文字通りドラドと比べると濃く、マホガニー色をしています。これはブドウ果汁を煮詰めて作る真っ黒な液体アロペを加えてあるからです。最後のデ・パサスは天日干ししたブドウをから造るごく甘口です。残糖160ℊ/ℓ以上ですが、モスカテル独特の酸味もあり、快く飲めるワインです。カトリコ・アグリコラのモスカテルのブランドは「ロス・マドゥロニャネスLos Madroñales」。マドローニョという果物の畑という意味です。

 

エル・ガト El Gato

午後は南へ向かってロタへ移動。ここには認定熟成出荷業者が1軒しかありません。統制委員会のリストにあるメールアドレスにメッセージを送ってみたところ、即、お返事が来ました。メールアドレスから推測して“ラウラLauraさんですか?”と問い合わせたところ、すぐに“はい”というお返事が来て、その流れのまま、あっという間に訪問が決まったという珍しいケースです。

 ここは生産者ですが、ボデガの隣がバル兼ショップになっていて、いわゆる角打ち形式で、ご近所の住民が量り売りのワインを買いに来ていました。

「エル・ガト=猫」の由来は、1957年、このボデガを創設したお祖父さんフアン・マルティネス・マルティン・ニニョJuan Martínez Martín-Niñoさんがいつも猫を連れていて、“エル・ガトEl Gato”と呼ばれていたからとのこと。今もファミリーで運営しています。

ボデガは町の真ん中にあるため、発酵槽から貯蔵槽、熟成樽までびっしり詰め込まれていて、時代の変遷を反映する様々なタイプの貯蔵槽があちこちに見られるのが他のボデガにはない面白さと言えるでしょう。

 ここではシェリーの基本的なタイプであるフィノとオロロソの他モスカテル、ペドロ・ヒメネス、クリームを作っていますが、ロタならではのワインがあります。黒ブドウ品種のワインなのでシェリーではありませんが、今VT(ビノ・デ・ラ・ティエラ・デ)カディスカで注目されている、ティンティーリャ・デ・ロタTintilla de Rotaの伝統的な甘口ワインです。

「エル・ガト」はこのワイン造りを維持してきた数少ないボデガの一つです。黒ぶどう品種ティンティーリャ・デ・ロタはその名の通り、ロタで発見(というより密かに生き残ってきた)されたアンダルシアも西部、カディス県の地場品種です。18~19世紀には甘口ワインとして大変人気がありヨーロッパ各国やアメリカにまで輸出されていましたが、そのうち人気が薄れ、忘れさられてしまっていました。けれどもエル・ガトでは伝統的な甘口ティンティーリャを造り続けてきました。それが「ティンティーリャ・デ・ロタJ.マルティネスTintilla de Rota J. Martínez」です。果汁の発酵を酒精強化で止めて甘みを残し、深い色を付けるためアロペを加えてあります。

なおティンティーリャ・デ・ロタはグラシアノと同じ品種だといわれるので、ヘレスにあるアンダルシア州政府の農水産業調査教育研究所(IFAPA)・農水産業水資源地域開発省(仮訳)ランチョ・デ・ラ・メルセRancho de la Mercedの主任研究者ベレン・プエルタス・ガルシアBelén Puertas Garcíaさんにうかがったところ、共通点はたくさんありますが、相違点もあり、私たちは別品種と判断していますとの見解でした。

続く

関連記事

PAGE TOP