5月21日(火)
キタペナスQuitapenas
2日目の最初は伝統的なDOマラガのワインを造る「キタペナスQuitapenas」へ。1825年にラモン・スアレスとマリア・アギラ―ル夫妻が、1670年からアクサルキアにあったブドウ畑を相続したのをきっかけにワインと干しブドウを造り始めたのが起源です。1878年、フロキセラで畑が全滅したためマラガに拠点を移し、1880年、「ボデガス・キタペナス」というワイン会社を創設しました。「悲しみや苦しみ(ペナス)を取り去って(キタ)くれるボデガlas bodegas «que nos quitan las penas」と呼ばれたことから付いた社名です。当時のワインは伝統的な甘口ワインでした。1940年代にはリキュールや蒸留酒も手掛けるようになり、飲食産業にも手を広げ、ファミリー企業は拡大を続けていきました。そして2004年、規模を拡大し、最新設備を取り入れたボデガを新設しました。5代目が経営する「キタペナス」は現在マラガ市内にある唯一のボデガになっています。
ここでは伝統的なタイプと新しいスティルワインの両方を試しました。2019年に造り始めたオーガニックの白はペドロ・ヒメネスの「ベガス―ルVegasur」。テンプラニーリョ・デ・ロンダTemprenillo de Rondaの赤「フィンカ・エルニテFinca Ernite」は内陸のロンダの畑のもの。
伝統的な甘口ワインには「パハレーテPajarete」というがあります。DOマラガの統制法ではパハレーテは残糖45~140ℊ/ℓのビノ・ドゥルセ・ナトゥラルをアロぺarropeの添加なしで最低2年樽熟したものということになっています。キタペナスのパハレーテはペドロ・ヒメネスとモスカテル・デ・アレハンドリアで造った残糖110 ℊ/ℓのビノ・ドゥルセ・ナトゥラルを250ℓのアメリカンオーク樽で3年間熟成したものとのことです。
ちなみにビノ・ドゥルセ・ナトゥラルはブドウ果汁の発酵をグレープアルコールの添加で止めて甘さを残したワインのことです。ここではアルコール度6%まで発酵させ、アルコールを添加し17%に上げるとのこと。
アロペはブドウ果汁を直火もしくは湯煎で1/3量まで煮詰めたもので、色付けに使います。さらにその半量にまで煮詰めたものはパントミマpantomimaというそうです。
ボデガス・アルミハラ Bodegas Almijara
この日もアクサルキアへと向かいます。アルミハラ山脈とテヘダ山脈の麓にあるコンペータという600mを超す標高の村にある小さなボデガ、「アルミハラ」を訪問します。モスカテル・デ・アレハンドリアで干しブドウを造る伝統がある地域です。
真っ白な民家のような建物がボデガです。その前から少し下ったところにパセラが見えます。19世紀、このボデガは干しブドウのメーカーだったそうで、ワインを造り始めたのは1970年代とのこと。ワインの販売を始めたのは1993年で、このとき「ハレルJarel」というブランドが誕生しました。
アクサルキアの伝統的なブドウ、モスカテル・デ・アレハンドリアを使って、最新のテクノロジーで、現代のワインを造るというのが信条です。
「ハレル」には辛口でフルーティなスティルワイン「モスカテル・セコ・イ・アフルタドJarel Moscatel Seco y Afrutado」と甘口の「ナトゥラルメンテ・ドゥルセNaturalmente Dulce」があります。後者は伝統的なタイプで、モスカテルをパセラで天日干しし、果汁の糖度を上げたものを垂直プレスでしっかり搾り、その果汁を自然発酵させ、自然に発酵が止まるのを待って出来上がりとする、ブドウのうまみのエッセンスのような甘口ワインです。
「アルミハラ」では、他所ではもうなかなかお目にかかれない、昔ながらの垂直プレスを見せていただきました。カパチャcapachaというエスパルト草で編んだ、中心に穴の開いた丸いゴザのようなものがあり、それをプレス機の中心の棒にはめます。その上に天日干しして皴しわになったブドウを並べ、その上にカパチャを重ねてブドウを並べ、これを繰り返して積み上げ、最後に押し上げて、力任せに果汁を絞ります。これは同じアンダルシア州のさらに内陸、コルドバ県のワイン産地、モンティーリャ・モリーレスでも使われていたし、同じタイプのプレスでオリーブオイルを絞っているのを見たこともあります。干したブドウを絞るにはフレッシュなブドウを絞るよりかなり大きな力が必要だからです。ちなみにカパチャはカパチョとも呼ばれて、「アルミハラ」のは平たいゴザ状でしたが、縁に折り返しが付いていて、乗せたブドウがはみ出さないようになっているタイプもあります。
「アルミハラ」には同じ原理ですが、ステンレス製の新しいプレスもありました。天日干ししたモスカテル・デ・アレハンドリアで造る甘口ワイン造りはこのボデガの伝統であり誇りだと言えるのでしょう。
このボデガではスペイン各地でその地に根差したワインを造っている醸造家テルモ・ロドリゲスTelmo Rodriguezも甘口ワインとして人気を博した「モリノ・レアルMolino Real」と辛口ワイン「(MR)マウンテン・ワインMountain Wine」を一緒に造っています。
ボデガス・ベントミスBodegas Bentomiz
次もアクサルキアですが、アクサルキア・アルタAxarquía Altaというアクサルキアの中でも標高の高い地域にある「ボデガス・ベントミス」を訪問しました。迎えてくれたのは背の高い女性、クララ・ヴェルヘイClara Verheijです。ご主人のアンドレ・ボスAndré Bothと共にオランダからこの地に移住してきたとのこと。
坂道を登っていくと、モダンなデザインの建物が現れます。これがベントミスのボデガです。横も裏も急斜面のブドウ畑に囲まれています。ここもテヘダとアルミハラの山脈を控えた地域ですが、地中海からも近く、涼しい海風を受けています。標高は500~850m。急斜面にあるため、ところどころに土留めの低い石垣が築いてあります。樹齢が80~100年という古い畑ですが、樹は小さめで、コンパクトな形をしています。「ポダ・ラストレラpoda rastrera」と呼ばれる剪定法で、ラストレラは這い広がるとか地面すれすれのという意味です。ブドウの実が熟していく夏場は日射が強いので、樹高を低くして、ブドウの房が葉の陰に隠れるような形に剪定しているとのことです。
土壌はピサラPizarra、つまり粘板岩土壌ですが、それが砕けた石ころというか、石片のような状態になっています。急斜面を登ろうとしてみたのですが、靴底の下でガジャガジャと崩れそうな音が立ち、足場があまりにも悪いので、すぐに諦めました。けれどもここで働く人はこの急傾斜のガジガジの石の斜面を登ったり下りたりしなければならないので、技術の慣れが必要な、大変な重労働です。栽培しているのは主にモスカテル・デ・アレハンドリアです。
この日試したワインは「アリヤナスAriyanas」ブランドです。「辛口シュールリAriyanas Seco Sobre lías」はモスカテル・デ・アレハンドリア100%のフレッシュでフローラルなワインです。次は「ロメ・ロサドAriyanas Romé Rosado」。ロメRoméというマラガの希少な黒ブドウの地場品種で造った辛口で、これもシュールリ8か月です。骨格のしっかりしたミネラル感のあるワインです。最後は甘口の「ナトゥラルメンテ・ドゥルセNaturalmente Dulce」です。モスカテル・デ・アレハンドリアを天日干ししたものを使用。発酵を、酒精強化ではなく、温度を下げることによって止めます。ナトゥラルメンテ・ドゥルセを樽熟したのが「テルーニョ・ピサロソTerruño Pizarroso」、つまり粘板岩質テロワールという、そのものずばりの名前のワインです。「ベントミス」の畑の土壌を表現する地場品種モスカテル・デ・アレハンドリアのエッセンスのようなワインです。
≪マラガのワイン3へ続く≫