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モンサン D.O. Montsant 2

ボデガ探訪記

ベヌス・ラ・ウニベルサルVanus “la Universal“”

多分モンサンの中では一番有名なボデガと言っていいでしょう。特選原産地呼称プリオラトのボデガ、「マス・マルティネMas Martinet」のホセ・ルイス・ペレスJosé Luis Pérezの娘サラ・ペレスSara Pérezと、「クロス・モガドールClos Mogador」のレネ・バルビエRené Barbierの息子レネRené JRがモンサンで始めたボデガです。ベヌスはヴィーナスのこと。モンサンの主要品種カリニェーナとガルナチャから、地中海の光を感じさせるような柔らかさを持ったエレガントなワインを造りたいという気持ちからつけられた名前です。何年か前に訪れたときはサラが様々なサイズの樽がびっしり詰まった小さなボデガの中で、あちこちの樽から試飲させてくれました。今回は、4年前に新築したというボデガです。フードルやアンフォラが増え、セメント槽やダマフアナ(細首の大瓶)など様々なタイプの醸造設備が使われていました。常に研究を怠らない二人です。ワインには「ディドDido」のシリーズと「ベヌスVenus」のシリーズがあります。写真でレネが持っているのはベヌス2007。カリニェーナが主で、ガルナチャとシラーが少し。二人の心がこもったワインです。

 

 

コカ・イ・フィト Coca i Fitó

 トニとミケルのコカ・イ・フィトToni y Miquel Coca i Fitó兄弟のボデガ。トニがワイン造りを担当。長年、土壌のミネラル分とブドウ栽培の関連やブドウ品種の研究を続けてきた人でもあります。ミケルは元料理人で、今は製品のデザインを始め、プロモーションを担当。2006年にモンサンで始めたプロジェクトですが、今はテラ・アルタ、エンポルダ、プリオラト、そしてガリシアのリベイラ・サクラでもワインを造っています。

雨の中、見に行った山間の畑は粘土質土壌。4WD車でも抜け出せなくなりそうなので途中で断念。垣間見た赤茶色の畑にはガルナチャとカリニェーナの古木が植わっていました。

モンサンのワインには「コカ・イ・フィトCoca i Fitó」ブランドの赤とロゼ、「ジャスピJaspi」ブランドの赤、「アロハAloja」ブランドの赤があります。コカ・イ・フィトの「ガルナチャCoca i Fitó Garnatxa」と「カリニェーナCoca i Fitó Carinyena」は、いずれも樹齢60~70年のブドウを使っています。トニの長年の研究成果とミケルの抜群のセンスで造り上げられた、モダンでエレガントでスマートな、文句なくオシャレなワインです。

 

セレール・マスロッチ Celler Masroig

1917年創業の協同組合がベースです。組合員数200。2014年に新しいボデガを増設し、ラック式の樽熟成庫や小型のステンレス発酵槽なども数多く設置。2015年からはカリニェーナ100%のワインを2000ℓのフードルで熟成しています。協同組合によくある、かつて発酵や貯蔵に使っていた地下のセメント槽は、今はイベントスペース的な使われ方をしていました。

収穫時には200万キロのブドウを受け入れるという協同組合だけあって、製品も幅広く、「ソラ・フレドSolà Fred」シリーズ、「ピニェレスPinyeres」シリーズ、「レス・ソルツLes Sorts」シリーズ、ロハレRojalet」シリーズなどブランド名も豊富です。気楽に飲めるモンサンです。

 

 

セレール・コムニカ Celler Comunica

 まずは畑。このボデガの創業者の一人であるペップ・アギラールPep Aguilar さんは、すぐ裏にある畑を見せてくれました。ファルセットに近いマス・デン・コスメ村にある畑は雑木林に囲まれた一帯で、花崗岩質のもろい土壌です。これこそが彼らが求めていたクールで響きの良いワインを生み出すもと、とのこと。

ペップさんも、もう一人の創業者パトリ・モリーリョPatri Morillさんも、長年、地中海地域の数々のワイン産地で醸造コンサルタントとして活躍してきました。そしてついに立ち上げたのが、モンサンのこの村の花崗岩質の土壌で、自分たちのワインを造るというプロジェクトです。

白ワインの「ラ・パウComunica La Pau 2017」はガルナチャ・ブランカ80%にガルナチャ・ペルダを20%使ったもの。存在感のある白です。赤の「コムニカ Comunica 2015」はカリニェーナ65%にガルナチャ・ペルダ35%。澱とともにステンレスタンクで22か月熟成。非常に繊細で洗練されたエレガントなワインです。古木のガルナチャ・ペルダ100%で造った「ラ・ペルダLa Peluda 2016」は、よく熟れた森のベリーのイメージ。

自然の与えてくれた風味を素直にワインに反映させるため、熟成はステンレスタンクのみ。

 

セレール・サン・ラファエル Cellers Sant Rafael

 ボデガは訪問していません。ファルセットのレストランでワインの試飲をさせていただきました。ハビエル・ペニャスXavier Peñasさんと前出の原産地呼称モンサン統制委員会の会長ピラール・ジュストPilar Justさんご夫妻がオーナーです。1997年に40ヘクタールの土地を買い、ガルナチャ・ティンタを植え、収穫は協同組合に売っていたのですが、2003年から自分たちのワインを造り始めました。3人の子供たちの名前を使ったワインは、「ブランカBlanca」はガルナチャ・ブランカの白、「ジョアナJoana」はガルナチャ・ティンタが主の赤、「シャビXavi」はガルナチャ・ティンタとカリニェーナの赤。デザインもかわいらしい。「ソルポストSolpost」のシリーズはガルナチャとカリニェーナを主体に、テロワールを表現したワインで、白、ロゼ、赤があります。「ソルポスト・カリニェーナSolpost Carinyena」はとても繊細でクリーンでエレガントなワインでした。

 

 

オルト・ビンズ Orto Vins

 代々受け継いできた畑はビオディナミ栽培です。「80年代に株作りから垣根づくりに変えて化学肥料を使う農家が増えたのですが、うちの父はやり方を変えませんでした。」というオルト・ビンズのオーナー、ジョアン・アセンスJoan Asensさん。DOQプリオラトの名を一躍世界に知らしめたアルバロ・パラシオスAlvaro Palaciosのボデガ「レルミータL’Ermita」で長年ブドウ栽培と醸造責任者を務めてきましたが、父親が亡くなり、畑が残されたとき、同じく代々畑を継承してきた他の3名のブドウ栽培者たちと、最高品質のワインを造ろうという意図のもとに始めたのがこのプロジェクトです。今はまだ、村のエル・モラール農業協同組合のスペースを借りてワインを造っています。

エントリーレベルのシリーズは白がガルナチャ・ブランカ、赤はブレンド・タイプ。真髄はその上のシリーズです。「レ・タラデス・デ・カル・ニコラウLes Tallades de Cal Nicolau 2013」は樽発酵したピカポル・ネグレ。1870本しか樹がないという貴重品です。ザクロの実をひとつ噛んだような、弾けるようなフレッシュさがあります。「パレルPalell 2013」は1950年に植えたガルナチャ・ペルダ。モンサン全体で10ヘクタールしかない希少品種とのこと。「ラ・カレラダLa Carrerada 2013」は1936年に植えたカリニェーナ。「ラ・プジョレスLa Pujolesはウル・デ・リェブレ(テンプラニーリョ)」。いずれも主張のある素晴らしいワインです。

 

ファルセット・マルサ協同組合 Cooperativa Falset – Marçà

ファルセットのバス停の前にモデルニスタの倉庫風の建物。そしてその少し先にあったのがこの協同組合の素晴らしいモデルニスタ様式のボデガでした。マルサに協同組合ができたのが1912年、ファルセットは1917年でした。1919年、これを一つにまとめたのが現在の協同組合です。組合員400。

入るとまず正面に圧倒的な大きさの古い木の樽2つがそびえ立っています。20年前に木樽発酵はやめたのですが、この2つだけは、伝統的なベルモット用に残したとのこと。「ベルモットVermut Falset desde 1912」は白と赤を造っています。

樽を見上げると、はるか上に高い天井、それを支える煉瓦のアーチがまさにモデルニスタ。現在ステンレスタンクが載っている土台も創設当時のもの。しかも機能的にできています。

さらに、屋上へ上がると、ダマフアナが!これはカタルーニャの伝統的な酸化熟成ワイン、ランシオを作るための大きなガラス瓶です。この後、ソレラのシステムの樽に入って熟成されます。製品は「エティム・ランシEtim Ranci」

ワインは「エティムETIM」シリーズと「カステル・デ・ファルセットCastell de Falset」シリーズがあります。なかでも「エティム・ロリジェンEtim L’Origen 2011」は、彼らが「われわれのアイデンティティー」と表現するガルナチャの古木で造ったもの。フルーツ味も酸味もタンニンもすべてがとてもやさしく一体化した、快いワインです。「カステル・デ・ファルセット・セレクシオンCastell de Falset Selección 2012」は複雑実のあるしっかりしたワインですが、カベルネ・ソヴィニョンが入っている最後のヴィンテージ。これ以後樹を全て抜いてしまったそうです。

 

ビニェス・ドメネクVinyes Domènech

小雨模様の中、訪れたボデガは、しっとりした緑の山の中に、ブドウ畑に囲まれて、潜んでいました。ファルセット出身のドメネクファミリーがここにボデガを開設したのは2002年。環境を大切にしたワイン造りがモットーです。電気も水も自給自足。400ヘクタールある敷地のうちのブドウ畑は、標高400~450メートルにある25ヘクタールだけ。夏に地中海から吹いてくる湿った風と,冬に北から吹いてくる冷たく乾燥した風の影響を受ける、特別な局地気候を持っています。畑のほとんどはガルナチャです。希少なガルナチャ・ペルダは3ヘクタール。

白はガルナチャ・ブランカを使った「バンカル・デル・ボスクBancal del Bosc」と「リタRita」があります。リタはこの日案内してくれたマルク・ドメネクMarc Domènechさんの母親の名前。40~45年の古木を使ったもので、500リットル樽で6か月熟成しています。赤の「フルブスFurvus」は2011年。ガルナチャに少しメルロを加味したもので、バランスの良いクールなワインでした。「テイシャル・ガルナチャ・ベリャTeixar Garnatxa Vella 2014」は古木のガルナチャ・ペルダで造った、野性味があるワインです。「ビニェス・ベリェス・デ・サムソVinyes Velles de Samso 2014」はサムソ、つまりカリニェーナで造ったワインで、洗練されています。

 

セレール・カル・ベソ Celler Cal Bessó

  1999年からDOQプリオラトでワインを造っていたライモン・カステルビRaimon Castellvíさんが、ブドウ栽培者のジャウメ・バリェスJaume Vallèsさんと組んで、モンサンでワイン造りを始めたのは2015年のこと。

古い畑は1950年代に植えられた、樹齢60~70年のもので、新しいものは1990年代から2000年代に植えられた、樹齢15~25年のものです。古い樹が残っているのは、ジャウメさんの父親の「古い樹を大切にしなさい」との教えがあったから。「満月に接ぎ木をする」のはビオディナミだからではなく、伝統だから。ボデガの建物は13世紀からのもの。樽は10年まで使うとのこと。とはいえ、醸造方法自体が古色蒼然としているわけではありません。

ライモンさんの2人の娘の横顔をラベルにした「コレットCoret」はガルナチャ・ブランカで、20%を500リットルのフレンチオークの新樽で発酵したもの。「エルビラElvira」はライモンさんの母親の名前。ガルナチャ・ブランカとマカベオのブレンドで、アカシアの新樽で発酵させ、6か月シュールリ。「ロ・シレレールLo Cirerer」は桜の木の意味。父親が持っていたサクランボ園にちなんだ名前で、ガルナチャ・ティンタ約半分にフランス品種もブレンド。プラムの樹を意味する「ラ・プルネラLa Prunera 2015」は古木のガルナチャ・ペルダとサムソで造った、樽熟12か月のしっかりした赤でした。

 

今回訪問したモンサンのボデガはどれも個性的。ボデガは新しくても、古い畑や伝統を大切にし、土壌や気候条件、自然環境を反映した、それぞれのワイン造りをしていました。

 

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