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ロシアン・ワイン・デイズ/Russian Wine Days/Дни Русских Вин

11月19日、20日の2日間、ロシア第2の都市サンクトペテルブルグで「ネヴァ(川)地域リーテイル・デイズ/Retail Days by Neva/Дни Ритейла на Неве 2019」が、ロシア連邦産業通商省МИНПРОМТОРГ РОССИИ (Министерство промышленности и торговли Российской Федерации)とロシア小売市場専門家協会(仮訳)Российская ассоцнация экспертов рынка ритейла、サンクトペテルブルグ産業政策革新通商委員会(仮訳)Комитет по промышленной политике, инновациям и торговле Санкт-Петербургаの主催で開催されました。そのインターナショナルナル・ビジネス・フォーラムで「ロシアン・ワイン・デイズ」のセクションは独自のプログラムを組んで、各種フォーラム、テイスティングセミナーなどを行いました。

テーマとしては、ロシア産ワインの海外市場を探る「ロシアのワインと小売り・飲食業界の国際トレンド」、海外市場を理解して輸出を促進するための「世界のワイン市場トレンド」、ワインのバイヤーや新しいビジネスの仕方をテーマにした「ヨーロッパへの窓」といった、輸出に向けての情報を提供するものが主でした。

そのなかで一つ「ロシアのワイン産業。業界発展のための政府の介入。流通における国産ワインの行方、国内市場での可能性」というテーマのフォーラムに参加してみました。

サンクトペテルブルグやモスクワのような大都会にはオシャレなワインショップやワインバーがあって、ファッショナブルな装いの人たちが出入りしています。ただ、売られているワインはフランス、イタリア、スペイン、ドイツ、オーストリアといった輸入ものがほとんどで、ロシア産のワインがあったとしても、ほんの少しです。

またロシア人はスパークリングワインが大好きで、フランスから輸入したシャンパーニュのこともあれば、イタリア産のこともありますが、ロシア産にも出会います。ボリショイ劇場を始め、劇場のバーに行くと多くの人がスパークリングワインを飲んでいますが、そこには「アブラウ・デュルソー」などロシア産がありました。1杯500ルーブル=1000円ぐらいです。

ただ、こういった一部の人が出入りする場所ではない、一般的なレストランや食堂でロシア人が何を飲んでいるかというと、だいたいがビール。連邦アルコール市場統制局(仮訳)Federal Service for Alcohol Market Regulation の2018年の統計で、ロシア連邦のアルコール飲料生産量を見ると、総量8,049,000,000ℓ中ビールが6,834,664,000ℓで約85%を占めています。一方ロシアの飲み物を代表するイメージが強いウォッカは786,133,000ℓで第2位。ウォッカを飲んでいる人を見たことがあるのは「ウォッカ・ミュージアム」というウォッカ博物館併設のレストランでだけなので、多分、外国人は遭遇することのない場面で飲まれているのでしょう。残りがワインです。スパークリングが124,432,000ℓ、スティルワインが304,140,000ℓ。スパークリングがワイン全体の約30%を占めています。ただ、市場に出ているワインの大半が輸入ものだとすると、ワインを飲んでいる人の割合は生産量の割合とは違った数値になるのでしょう。

今回のフォーラムでは、そんな中でのロシア産ワインの位置付けが垣間見られるものでした。

現在ロシアでは、5つの地域でワインが生産されていて、クラスノダール地域に25社、クリミアとセバストーポリ地域に15社、ドン渓谷地域に5社、ダゲスタン地域に5社の合計50社のワインメーカーがあります。

2018年のワイン生産量は940,000,000本。総ブドウ収穫量530,000トンのうち約半分の270,000トンがワイン造りに使用されています。また現在36,000ヘクタールのワイン用ブドウ畑がありますが、2018年に新たに植えられたブドウ畑の面積は5,000ヘクタールで、2019年の計画は6,700ヘクタール増。急激に生産量を増やそうとしていることが分かります。また、ロシア産のワインは国内外の優秀な醸造家によって造られているロシアのワインは海外でも高い評価を得、在来品種が国際的には関心がもたれているとのことでした。

ただ、何といっても不足しているのはロシア産ワインの知名度です。そのため今後必要なことは、ワイン生産者と販売業社が協力し、販売網を通じて、ロシア市場で国産ワインの知名度を上げ、販売量を増やしていくことですが、そのためにはロシアのワイン市場を支えるための国家的プログラムが必要ということでした。

ワイン・ブース訪問

ロシアン・ワイン・デイズの会場にはワインメーカー18社の試飲ブースが出ていました。気が付いたのはクリミアのメーカーが多かったこと。これまで閉ざされていたロシア市場が開放されたため、現在ロシア市場に売込中とのことでした。3つの地域に分けて、興味深かったワインをご紹介します。

クリミアとセバストーポリ地域:黒海北岸に飛び出した、ヒラメのような形の半島で、尾ひれの部分でクラスノダール州のクバン半島と向き合っています。コレクションで有名なワイナリー、マッサンドラがあるのはここです。

アルマ・ヴァレー ALMA VALLEY

クリミア半島のアルマ渓谷にあるメーカー。ソヴィニョン・ブラン、シャルドネ、シラー、カベルネ・ソーヴィニョン、ピノ・ノワールなどフランス種品種が主ですが、プティ・アルヴィンというスイスやイタリア北部の品種で造った若い白ワイン「Alma Valley Petite Arvine 2018」が、白い花のようなデリケートさを持ち、酸が効いていて、きれいにまとまったワインでした。

シャトー・コート・ド・サン・ダニエルCHATEAU CÔTES DE SAINT DANIEL

クリミア半島のヤルタの近くにあるワイナリー。4世紀初頭に書かれた書物に、現在このワイナリーがあるところは、聖ダニールという教会がある集落で、アイ(聖)・ダニールАй-Данильと呼ばれたことが記されています。そして、このワイナリーは自社畑のブドウだけでワインを生産するスタイルをとっていることなどから、名前はフランス式にシャトー・コート・ド・サン・ダニエルとしています。現在は20ヘクタールほどブドウ畑を所有。2008年の収穫からワインを造りはじめ、2009年最初の出荷を行いました。

コーカサス・オーク樽で熟成したアリゴテの「ボー・モンドBeau Monde」や、カベルネ・ソーヴィニョン、バスタルド・マガラチスキー、サペラヴィビのブレンドで、新樽で2年以上熟成後1年瓶熟した「アイ・ダニール2015」は、酸もしっかりしたバランスの良いワインでした。

コクテベルКОКТЕБЕЛЬ

クリミア半島の黒海東沿岸にあるワイナリーで、2つのコルホーズ(ソ連邦時代の集団農場)を統一して作られた会社。手書きのラベルが素敵なシリーズがあり、シャルドネとバスタルドはバラカールスカヤ・ダリーナという渓谷の畑、メルローはクルバン・カヤ山の斜面の畑のブドウを使って造っています。シャルドネはOKです。

ウサージバ・ペロフスキフУСАДЬБА ПЕРОВСКИХ

1834年に創設起源をもつワイナリー。クリミア半島のセバストーポリ近郊にあります。シャルドネ、リースリング、カベルネなどインターナショナルな品種を使ったワインを各種生産。アメリカンオーク樽で18か月熟成したというメルロー・リミテド・シリーズ2014年ヴィンテージは美しい色とデリケートな香りでフルーティさのあるバランスの良いワイン。

ザハーリンЗАХАРЬИН

ヴァレーリー・ザハリンВалерий Захарьин氏が2004年に創設し、フランス品種だけで始めたワイナリーですが、最近はクリミア半島の在来品種に力を入れています。2016年、75種類の在来品種を植え、現在研究中です。製品になっているフランス品種のワインはいずれも線の細いイメージですが、バスタルドにケフェシアКефесияという在来品種をブレンドしたものはちょっと違いました。これだけは、野原の赤いベリーのような繊細さがありながら、骨格がしっかりしてボディもあるバランスの良いワインでした。コクールКокурという品種を使ったスパークリングはシャルマ方式で造られたもので、フルーティでフレッシュでした。

ソーネチナヤ・ダリーナСолнечная Долина

クリミア半島東部にある、起源を1888年に持つワイナリーで、在来品種に力を入れていています。「コクール」はコクール100%の白ワインで、レモンやグレープフルーツ、ミカンの皮のようなシトラス系でフレッシュです。このシリーズでは他にも在来品種のオンパレードのようなワインもあるようで、興味深いです。「メガノムМеганом」の辛口白はコクールと、トカイの品種、ハールシュ・レヴェルーとフルミントをアリゴテと共に使ったワインです。

クラスノダール地域:クリミア半島のすぐ東で、黒海とアゾフ海に挟まれたタマン半島からコーカサス山脈に至るまでの、黒海沿岸の広い地域。

ブルニエBURNIER/БЮРНЬЕ

黒海沿岸のクラスノダール地区で2001年にスイス人のレノ・ブルニエが創設。妻のマリーナと娘のアレクサンドラ・マリアとともに運営しています。主体はフランス品種で、白はシャルドネ、ピノ・ブラン、ピノ・グリ、マスカット、ヴィオニエ、黒はカベルネ・ソーヴィニョン、メルロー、シラー、カベルネ・フラン、マルベックを栽培しています。

2005年収穫からは、ロシアの在来品種クラスノストップのワインを造り始めていていますが、出展していなかったため、モスクワのホテルにとどけてくださいました。ヴィンテージ2011年、フレンチオークで18か月熟成したものですが、9年目に入っているにしては豊かなフルーティさが感じられるのが印象的です。カベルネ・ソーヴィニョン2013年も果実味がしっかりしていながら、酸やタンニンが柔らかく、こちらは枯れた感じのあるワインでした。

ユージナヤ・ヴィンナヤ・カンパーニヤЮЖНАЯ ВИННАЯ КОМПАНИЯ

黒海とアゾフ海に挟まれたタマン半島にある、2003年創設のワイナリーですが、大祖国戦争後の1946年に、この地域の集団農場を統一して作られたパベーダ(勝利)という名の大農場のブドウ畑を整備して、そのブドウを使っています。インターナショナルな品種を使ったワインのブランドをいくつも持っていますが、注目したいのは在来品種の単一品種シリーズです。ラベルのインパクトが強烈で、味もそれなり。

「アムールАмур」はアムールという品種の赤ワインで、酸味のあるベリー系のなかに熟れたミカンのような風味があり、ソフトでまとまりがあります。「ツォクールЦокур」はツィムリャンスキー・チョールニーの赤ワインで、凝縮感のある赤いベリー系ですが、かすかに青っぽさがあり、酸とタンニンがしっかりしていてミネラル感もありボディもしっかりしています。「サペラヴィСаперави」はサペラヴィ・セーヴェルニーの赤ワインで、赤いベリー系でバランスの取れた軽やかさがあります。「ツィトゥロンЦитрон」はツィトゥロンニー・マガラチャЦитронный Магарачаの白ワインで、しっかりした黄色ですが、味はとても柔らかで、おいしい桃のコンポートのようで、最後にきれいな酸が感じられます。

このシリーズにはもうひとつ、「ヴィオリカВиорика」という白ワインがあって、ヴィオリカ・ムスカートナヤという品種ですが、残念ながら、サンプルがなかったので試せませんでした。ぜひ次の機会に!

クバン・ヴィノКУБАНЬ-ВИНО

黒海とアゾフ海に挟まれたタマン半島にある1956年創業のワイナリー。「シャトー・タマニ」のブランドで知られていて、多種多様なワインを造っています。スパークリングのキュヴェ・アレクサンドルのブラン・ド・ノワールはフレッシュ。黒海の晴れた空のような色のストライプのラベルがモダンなシリーズのサペラヴィはハーブのような香りを持ったソフトでバランスの良いワインです。

シュムリンカШУМРИНКА

黒海沿岸地方にある、2016年創業の若いワイナリー。56ヘクタールで17品種を栽培していますが、すべてインターナショナルな品種で、印象としてはロシアのニューワールド的なモダンなタイプのワインを造っています。ペトリコール、セミサムといったブランドをいくつか持っていて、いずれも飲みやすいタイプです。

ミスハコМЫСХАКО

黒海沿岸の港町ノボロシースクの近くの小さな村、ミスハコにあるワイナリーで、インターナショナルな品種でスパークリングとスティルワインを造っています。マルセランという、フランスで生まれたカベルネ・ソーヴィニョンとグルナッシュの交配品種100%のワインがありました。濃いルビー色で、黒い炭のような印象ですが、酸やタンニンは柔らかい、おもしろいワインでした。

 

ドン渓谷地域:アゾフ海に流れ込むドン川沿いの地域で、その他の地域より北部に位置

ヴィラ・ズベズダВИЛЛА ЗВЕЗДА

アゾフ海に流れ込むドン川流域地域にあるワイナリー。大陸性気候で、気温は、夏は40℃、冬は-30℃と厳しく、日較差も大きいとのこと。一般的なヨーロッパ品種も栽培していますが、それより在来品種に力を入れています。クラスノストップ・ザラトフスキーКрасностоп золотовскийはもとより、ツィムリャンスキー・チョールニーЦимлянский черный、クムシャッツキーКумшацкий、シビリコヴィーСибирьковый、ムシケトニーМушкетныйといった、他のメーカーではまだあまり聞かない品種を揃えています。

クムシャッツキーは白い花やリンゴのような香りの裏に皮のような香りがあり、甘い蜜が感じられる風味。酸もバランスよく、骨格がしっかりしたワインです。シビリコヴィーは白いフルーツやブドウらしさ満開の香りですが、その割にはしっかりしたボディがあります。このメーカーのワインはクラスノストップもツィムリャンスキーも酸やタンニンのバランスが良くボディと骨格がしっかりしています。

ツィムリャンスキエ・ヴィナЦИМЛЯНСКИЕ ВИНА

ツィムリャンスのワインという名のメーカー。ドン川沿いのツィムリャンスク村のツィムリャンスク貯水池のそばにあり、ワインのブランド名もツィムリャンスコエと言います。アゾフ海から内陸に入ったところにあり、ブドウ産地としては北限に近いとのことで、スパークリングも白も含め、酸がしっかりしています。クラスノストップ、サペラヴィ、メルローで造った赤もしまりのあるしっかり辛口。写真のツィムリャンスキー・レゼルヴはサペラヴィ・セーヴェルニー(北のサペラヴィという意味)、ツィムリャンスキー・チョールニーとメルローのブレンドで、黒いベリー系、酸味や苦みとのバランスが良く、骨格のしっかりしたフルボディのタイプです。

 

ロシアはヨーロッパ品種を各種使っていますが、ブレンドの仕方がユニークだったり、テロワールが異なるため全然イメージの違ったワインになっていたり、他の国とは違った面白さがあります。それにもまして在来品種はこれからもっと面白くなるはずです。まだメーカーの数が少ないですが、ドン川地域は注目したいところです。

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