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グランデス・パゴス・デ・エスパーニャ:ラ・マンチャ編 GRANDES PAGOS DE ESPAÑA : LA MANCHA

“テロワールを表現したワイン”は今やワインメーカーの合言葉のようになっています。スペイン語では“テルーニョTerruño”といいます。

「グランデス・パゴス・デ・エスパーニャ=スペインの偉大なパゴ」。パゴPagoという言葉もスペイン・ワイン関係者の間では普通に使われるようになっている、“単一ブドウ畑”を意味する言葉です。このコンセプトもテロワールの表現です。独自のテロワールを持ったブドウ畑の一区画をパゴと呼んでいます。

原産地呼称制度のスペイン国内での分類ピラミッドでも、2003年のワイン法改正で国内の分類ではビノ・デ・パゴVino de Pago=VPが一番上のランクとして認められています。

グランデス・パゴス・デ・エスパーニャ(以後GPE)はこれとは別ですが、考え方は同じで、しかも大きく関与しています。それは提唱者が同じだからです。

その経緯と関連記事は本ブログの2022年11月22日から3回にわたって掲載した記事をご参照ください。https://www.vinoakehi.com/blog

 

2000年、GPEの起源となる組織、グランデス・パゴス・デ・カスティーリャGrandes Pagos de Castillaを結成したのが、パゴの提唱者であった故グリニョン公爵カルロス・ファルコ氏のボデガ、マルケス・デ・グリニョン・ファミリー・エステイトMarqués de Griñón Family Estatesを筆頭にした、フィンカ・エレスFinca Élez、カルサディーリャ Calzadilla、デエサ・デル・カリサル Dehesa del Carrizal、パゴ・デ・バリェガルシアPago de Vallegarcíaの5社でした。いずれもグリニョン公爵と交友関係のある方々がオーナーで、いずれも国家のVPの認定も受けています。残念ながらカルサディーリャは当主が亡くなられたため、現在はGPEの活動から引いています。

ということで、今回はカスティーリャ・ラ・マンチャ州にある上記4社にフィンカ・サンドバルFinca Sandovalを加えたGPEの5社を訪問してきました。

ラ・マンチャは巨大な協同組合で大量にワインが造られている大雑把なイメージが強く、実際に巨大な協同組合はあります。けれどもラ・マンチャは広大です。そのどこに位置しているかによってブドウの栽培条件は全く異なります。今、各地のテロワールを表現したワイン造りを志す生産者がどんどん増えています。その先頭を切って走ってきたのがGPEのボデガと言ってもいいでしょう。

 

1日目:カスティーリャ・ラ・マンチャ西部

デエサ・デル・カリサルDehesa del Carrizal   https://www.dehesadelcarrizal.com/

「デエサ・デル・カリサル」は古都トレドの南、ラ・マンチャの中心都市シウダド・レアルの北西にあります。広大な平坦な大地です。きれいに整備された道を入っていくと真っ白な建屋があり、その前に畑、奥に山が連なって見えます。トレド山地Montes de Toledoです。トレド山地というのはイベリア半島の中でも古い時代に形成された山々で、このボデガの畑はその浸食によって積もった土壌です。粘土質で、石ころと言ってもかなりゴツゴツした石ころが表面を覆っていました。

ハーブが多い地域なので、ワインにもその香りがあります。このボデガはVP制度がなかった頃に訪問していますが、その時もハーブが多いので、その影響はワインに現れていると言われたのを覚えています。ただ、2010年にオーナーが変わり、2012年からは新しいチームがワインを造っています。この日案内してくれたボデガのディレクター、ピエール・イヴ・デセヴルPierr-Yves Dessevreさんは、フランス出身ですが、アルゼンチン、オーストラリア、カルフォルニアを回ってボデガの仕事に携わってきました。実家はフランスの甘口ワインのメーカーですが、兄が継いでいます。今回はシャトー・マルゴーからこのボデガの新しいオーナーがディレクターを探していることを聞き、応募したとのことでした。

 このボデガは1987年にカベルネ・ソーヴィニョンを植え始め、89年に初めてワインを造りました。その後、シャルドネ、メルロー、シラー、プティ・ヴェルド、テンプラニーリョを植え、現在は26.5haになっています。

醸造には樽、セメントタンク、ステンレスタンクを使い、熟成樽はバリック・サイズです。樽材は全てフレンチ・オークで、全てのワインは、期間は様々ですが、樽熟されます。

ワインには、単一品種のものとブレンドタイプのものがあり、軽いタイプのMV(Multi-Varietalの意味)にはテンプラニーリョが使われていますが、コレクシオン・プリバダColección Privadaはフランス品種だけです。カベルネ・ソーヴィニョンは、スペインで最初の同品種100%のワインだったそうです。今回試飲した2020年ビンテージは落ち着いた、まとまりのあるワインでした。

 

バーリェガルシアVallegarcía  https://vallegarcia.com/

 馬の絵がロゴになっているボデガです。この馬のモデルはボデガにありました。かなりな高さがありますが、一本の木から掘り起こされたもので、素晴らしく美しい形をしています。オーナー(スペインでは有名な大会社のオーナーでもあります)が見つけて買ってきたそうです。

ゼネラル・マネジャーのアドルフォ・オルノス・プラドスAdolfo Hornos Pradosさんが車で案内してくださったのは広大なフィンカ(所有地)でした。狩猟地になっていて、秋から冬にかけては。外部の狩猟愛好家も入場料を支払って狩猟することができるそうです。また、このフィンカにはコルクの木がかなりありました。皮を剥がれたばかりの真っ赤な幹のものから、快復してきた跡の見える木まで、様々な状態でしたが、以前訪れたポルトガルのアレンテージョのコルクの森とは違って、林の中に自然な感じで、他の木々と混ざって立っていました。

醸造設備の入った建物はモダンなデザインで、周囲を囲むブドウ畑が見渡せます。1999年、リチャード・スマート氏の設計で24haの畑が作られました。

畑があるのは先のボデガと同じくトレド山地の浸食によってできた土壌の地で、標高850mにあります。通りがかりに見た、削り取られた土地の壁を見ると、上は粘土質で木や草が生えていますが、下は岩盤でした。

このフィンカの畑に最初に植えられたのはビオニエ、シラー、メルロー、カベルネ・ソーヴィニョンでした。初ビンテージは2001年、ビオニエのワインでした。後にスペイン品種のガルナチャ、カリニェナ、モナストレル、そしてフランス品種のカベルネ・フラン、プティ・ヴェルドも植えています。

 この日も試飲はビオニエVallegarcía Viognierから。白い花やハーブのような香りを持つ、フレッシュ感のあるワインですが、しっかりした力強さを持っています。

ガルナチャとカリニェナのブレンドタイプVallegarcía Garnacha – Cariñenaも骨格がしっかりした良いワインです。ブレンドタイプはプティ・イペリアPetit HipperiaとイペリアHipperiaがあり、いずれもフランス品種だけを使っています。

 

2日目:カスティーリャ・ラ・マンチャ州東部

フィンカ・エレスFinca Élez   https://pagofincaelez.com/

「フィンカ・エレス」はカスティーリャ・ラ・マンチャ州の東部に位置しています。つまりバレンシア州、そして地中海に近いわけです。

VPに認定される前に、「うちのボデガは他のラ・マンチャのボデガとは全く違う自然条件なので、ぜひ見に来てください」と言われ、行ったことがあります。確かに、広大な平原ではなく、緑があり、川が流れていたのを覚えています。スペイン南部ではサビーナSabina(ビャクシン=ヒノキ科の針葉樹の1属。ネズミサシ属とも呼ばれる。)という木が一番よく保存されている地域にあるとのことです。

「フィンカ・エレス」は1992年に俳優で舞台監督のマヌエル・マンサネケManuel Manzaneque氏によって創設されています。けれども2020年、現在のオーナー、ビリョルド・ルイスVilloldo Ruiz家の手に渡リました。オラリョ・ビリョルドOlallo Villoldoさんはこのボデガがある町の出身で、奥さんのリャノス・ルイスLlanos Ruizさんはフランス出身ですが、いずれも農業技師で、この地でワイン造りができることを大変喜んでいるそうです。

ボデガの主任でブドウ栽培も管理するミゲル・アンヘル・ベニートMiguel Angel Benitoさんが、まず畑に連れて行ってくれました。ここは標高1,000m以上です。日照量は多く、寒暖の差が大きいというブドウ栽培には適した条件です。畑はガチガチした石がごろごろしていて、それがかなり赤い色をしています。大きな塊もありますが、意外ともろく割れます。どうボデガのホームページの説明によると、土壌は石灰質とのこと。畑は38.8haあり、全てオーガニック栽培です。

ボデガは最新設備がそろっています。ここでもセメントタンク、オークの大樽、フードル、500リットル樽、バリックと様々な容器が使われていました。

ワインはいろいろ試飲させていただきました。”É”のシリーズの最初の「シャルドネ・リアスChardonnay Lías」が口いっぱいに広がるフルーティさときれいな酸で、素晴らしくバランスの取れたエレガントなワインでした。これはフードル、樽、ステンレスタンクで発酵し、澱と共に数か月、バトナージュしながら、置いたものをブレンドしてあります。赤もすばらしくしっかりしたワインで、どれも果実味がきちんと感じられるワインでした。

 

フィンカ・サンドバルFinca Sandoval  https://grandespagos.com/bodega/finca-sandoval/

 「フィンカ・サンドバル」はさらにバレンシア方面に向かった地域にありました。カスティーリャ・ラ・マンチャ州の東の端、バレンシア州との境、DOでいうとマンチュエラManchuelaに属しています。

 ここではボデガの主任で醸造家のマリオ・ロペスMario Lópezさんが、まず畑に案内してくださいました。広大な平原です。灌木はありますが高い木はあまりありません。メセタの端に位置するこの地域は、北方にあるクエンカ山塊Serranía de Cuenca に向かって低くなっていく地形で、標高は750~1,000m。土壌は基本的に石灰質です。

1998年にボデガが創設された当初、畑にはシラーが植えられたそうです。けれども2019年にオーナーが変わり、現在は地場品種を生かしたワイン造りを志し、絶滅寸前の品種も復活させようと努力しているそうです。

マリオさんによると、黒ブドウ品種は標高750~850mの低い畑、白は標高の高い畑に植えられるとのこと。黒ブドウ品種ではシラーの他、ボバルBobal、モナストレルMonastrellというバレンシア州の主要品種、ポルトガルのトウリガ・ナシオナルTouriga Nacional他、ガルナチャ・ティンタGarnacha Tinta、ガルナチャ・ティントレラGarnacha Tintoreraなどもあります。

ボデガは小さいながら、真っ赤な色のセメントタンク、小さなステンレスタンク、卵型セメントタンク、アンフォラ、フードル他、各サイズの樽、ドゥミジョンが同居しています。多分、それぞれの区画のブドウをどう扱おうか、考えに考えているのであろうと思うと、楽しくなります。

 試飲の最初は「アウロラAurora」という白ワインでした。使用品種はパルディーリョPardillo、アルビーリャ・デ・ラ・マンチャAlbilla de La Mancha、トルトシTortosíを使ったもので、フードルとアンフォラで熟成しています。

次の「フンダメンタリスタFundamentalista」は赤で、ボバル中心ですが、砂質土壌の単一畑で混植されているブドウを使ったものです。色は薄目、軽やかでフレッシュなワインです。シラーは粘土質土壌のものと石灰質土壌のものと2種のワイン。ボバルは古木のワインと石灰質土壌のものと2種。それぞれテルーニョの違いが表れていて、素晴らしいワインでした。

 

3日目:カスティーリャ・ラ・マンチャ西部

ドミニオ・デ・バルデプサDominio de Valdepusa   https://marquesdegrinon.com/

グリニョン侯爵カルロス・ファルコ氏の最初のボデガであり、マルケス・デ・グリニョン・グループのフラッグシップのボデガです。このボデガがビノ・デ・パゴのアイデアの起点であり、グランデス・パゴス・デ・エスパーニャの前身、グランデス・パゴス・デ・カスティーリャの中心であり、スペイン原産地呼称制度のビノ・デ・パゴVPのアイデアのもとであり、2002年、最初にVPに認定されたボデガでもあります。ビノ・デ・パゴの名称はドミニオ・デ・バルデプサDominio de Valdepusaというフィンカ名です。

カルロス・ファルコ氏は爵位が示す通り、1292年から続く侯爵家の当主で、様々な社会・経済活動をしてきた方ですが、ワインにはとりわけ思い入れが深く、フランコ(1975年没)の独裁政治終焉後のスペイン・ワイン業界に大きな足跡を残した方です。残念なことに、2020年、コロナのため亡くなりました。

カルロス氏はフランスワインを熟知した方で、最初、1974年に畑に植えた品種はカベルネ・ソーヴィニョンで、この地域は初めてのことでした。1982年からはエミール・ペイノー氏の指導を受け、1991年にはミシェル・ローラン氏の指導のもとシラーを植え、翌92年にはスペインで初めてプティ・ヴェルドを植えています。1993年にはリラとスマート・ダイソン方式の仕立て方を導入。

このボデガを最初に訪問したのはVP認定前でした。スマート・ダイソン方式と、ブドウ樹の水分量検知と自動灌漑システム、気象情報検知ステーションによるデータ管理システムが最新であることに力が入れられた説明が印象的でした。

今回畑を案内してくださったのは醸造家のラケル・カラスコRaquel Carrascoさんでした。当時と外観はあまり変わっていません。ただ、ブドウの仕立て方も、灌漑の仕方も、気象ステーションの使い方も違っていました。以前に比べると、自然に即した栽培方法を採っているようです。それは2006年から土壌微生物学の世界的な権威であるフランスのクロード・ブルギニョンClaude Bourguignon氏の指導を受けているからでしょう。

ボデガの見学と試飲にはマネージング・ディレクターのエウヘニオ・スニョルEugenio Suñerさんも加わってくださいました。

ボデガは当然ながら最新設備を完備。樽熟庫も素晴らしいフレンチ・オーク樽が並んでします。

試飲の最初は白。ルエダにもボデガがあって、ベルデホVerdejo種で白ワインを造っています。赤は、シラー、カベルネ、プティ・ヴェルドのブレンド「(+)スマ・バリエタリスSumma Varietalis」から始まり、単一品種のグラシアノ2019、プティ・ヴェルド2019、カベルネ・ソーヴィニョン2021。続いてプティ・ヴェルド2004、カベルネ・ソーヴィニョン2004、エメリテスEmerites 2005。エメリテスはカベルネ・ソーヴィニョン、プティ・ヴェルド、シラーのブレンドで、1997年にブレンドし、2000年に市場に出たのが最初です。

ワインはいずれもしっかりした深い色をしていますが、口当たりは大変滑らかで、繊細さがあります。

 

今回の訪問はグランデス・パゴス・デ・エスパーニャの創始者のボデガで終わりました。どれもラ・マンチャのイメージを覆す(と言っては失礼かもしれませんが)、洗練された、そしてテロワールを表現したワインでした。スペインの大地の底力をワインを通して味わっていただきたいです。

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