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ウティエル・レケーナ:ボバルの地 Utiel-Requena:Tierra de Bobal(前半)

原産地呼称(DO)ウティエル・レケーナはスペインの地中海沿岸地域バレンシア州の内陸にあるワイン産地です。フェニキア人によって伝えられたワイン造りの歴史は2,700年。現在32,000 ha近くあるブドウ栽培面積の3分の2を占める地場品種の黒ブドウ、ボバルからは素晴らしいワインが造られています。ますます品質を上げているその裏にはワイン・メーカーの努力、そしてブドウ栽培とワイン醸造のスペシャリストたちも一つになった地域全体の推進力がありました。タイトルを「ボバルの地」としたのは、ウティエル・レケーナが歴史的にも経済的にもワインなしでは語れない地であり、その中心にあるのがボバルだからです。現地では「Tierra Bobal: https://tierrabobal.es/」(これもボバルの地という意味)というエノツーリスモEnoturismoの組織も統制委員会と連動して活動しています。

DOウティエル・レケーナの対日プロモーションをお引き受けしたのは2019年でした。テーマは地場品種ボバル。コロナのパンデミックの時期を乗り切り、今、5年目を迎えています。

今回の現地取材は、2024年のプロジェクト、「DOウティル・レケーナのボバル情報をオンラインで発信」の情報収集が目的でした。ここでは訪問したワイン関係各種公的機関、2024年対日プロモーション参加ボデガ13社をご紹介しますが、これは予告編です。2024年は、今回の取材をベースに、DOウティエル・レケーナの日本語版ホームページhttps://www.vinos-utiel-requena-jp.com/ をベースにSNSで情報を発信していきます。

 

9月19日(火)

スペインの高速鉄道AVEでマドリッドのアトチャ駅を19:25発のはずが20分ほども遅れて発車。到着予定20:57からはるかに遅れて到着しました。レケーナ・ウティエル(原産地呼称名と順番が逆)駅では、DOウティル・レケーナ統制委員会事務局長のカルメン・ロレト・カルセル・ペレスCarmen Loreto Cárcel Pérez、通称カルミナさんが満面の笑みで待っていてくれました。

この時、駅の外は真っ暗。さらに、すごい豪雨と絶え間ない稲光。前日には大粒の雹に襲われた地域があって、ブドウ畑は壊滅状態とのこと。どちらも夏と秋の間の季節にある現象だそうで、この雨のせいで、翌日は収穫がお休みになりました。

豪雨の中到着したのはボデガ、ベラ・デ・エステナスVera de Estenas: https://veradeestenas.es/です。今年の聖週間Semana Santa(4月2~9日)にオープンしたばかりのワイナリー併設のホテルに泊めていただきます。

今回のDOウティエル・レケーナ滞在は9月19日から26日までですが、その間に4軒のワイナリー併設ホテルの宿泊が含まれていました。今スペインではエノツーリズムEnoturismoが盛んで、ブドウ畑やワインの醸造所を見学し、試飲をしたり料理とのペアリングを楽しんだりするコースが一般的ですが、ベラ・デ・エステナスのように、収穫時期ならブドウの収穫とブドウ踏み体験が含まれたコースもあり、大人気です。

この日、ホテルの入り口ではオーナーのフェリックス・マルティネスFelix Martínez Rodaさんが待っていてくださって、猛烈な雨をくぐり、スーツケースを持って駆け込みました。

 

9月20日(水)

初日は快晴。スタートは原産地呼称ウティル・レケーナ統制委員会訪問です。今回のプログラムは前出のDO統制委員会事務局長カルミナさん、広報のビクトリア・ナバロVictoria Navarro さんとロレナ・モンテアグドLorena Monteagudoさんがアテンドしてくださいました。

統制委員会の建物はもと醸造所で、円形構造のため、ボデガ・レドンダBodega Redonda=円形醸造所と呼ばれています。ここで会長のホセ・ミゲル・メディナ・ペドロンJosé Miguel Medina Pedrón氏にご挨拶させていただきました。その後、会議室で現在進行中のプロジェクト「バロラ・ボバルValora Bobal=ボバルの価値を評価しよう」の説明を受けました。このプロジェクトは統制委員会が科学調査高等機関=Consejo Superior de Investigaciones Científicas (CSIC)の協力を得て行うもので、その主任ディエゴ・イントリヒロDiego Intrigioloさんと、研究員ラウル・フェレルRaúl Ferrerさんが現在行っているボバルのクローン研究について説明してくださいました。後日、ドローンを使って試験畑で計測作業をするスタッフと遭遇しました。

この席にはFoodex Japan 2023で統制委員会が行った「ボバルと和食のペアリング」のプレゼンテーション・ビデオでコメントを述べてくださったソムリエのマヌエラ・ロメラロManuela Romeraloさんも参加してくださいました。

次は全員でベラ・デ・エステナスへ移動。醸造家でもあるフェリックス・マルティネスさんはこの地域で最初にボバルで熟成タイプのワインを造った方です。この日は初ヴィンテージ1998年から2021年まで10本の垂直試飲という貴重な体験をさせていただきました。ボバルが量産用品種のイメージを捨て、長期熟成の上質ワインを造れるポテンシャルの高い品種であることを証明する素晴らしいワインたちでした。

その後は各自、気に入ったヴィンテージのワイン6本を選んで前庭のテーブルに移動して木陰でランチ。共同経営者のルールデス・マルティネスLourdes Martínezさん(フェリックスさんの姉か妹)とホテルの運営とワインツーリズムを担当しているエドゥアルド・ビベス Eduardo Vives(ルールデスさんの息子でフェリックスさんの甥)さんも参加。家族経営のボデガです。

昼食後はウティエルにあるベラ・デ・エステナスからレケーナにあるマルケス・デル・アトリオMarqués del Atrio https://grupomarquesdelatrio.com/regiones/d-o-utiel-requena/ へ向かいました。ここでは醸造家のラファエル・オチャンドRafael Ochandoさんと販売担当のアンドレス・ソレルAndrés Solerさんが、品種ごとにブドウの房を用意して下さって、その品種のブドウとワインを味わうことができました。肩の張った大きめのテンプラニーリョの房に比べるとボバルの房はころんと丸くまとまった形ですが、フルーツ味が詰まっています。ボバルのワインはロゼと赤を試しました。収穫時期ならではの貴重な体験です。

マルケル・デル・アトリオはリオハを基盤とするボデガのグループで、DOウティル・レケーナではレケーナ・ワイン協同組合の一部を借りてワインを造っています。けれども地元出身のラファエルさんがワイン造りを担っているので安泰です。ちょうどブドウの房から赤いテントウムシが出てきてびっくり。これはブドウ栽培が自然に行われている証拠です。

この日の最後の訪問はウティエルの市庁舎広場の地下にある洞窟醸造所です。まさに町の中心部の地下がワインを造っていた洞窟になっています。ウティエル文化部長のホセ・ラファエル・ポンセJosé Rafael Ponceさんが案内してくださいました。かつて、この地域では、どの家も地下に巨大な穴を掘って、巨大な素焼きの壺、ティナハを据え、ワインを造って保存していました。使われなくなって以降、放置されています。地下の迷路のような空間は発掘のため境をくりぬいて通れるように開けていますが、もともとは家ごとに分かれた地下室でした。そのため地上階から地下のボデガに降りてくるための階段があちこちの隅に残っています。地上の世界と地下の世界をつなぐ階段は、現代と過去をつなぐ階段のようです。

この晩はベラ・デ・エステナスのホテルに戻って宿泊。ほっこり温かい雰囲気の宿です。

 

9月21日(木)

2日目は歴史の解明です。まずフェニキアの遺跡「ソラナ・デ・ラス・ピリーリャスYacimiento Solana de las Pilillas」を見学に行きました。DOウティエル・レケーナの“ワイン造りの歴史2,700年”の根拠になる遺跡です。案内してくれたのはレケーナ市の考古学者、アスンシオン・マルティネス・バリェAsunción Martínez Valle、通称スーシSusiさんです。巨大な岩をくりぬいて作られたというブドウ搾汁場(ラガールLagar)。ブドウを踏む場所と、果汁を集める下の槽、ブドウ皮や実を絞るために使う棒を入れる穴など、あきらかにブドウの搾汁をしたであろう痕跡が見えます。なぜこんな山の中にあるのかというと、交通の便が良かったからです。今となっては川は遥か下の谷底を流れていますが、2,700年前は普通に船にワインを積める高さにあったとのこと。海運に長けたフェニキア人ならではです。

2019年、プロモーションを手掛けた当初、DOの歴史は2,700年という試料が来ました。そのうちなぜか2,600年になり、今では2,500年という表記になっています。それはなぜ?という疑問を投げかけたところ、スーシさんがはっきり「2,700年前にはこのラス・ピリーリャスのラガールはありました。つまり既にここでワインは造られていました。その後、あちこちにワイン造りが広まっていって、2,500年前にはこの地域一帯でワイン造りが盛んになっていました」とのことでした。

続いて「レケーナ市立古文書館Archivo Municipal de Requena」を訪問。これまでDOウティエル・レケーナの歴史の説明が、フェニキアの遺跡から国土回復運動に飛び、フィロキセラに飛び、さらに原産地呼称認定に飛んでいたので、間の経緯を確認したいとお願いしてありました。古文書保管人のナチョ・ラトレNacho Latorreさんは、地域の畑が登録され、一つ一つもれなく記載されている分厚い登録帳を管理していて、この日は16世紀から20世紀初期に至る各世紀の古文書を何冊も見せてくださいました。この地域でワイン産業が途絶えることなく、重要な位置を占めてきたことが分かります。

 次はボデガ、ドミニオ・デ・ラ・ベガDominio de la Vega https://dominiodelavega.com/ を訪問。カサ・デル・コンデCasa del Conde=伯爵の家という名の立派な館がボデガになっています。専務取締役CEOのフェルナンド・メディナFernando Medinaさんが挨拶に出てきてくださいました。ボデガを案内してくださったのは醸造家のダニエル・エクスポシトDaniel Expósitoさん。今年の収穫がタンクに入っているところを回って、発酵中のマカベオとか、いろいろ試させていただきました。バリックの他、アンフォラや小型の円錐台形の木樽とか、いろいろなタイプの槽を使っていました。

 続いてチョサス・カラスカルChozas Carrascal https://chozascarrascal.com/へ。畑の中にすくっと建つショールームはシャープなデザインでガラス張りです。ここは若いマリア・ホセMaría Joséとフリアン Juliánのロペス・ペイドロLópez-Peidro兄弟が先頭に立って走っています。輸出部長のアルトゥーロ・ブラスコArturo Blascoさんも若さいっぱい。ボデガの設備もどんどん新しいアイデアを取り入れています。卵型のセメント容器はよく見ますが、ここではそれが斜めになったタイプを使っていたりします。対流が良いのだそうです。地場品種ボバルではワインだけでなく化粧品シリーズも製作販売しています。

 この日の最後はパゴ・デ・タルシスPago de Tharsys https://pagodetharsys.com/ です。ボバルで造るブラン・ド・ノワールのスパークリングワインのボトルにギリシャ神話の怪物(もと美人三姉妹の一人)のメドゥーサの絵の陶板が掛けられたタルシス・ウニコTahrsys Únicoはデザインが目を惹くだけでなく、中身も素晴らしいワインです。ここは共同経営者の一人がアナ・カルロタ・スリアAna Carlota Suriaさん、醸造家も、案内してくださった輸出部長のミリアム・ヌニェスMiriam Núñezさんも、従業員の半分も女性とのこと。随所に個性的なアイデアが見えるのは、そんなセンスが関係しているかもしれません。この夜はパゴ・デ・タルシスのホテルに1泊させていただきました。ボデガとは別棟で、庭の離れのような佇まいの建物です。部屋はすっきりモダンなデザインでオシャレでした。

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