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シェリー・アカデミー研修ツアー2026 (2) Sherry Academy 2026 II

3日目 1月21日(水)

ボデガス・アルコンBodegas Halcón

3日目の最初はレブリハです。ヘレスから北北東方向に向います。生産認定10都市のうち唯一カディス県ではなくセビーリャ県に属する町です。町の北をグアダルキビール川が西へ向かって流れています。

この町もロタと同じく、熟成出荷業者として認定されているボデガは1軒。「ボデガス・アルコン」だけです。町の中で一番目立つ教会の塔を目指して坂を上っていくと、石造りの階段に沿った真っ赤な塀。その突き当りの右がボデガの入り口です。一歩入ると、美しい緑と花に囲まれたアンダルシアのパティオ。ここは18世紀に建てられた貴族の館です。案内して下さったオーナーのマルガリータMargaritaさんももちろん貴族ですので、雰囲気がそれらしく、おっとりしていらっしゃいます。

このボデガの歴史は昨年のシェリー・アカデミーの訪問記でご紹介していますが、手短にいうと、1711年からあった「ボデガス・マルケス・デ・サン・ヒルBodegas Marqués de San Gil」を1911年、現在のオーナーのマルガリータMargarita Halcón Álvarezさんの祖父であるサン・ヒル侯爵が引き継ぎ、2016年、マルガリータさんが継承し、名前も「ボデガス・アルコン」に変えたものです。

長い歴史が染みついた建物の中で熟成されるシェリーはまた格別です。サクリスティアの長期熟成ワインも飲ませていただきました。

ホームページを見ると一番お手頃なフィノ、「マルケスMarqués(侯爵)」は10€。他にオロロソ、アモンティリャド、ペドロ・ヒメネス、パロ・コルタドなども手の届く範囲のお値段です。けれども長期熟成タイプのシリーズ「ヒラルディーリャGiraldilla」 は1本100€。パロ・コルタド、オロロソ、アモンティリャドがあります。それって、私たちがサクリスティアで樽から出していただいて試したワインでしょうか。多分そうですね。

ボデガ犬perro bodegueroと呼ばれる小型犬がマルガリータさんにじゃれついていたりするのが長閑かつ優雅なボデガです。ワインも深みがありながら優しい口当たりです。

 

協同組合ビルヘン・デ・パロマレスCoop. Virgen de Palomares

次はトレブヘナです。レブリハからグアダルキビール川に沿ってサンルーカル方向、つまり南西に向います。位置的にはヘレスのほぼ真北にあります。

 ここではトレブヘナで2番目に大きい、1957年創設の協同組合、ビルヘン・デ・パロマレスを訪問します。会長のホセ・マヌエル・サンチェスJosé Manuel Sánchezさんは、醸造家でもあります。事前に何に興味があるのかという質問状をいただいたので、興味のある点をびっしりリストアップしてお送りしてあったところ、このところ雨が多く畑には入れないまでも、畑の間を車で走って、ポイントを押さえた説明をしてくださいました。

ブドウ栽培面積でいうと、トレブヘナは、圧倒的に広いヘレス、2位のサンルーカルに次いで3番目に広い面積を持っています。けれどもごく小規模な栽培農家が多く、大手のボデガが多いヘレスは1軒の農家の平均栽培面積が11.12haあるのに対し、トレブヘナはわずかに0.79haで、これは全10都市中最小です。(資料:統制委員会2024年活動報告)

協同組合はこうした小さなブドウ栽培者の力を結集してきたので、気候変動に対応する処置も融通が利くような気がします。古木はかなりの干ばつでも生き伸びられるとのこと。仕立ての異なる古い畑は迫力が違いました。

ここではまずタンクから出来立てのワインを飲ませていただき、続いて樽からも試飲させていただきました。出来立ての、まだフルーティなワインと樽に入ったワインは明らかに違いが分かります。

ウェブサイトによると、モスト(酒精強化前のワイン)もボトリングして販売しているようです。トレブヘナは熟成出荷地域として認められる前、樽熟システムに入れる前の状態のワインを大手のボデガに提供するのがビジネスだったので、長年有名ブランドのもとのワインを生産して来ています。基本であるモストが美味しいのは当然かもしれません。普通量り売りが多いモストをボトリングするのはいいアイデアだと思います。

 

アルバロ・ドメック Álvaro Domecq

この日の午後は3軒目の訪問があります。ヘレスの駅の近くにある「アルバロ・ドメック」です。

ドメックという名前を知らないヘレス人はいないと思います。統制委員会がある通りもアルバロ・ドメック通り、ヘレスの町の中心にある時計台もドメック家の寄贈によるもので文字盤がペドロ・ドメックPedro Domecqになっています。

もとのドメック社は創設1730年を謳う歴史あるシェリーの大手メーカーでした。ただ1730年にヘレスでそのもとになるワイン・ビジネスを始めたのはアイルランド出身のパトリック・マーフィーPatrick Murphy Woodlockです。彼は、亡くなった1764に、同じくヘレスでワイン・ビジネスをしていたフランス人のジャン・オーリー(以下フランス語発音は定かではありません)Jean Haurie Neboutに跡を頼みます。オーリーはビジネスの規模を拡大し、5人の甥に跡を託し亡くなります。1808年、ナポレオン戦争中にイベリア半島でスペイン軍、ポルトガル軍、イギリス軍の連合軍とフランス軍との戦いが起こり、オーリーはナポレオン軍にワインを提供します。けれどもフランス軍は負け、支払いを踏み倒して去ってしまいます。負債を負ったオーリー家を助けたのが、ロンドンでワイン商をしていたペドロ・ドメックPedro Domecq Lembeyeでした。ジャン・オーリーの5人の甥たちの一人ペドロ・ランベイェPedro Lembeye Haurieの甥に当たります。彼が倒産状態だったオーリーのビジネスを引き受け、1822年、社名をペドロ・ドメックとし、さらに事業を拡大していきました。けれども1994年、アライド・ライオンズAllied Lyonsがペドロ・ドメック社を買収。ここでドメック家はワイン・ビジネスを手放すことになりました。会社は後にビーム・サントリーとなり、2016年からはエンペラドールGrupo Emperadorがオーナー会社になりヘレスのボデガは「フンダドールBodegas Fundador(創設者)」という名のブランデー主体のメーカーになり、シェリーは、長年シェリーのベストセラーであり続けるブリストル・クリームBristol Creamを持つハーベイズHarveys・ブランドを扱っています。

ということで、ワイン・ビジネスを手離したドメック家が再出発したのが現在の「アルバロ・ドメック」です。そのため、ホームページの「歴史」は、現在のボデガの歴史になっています。

1850年ピラール・アランダPilar Arandaという女性が創設したボデガで、彼女はヘレス地域Marco de Jerez初の女性のボデガ経営者でした。90年代にはエミリオ・ルスタウ社がアルマセニスタのシリーズの一つとしてそのワインを商品化していました。1998年、このボデガを買ったのがアルバロ・ドメックÁlvaro Domecq Romeroです。レホネアドールrejoneadorといって、馬に乗って牛と闘う闘牛士として大変有名な方でもあります。

製品はいずれも熟成期間が長く「コレクシオン・アルバロ・ドメック」シリーズのフィノ「ラ・ハンダLa Janda」は8年熟成です。長期熟成シリーズ「コレクシオンColección 1730」に含まれるフィノ・エン・ラマは10年熟成です。

 

この後、ヘレスでは珍しい、暴風雨と言っていいくらいの凄い雨風に襲われました。異常気象の影響は身近に迫ってきています。

4日目 1月22日(木)

プリミティボ・コリャンテスPrimitivo Collantes

4日目の朝、チクラナへ向かいます。位置的にはヘレスのほぼ真南で、シェリーの認定地域の一番南にあります。サンルーカル、チピオン、ロタ、エル・プエルトのように直接海に面してはいません、けれどもここは特別な条件があります。マリスマmarismaです。辞書に海の近くの沼地と書いてあるとおり、まさに海抜ゼロメートル地帯で、海と陸の境目にあるのがはっきり目で見られます。多くの野鳥がやってくる場としても知られています。このマリスマのわきにあるのがチクラナの町です。

プリミティボ・コリャンテスはボデガ名ですが、オーナーの名前でもあります。起源は150年ほど前、スペイン北部バスク地方のサンタンデールからチクラナにやってきたプリミティボとトマスのコリャンテス兄弟が始めたワイン・ビジネスにあります。兄弟は徐々に規模を拡大し、1946年には会社組織にしています。それが代々受け継がれてきて、現在のプリミティボさんに至っています。長男が父親の名前を受け継いでいく例はスペインにはよくあります。

プリミティボさんはアルバリサ土壌の各畑の個性を表現したワイン造りをしています。雨のため状態が悪く、2か所にある畑には行けませんでしたが、この日はマタリアンMataliánという畑の収穫で作られたワインを試飲しました。

 まずはパロミノ品種100%の辛口白ワイン3種です。「ビニャ・マタリアンViña Matalián」はフレッシュでフルーティな若いタイプ。「サカイレSacaire 2023」は24か月フロールなしで熟成。「サカイレSacaire Oxidativo 2019」は古木のパロミノをもともとフィノが入っていたアメリカンオーク樽で自然発酵させ、60か月フロールなしで熟成させたものです。

「ティボTIVO 2020」は特別なワインです。品種がウバ・レイUva Rey別名マントゥオMantúaもしくはチェルバChelvaといい、シェリーの仕様書改訂により使用認可品種にはなっているものの、まだ極々わずかしか栽培されていません。それをプリミティボ・コリャンテスはマタリアン畑に植え、少量とはいえ、ワインを生産できるまでに至っています。熟すのが大変遅く、収量が少ない貴重品です。このワインも樽発酵でフロールなしで熟成しています。

最後は「パルマ・コルタドPalma Cortado 2019」です。フィノがアモンティリャドへの道を辿り始めた状態と言ったらいいでしょうか。2019年は天候がよく、ブドウの糖度が上がったため酒精強化なしで、フロールの膜のもとで熟成し始めましたが、徐々にフロールが消え、自然に酸化が始まったものです。

酒精強化しない、フロールを発生させるかさせないかは、その時のワインの状態によるといった、まさに今のシェリー産地の新しいトレンドの先端を行くボデガです。貴重な体験をさせていただきました。

 ここではモスカテルも造っています。通常のモスカテルはモスカテル・デ・アレハンドリアを使いますが、ここは違います。モスカテル・デ・グラノ・メヌド Moscatel de Grano Menudoです。これもマタリアン畑に植えてあるそうです。雨の降らない時期にぜひ、畑を訪れてみたいですね。

 

これまでシェリーの仕様認可品種はパロミノ、ペドロ・ヒメネス、モスカテルの白ブドウ3種と言われてきましたが、2022年10月のシェリーの仕様書改定によって使用認可品種が増えただけでなく、表現が変わりました。パロミノ、リスタン・ブランコまたはパロミノ・フィノ、ペドロ・ヒメネス、モスカテル・デ・アレハンドリア、ベバ、ペルーノ、ビヒリエガです。ただ、統制委員会の総会ではマントゥオ・デ・ピラス(ウバ・レイ)も認可品種に含まれていたのですが、なぜか見落とされてしまったとか。次の発表では認可品種に入るとのことです。

続く

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