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森に囲まれたDOウティエル・レケーナ DO Utiel-Requena, rodeada de bosues

スペインの航空写真地図でDOウティエル・レケーナを探せと言われたら、戸惑うかもしれません。けれどもイベリア半島の中央高原台地(メセタ)南東部の外側、バレンシア市から内陸に向って70㎞、周囲を緑の山に囲まれた高原台地という条件で見てみてください。緑の山々に囲まれて、ラ・マンチャと同じような赤茶けた色の長方形に足を2本生やしたような形が、目に入るはずです。これがDOウティル・レケーナ認定地域の中心部、メセタ・デ・レケーナ・ウティエルです。

注:DOの名前がウティエル・レケーナなのに鉄道駅の名前はレケーナ・ウティエル、メセタの名前もレケーナ・ウティエルです。それはレケーナの方が歴史的に古い町ですが、ウティエルは19世紀の鉄道駅設置によりワイン産業中心地になったからです。原産地呼称統制委員会の本部もウティエル駅前にある元ボデガにあります。

DOウティル・レケーナはブドウ栽培総面積3万㎢強、平均標高720m、地中海から約70m内陸。土壌は一般的に粘土砂質で、石灰分を多く含み、有機物質、リン、マグネシウムに乏しいですが、多くの場合赤みがかった色(酸化鉄)をしていて、メセタにある畑はほぼこの特性を持っています。

 

カブリエル川峡谷自然公園Parque Natural de las Hoces del Cabriel

前々から気になっていたのはメセタの周囲の森のベルトです。外界と隔絶する城壁のごとくメセタを囲んでいる緑深い山々。それを確かめに、カスティーリャ・ラ・マンチャ州との境界線にもなっている、カブリエル川峡谷自然公園を、管理責任者のガブリエル・バリェステルさんにご案内いただき、訪問してきました。

カブリエル川峡谷自然公園は2019年にユネスコの生物圏保護区に認定された、きれいな水と豊かな生態系が保護されている地域です。場所によっては川面まで50mもある断崖絶壁になっていますが、今回は川の水を生活用水や農作物の栽培に活用するために作られ、現在も稼働している大きな水車のある地区を見学しました。

豊かな水流で、周囲には水辺を好むカーニャと呼ばれる竹状の植物が茂っていますが、増えすぎているため除去作業が進んでいます。あとに、この地区に自然に生える草花を植えると、カーニャの進出が防げるとのこと。川の両岸は緑があふれています。

川沿いの道を開いた後の削られた崖の面を見ると、スレート状の層が斜めに走っていて、そのブロックからは半透明状の薄片が剝がれます。メセタの西の壁になっている山々の土壌は、メセタとは全く異なります。

 

 

ネレマンNeleman  

カブリエル川の近く、つまりDO認定地では西部に位置するボデガ、ネレマンNelemanを訪問。昨年日本で、生産者来日なしで試飲会を行ったところ、人気の高かったメーカーのひとつです。オランダ人のデリック・ネレマンDerrick Nelemanさんがバレンシアでワイン造りを始めたのは2014年。バレンシアで最も標高の高い山岳地帯で、カブリエル川渓谷自然公園内にあるカサス・デル・レイCasas del Rey村にある現在のボデガを拠点にしたのは2018年のことでした。彼の畑は標高900m。畑は1万年ほど前の白亜紀に形成された土壌で、砂、石灰石、粘土の混じったものです。

ワインは持続可能でエコでヴィーガン。「良いワインは畑で生まれる」をモットーに、「スペイン人の魂とオランダ人創設者の神髄で手作りされたワイン」とのこと。

やはりオランダ人のジョウJoe Jansen van Jorksveldさんの案内でボデガを見学。カサス・デル・レイというシリーズのワインを試飲させていただきました。古い畑のブドウを使って、しっかり造ってあり、フルーティさが感じられるバランスの良いワインたちです。その一つ、ボバル・ロブスタBobal Robustaは、樹齢80年のボバル100%で、16か月フレンチオーク樽で熟成。ロブスタというのは頑丈なとか、がっしりした、たくましいといった意味を持つ言葉なので、このワインの骨格がしっかりしていることを示していると捉えます。深い色合いで、フルーティさがあり、ミネラル感、スパイシーさも備え、柔らかなタンニンが良いバランスを保っていて、フィニッシュがきれいでした。2025年度、DOウティエル・レケーナを代表するワインのボバル100%の赤ワイン部門で選出されたワインです。

ワインはDOウティエル・レケーナにしっかり根を下ろしていますが、本部はオランダ、輸出部門はアメリカに拠点を置き、35か国に輸出しています。日本にもぜひ進出したいとのこと。

ウティエル・レケーナ地域ではシマウマ模様の車がネレマンの目印になっているそうです。

 

センテンシア Bodegas Sentencia

DO ウティル・レケーナはビニェロンViñerónという称号を認定しています。“自らのブドウ畑の可能性を信じ、ワイン造りに人生を捧げる生産者”です。その条件は、自分で所有する畑で、環境に配慮したブドウ栽培、ワインの生産・熟成、販売に至るまで、あらゆる工程に自ら携わり、責任を負う個人であることです。現在9名が認定されています。その1人、ボデガス・センテンシアBodegas Sentenciaの アルベルト・ペドロンAlberto Pedrón さんを訪問しました。このボデガも今回のテーマのメセタを囲む森近隣の住民です。

ボデガに着くと、入り口に停めてあった車はまっ黄色の小さなルノー。可愛い!と思ったら、これはオーナー醸造家のアルベルトさんが10年以上も使っている愛車で、どんな畑にも行ける強力な味方とのこと。普通、畑に行くときはものすごく車高の高い(上るのが大変)4輪駆動のいかにも頑丈そうな車なのですが、ここはキュートな黄色のルノー。早速畑へ向かいます。

センテンシアがあるロス・ペドロネスLos Pedrones村は、ネレマンがあるカサス・デル・レイ村とも近い、ウティル・レケーナ認定地の南部にあります。カブリエル川がフーカル川に合流する地点も近く、地域の大部分を森が占めているため、夏が穏やかとのこと。

先ずはこの地域の条件が見渡せる崖の上へ。見渡す限り緑の森が広がります。目の前は緑の谷になっていて、その先にカブリエル川が流れているそうですが、樹が茂っていて、川は見えませんでした。立っている足元は石灰質の岩盤といった感じ。もともと水底にあった層が隆起したもので、足元に転がっている石にも様々な化石が付いています。

この土壌は第三紀および第四紀に形成された堆積起源のもので、主に丘陵には中新世の湖成石灰岩(古代の湖の底に形成された堆積性岩石層)、砂、泥灰土が、谷には灰色粘土と石膏が含まれているそうです。畑はメセタの畑の土壌とは明らかに違って、かなり白い色をしています。

ボデガは19世紀にアルベルトさんの高祖父がワイン造りを始めたのが起源ですが、1950年代から協同組合にブドウを売るようになったため、設備は放置されていました。それを2009年から自分たちの手で修復し、昔作られたセメント槽も復活しています。ワインを作り始めたのは2017年からです。古い家の壁をそのまま使った樽熟スペース。その一角にダマフアナ(大きなガラス瓶)を発見!さらにソレラSoleraと書かれた樽も発見!これはガルナチャを過熟させたものを使った甘口VND=Vino Naturalmente Dulceで、アリカンテのフォンディリョンFondillónのようなタイプとのこと。

栽培している品種はボバルを筆頭にガルナチャ・ティンタ、シラー、マカベオ、ガルナチャ・ブランカそして、まだ栽培量がごく限られていますがボニカイレBonicaireというバレンシア地方原産の品種の復活にも力を入れています。いろいろ試作しているようで、時々覗くと面白そうです。

試飲させていただいた最初のワインはジュビアLluviaシリーズのなかから、見せていただいた畑の、1haに1,500本しか植えられていない樹齢30年以上のボバルで造ったロゼのアンセストラル(ペットナット)Lluvia Ancestralです。軽い色合いでソフトな口当たりですが、芯の強さがあり、長い余韻が快いワインでした。石のラガール(ブドウ圧搾場)で足踏み搾汁して造る赤のガルナチャLluvia Garnachaも明るい色合いでソフトで繊細です。そして最後はボバル100%のエル・インドゥルトEl Indulto。これは少し北にある別の赤っぽい色の石灰粘土質の層の表面が石ころで覆われた畑の、樹齢90年以上の古木のブドウを使い、野生酵母で発酵、12か月フレンチオーク樽で熟成したもの。穏やかな透明感のある、とても洗練された、自然に入っていく感じのワインでした。

当然ながら持続性を考えたオーガニック栽培で、これはスペインでは小規模なボデガの常識になっていると言ってもいいと思います。

 

ラ・ソカ La Soca / ラ・コントラリア La Contraria

レケーナの町を散策していて発見したお店です。ふと見ると、本屋さんなのにカウンターがあってワインを飲んでいる人がいます。気になったので入って、聞くと、「本もワインも売っているわ」とのこと。奥にはソファーの席もあって、自宅の居間のごとくくつろいでワインを飲んでいる人たちがいます。

ラ・コントラリアはラ・ソカ La Socaというボデガでご主人と一緒にワインを造っているエレーナさんが、収穫時期だったこともあり、午後だけオープンしているワインバーのある本屋さん[ラ・コントラリアla Contraria」です。とてもオシャレで、來る人もみんなオシャレです。

エレーナさんは他にも、若い造り手の小規模なボデガの仲間を集めて、様々なワインのイベントを企画・実施しています。統制委員会の事務局長カルメン・カルセルさんも彼女の活動を高く評価していて、「彼らがDOウティエル・レケーナの未来です」と語っていました。

エレーナさんのボデガ、ラ・ソカのワインもカウンターで試飲。ラベルのデザインが大地を踏みしめているように力強そうなイメージです。白はチャレロ、マカベオ、ソーヴィニョン・ブランのブレンドで、骨格もボディもしっかり。赤はボバル100%。完熟させると糖が多すぎて発酵が終わらないので、早めに摘むのだそうです。フルーツ味、酸味、タンニンもバランスが取れたしっかり系。一番興味がひかれたのはタルダナのオレンジ。ウティエル・レケーナの地場品種の白ブドウ、タルダナはどちらかというと繊細でソフトなイメージがありましたが、ここのは、オレンジのせいもあるのでしょう、力強く旨みがあります。いずれも造り手の心意気が感じられるワインたちでした。ボデガは認定地域の南部にあるので、ワインにもメセタの中心部とは違う特性が出るのでしょう。

ぜひ彼女の仲間たちのワインも試してみたいです。きっとそれぞれの主張がはっきり現れたワインなのでしょう。面白そうですね。

 

次世代への取り組み:教育プロジェクト Proyecto educativo

DOウティエル・レケーナは長いワインの歴史を持つ地域であり、ワインは重要な地場産業です。若いワイン生産者たちが現れてきているとはいえ、ここでもブドウ栽培農家の後継ぎ問題は深刻化しています。これまでも、この伝統産業の継承のために、さまざまな取り組みがありましたが、それを統合したのが研究とイノベーションの教育プロジェクトProyecto de Investigación e Innovación Educativo (PIIE)です。5つの学校が教育省の承認と資金提供を受け、実施しています。これにはDOウティエル・レケーナ統制委員会やレケーナのブドウ栽培・醸造学学校他多くの企業や専門家が協力しています。

プログラムは生徒たちの実習で構成されています。ブドウ畑で、土を耕すところからブドウ植え付け、栽培工程のすべてを現場で学びます。これは植物の生育サイクルを理解する機会にもなります。またワイン造りも収穫から発酵終了まで自分の手をかけて行い、その間に生物学的メカニズムを学んだり、糖やアルコールを測定したり、科学や化学の授業をはるかに超えた体験をします。ワインの瓶詰、ボトリング、打栓。そしてラベルでは、ただ図柄だけでなく、商品として売るために必要な文字情報も含めたデザインを考え、ボトルに貼って、商品として仕上げます。これはマーケティングについて考える機会にもなっています。また副産物の使い方もテーマに据えられています。

他にもタブレットを使って、5~6歳の子ども向けにワインのバーチャル生産を楽しむ内容のゲームを設計するとか、ブドウの果汁や畑の土を使って、ブドウの枝で絵を描くとか、多彩なプログラム構成です。

単にワイン生産工程を知るだけでなく、関係する様々な知識や技術を学校の授業の中で実体験し、身に付けて行けるように計画されています。

未来DOウティエル・レケーナのワイン産業がどう変化していくか楽しみです。

 

ボデガス・イスパノ+スイサスBodegas Hispano+Suizas

最後に、とても評価の高いワインを造るので興味があった、大手ボデガをご紹介します。

イスパノ+スイソスは当初2人のスペイン人と1人のスイス人が始めたプロジェクトだったので、この名がありますが、スペイン人の1人、醸造家のパブロ・オッソリオPablo Ossorioさんによると、現在はスペイン人2人なのだそうです。もう1人のスペイン人はブドウ栽培と醸造の専門家、ラファエル・ナバロRafael Navarroさんです。

イスパノ+スイサスはレケーナの町から西南西に少し行ったところ、つまりメセタの高原台地の中、赤茶けた色の土壌地帯にあり、ボデガの周りに110haの自社畑を持っています。栽培品種はウティエル・レケーナの地場品種ボバルの他、フランス品種のシャルドネ、ソーヴィニヨン・ブラン、カベルネ・ソーヴィニヨン、カベルネ・フラン、メルロー、シラー、ピノ・ノワール、プティ・ヴェルド、そして全く環境の異なるスペイン北西部ガリシア地方が本場の品種、アルバリーニョです。

どの品種も最初は同じ工程を通るそうです。収穫されたブドウは15㎏ケースでボデガに到着。冷凍コンテナで―10℃で冷凍してブドウの細胞壁を破ることによって香りと風味の抽出効果を上げます。白ワインの場合、全てステンレスタンクでコールド・マセレーションした後ニューマティック・プレスで搾汁し、澱を下げた後、400ℓ入りの解放樽で発酵させます。温度調節用のプレートで、白は14℃に保ち、発酵終了後、澱と共に保持。赤ワインの場合、除梗し、白と同じく解放樽に入れ、8℃で4日間、バトナージュしながら維持し、発酵が始まった後は冷却パネルを外し、発酵を終えます。

というわけで、ボデガの主要スペースには鏡板のない樽がズラッと並んでいます。その両側にはステンレスタンクと黒い球形のタンクの列があります。最近は多くのボデガで卵型のセメントタンクが使われているようですが、ここは球形です。パブロさんは「卵型を使うのは自然に対流が起こるからと言われているが、対流は温度差がないと生じない。温度差があれば球形の方が対流がいいはず。」ということで、この黒い球形タンクには温度差を作るための温度調整設備を付けてあるのだそうです。黒い球形タンクはガリレオと呼ばれていました。

赤ワインの熟成にはフレンチオークもしくはアメリカンオーク、300ℓもしくは400ℓの新樽を使用。新樽と使用した樽とは違うことを見せてくれるサンプルも用意されています。というわけで、全てが計算されつくしたワイン造りの行程という感じでした。

最後は、別DOのカバも含め、全10本のワインを試飲。このボデガがパイオニアでもあるDOウティエル・レケーナ認定アルバリーニョ100%のワインは、これまで知っていたアルバリーニョとは違った、開いた果実味が、大西洋ではなく地中海の影響を受ける地域のテロワールの違いを感じさせてくれます。ボバル100%の看板ブランド、ボボスBobosは文句なくおいしいですが、イスパノ+スイサスはその他の品種のものやブレンドタイプも、どれもきちんと造られたワインです。

翌日、同じくイスパノ+スイサス企画の「ワインに使うブドウのテイスティング」に参加させていただきました。シャルドネ、ソーヴィニョン・ブラン、アルバリーニョ、ピノ・ノワール、メルロー、シラー、カベルネ・フラン、ボバルの8種類をブドウの実の各部位の味によって熟成度をチェックするという、面白い企画でした。種を嚙んでみて、「これは収穫まであと1週間」とか言われると、「なるほど」と納得できます。

ワイン造りの全工程がピッタリ計算されていて、今後異常気象の影響が増してきても、間違いなく、文句のない品質の高いワインを造りだしてくれそうなボデガです。

 

DOウティエル・レケーナは大手メーカーが安定した高い品質のワイン造りを図る一方で、超小規模のマイクロ・メーカーが各自のフィロソフィーに則った意欲満々のワインを生み出しています。持続性、気候変動問題、さらには市場の志向の変化も視野に入れ、ワインの造り手たちは各自各様の様ざまな取り組みを重ねています。ワインのカリキュラムを持つ学校で学んだ子供たちは何を考えるのでしょうか。森に囲まれたDOウティエル・レケーナに多くの可能性を感じる旅でした。

 

2026年、レケーナはスペインのワインの町に認定されています。メッセージは「人生はすべて楽しむためにある!」

美味しいDOウティエル・レケーナのワインを飲んで、人生楽しく過ごしましょう。

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